
植物が繁茂している蕪島ウミネコ繁殖地。市は今後も環境調査を継続する方針=2022年5月、八戸市鮫町
八戸市教育委員会は、同市鮫町の「蕪島ウミネコ繁殖地」で本年度実施した環境調査報告書をまとめた。従来、ウミネコ繁殖に悪影響を与えるとの指摘があったアブラナ繁茂との関係について、悪影響を示すデータは得られなかった-とした。調査を実施した八戸工業大学の鮎川恵理准教授(植物生態学)は「範囲を広げて継続的な調査が必要」と指摘している。
地元関係者の間では従来、植物のアブラナが繁茂しすぎると、ウミネコの親鳥がうまく飛べなかったり巣を見つけられないなど、繁殖に影響を与える-との指摘があったものの、十分な調査は行われてこなかった。こうした中、市教委は、蕪島の植生に適切に対処する上での基本的データを得る目的で調査を実施した。
鮎川准教授によると、アブラナの密度は4月中旬~5月上旬に高く、その後は徐々に減少。背丈が伸びる4月中旬~5月下旬は、ウミネコの巣や卵が増える時期と重なる。
調査によると、アブラナの密度が一定以上高い場所でウミネコのひなが巣立つ割合が高い傾向が、調査区8カ所のうち6カ所で見られた。8カ所の調査区のうち、蕪嶋神社から西南西の調査区で最も多い6割近いひなが巣立った。
また、アブラナの背丈が最大になる5月下旬~6月上旬はひなを育て始める時期と重なったが、5カ所の調査区でひなの巣立ちは極端に減少することはなく、アブラナの背丈がウミネコの繁殖に悪影響がある傾向はうかがえなかった。
一方、アブラナの密度や背丈が極端に高い調査区2カ所では、ウミネコの営巣は見られなかった。
鮎川准教授は「アブラナの密度が高まることによって、ひなが外敵から身を守ったり風雨をしのげる場所ができたのでは。条件によるが、ひなの生存にはある程度の植物の密度が必要」と報告書について説明。「ウミネコを守るためには蕪島の生態系全体を把握しなければならない。調査を今後、ウミネコ保護に生かせれば」と話す。
市教委は4月中旬に検討会議を開き報告書についての意見交換を行うほか、今後のウミネコ調査の方法などを検討する予定。報告書の内容は2024年度までの策定を目指す保存活用計画に盛り込む。
【調査の概要】
昨年4~12月、八戸市教育委員会から委託された鮎川准教授が代表を務める研究チームが実施した。5メートル四方の調査区を蕪島島内の8カ所に設定し、アブラナの背丈や密度を記録。ウミネコのひなの巣立ちへの影響を調べた。卵がふ化してひなが生まれた後、30日間生きた場合を「ウミネコのひなが巣立った」と定義した。