北野武監督の右腕、メディア初取材で語った仕事術 - 処理能力とのシンクロと批評の目

北野武監督の右腕、メディア初取材で語った仕事術 - 処理能力とのシンクロと批評の目

  • マイナビニュース
  • 更新日:2017/11/13
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●会議の末席で物語の構築をサポート

映画『アウトレイジ 最終章』(公開中)に携わるスタッフたちの言葉を記録し、「アウトレイジ」シリーズ、及び北野武監督率いる北野組の魅力を探る短期集中連載「暴走の黒幕」(第1回:北野武 第2回:森昌行プロデューサー 第3回:音楽・鈴木慶一 第4回:美術・磯田典宏)。最終回となる第5回は、『BROTHER』(01)から参加し、「アウトレイジ」シリーズ以降の北野映画でチーフ助監督を務めている稲葉博文氏。

『アウトレイジ ビヨンド』(12)のラストをどのように締めくくるべきか。助監督として監督に伝えた「それだと『仁義なき戦い』ですよ」という一言がシリーズの方向性に影響を与え、大友の暴走は『最終章』で決着することとなる。北野監督が「優秀」と一目置く“右腕”が、メディア初のインタビュー取材で「北野組」と「監督・北野武」の魅力を語り尽くす。

○口述の書き起こしから始まる助監督の仕事

――先日、北野監督にスタッフとの接し方について話をうかがったのですが、その時に「うちの助監督は優秀だからね」とおっしゃっていました。

とんでもないです。やめてください(笑)。

――本当ですよ(笑)。具体的には、セリフを直してもうこともあると。

お聞きになってると思うんですけど、監督は口述されるんですよ。これは本当にすごいことで。1本の作品を頭からすべて語っていくわけです。もちろんメモのようなものはいただいたりするんですが、僕が立ち会わせていただく打ち合わせでは、シーン1からすべてセリフも含めて説明されます。僕はそれを文字に起こして、齟齬があるセリフは少し直させていただいています。

――まさに私のような仕事というか。

言ってみればそういうことですね。聞き漏らせないので、録音もします。監督の説明が2時間ぐらいだったりすると、「今回の映画の尺はそのくらいなんだな」というのも何となく分かります。

――音楽の鈴木慶一さんもおっしゃっていましたが、一堂に会しての打ち合わせなので、たまに監督のコメントが自分の担当分野についてのものなのか分からない時があると。各担当の方々もそうやって参加されているんですね。

そうですね。僕も録音を後で聞き直したりしています。

――具体的にどんな作業からスタートするんですか?

「アウトレイジ」シリーズ、『龍三と七人の子分たち』(15)でチーフをやらせていただいています。企画が立ち上がって監督とプロデューサーが台本を作っていく過程で会議の末席に座らせてもらって、監督の話を聞いて物語の構築をサポートする役割です。1回目の打ち合わせでまとめた資料をもとに、2回目からは頭から確認していく流れです。月に1回ぐらいのペースで4~5回。そうやってシナリオを練っていきます。

――北野組ならではの手法なんですか?

他の映画ではあまりないと思います。

――初めて担当された時、率直にどう思われましたか?

北野組には『BROTHER』から参加させていただいているんですが、チーフになる前は僕の代わりをされている方がいて、そのやり方を引き継いでいます。

――監督のやり方は変わってないということですね。

そうですね。ただ、台本を作り上げずにその場でやっていくのが長きにわたって北野組で行われてきたことなので。僕は『BROTHER』からなんですが、その時からちゃんと台本は用意されていました。もちろん薄いんですが(笑)。

――準備できることも限られていそうですね。不安になりませんか?

そうですね。突然思いつかれたりすることに対応が求められる現場です。1週間で焦って準備したり(笑)。180度異なる方向転換でも、みんなついていきます。

○スケジュール完了で「終わった」

――音楽の鈴木さんは「引き算」の表現方法を学んだとおっしゃっていました。セリフも無駄なところはカットしていくそうですね。

防波堤で軽トラが走っていくシーンがあるんですけど、軽トラの音が入ってないんですよ。これは監督が「外してくれ」と言ったから。防波堤を描く一枚画の中でいらないのは軽トラの音。つまり、音に限らず、要素として必要のないものは「画の中に存在するものでも省く」。それが北野監督のやり方です。普通なら、画の中にあるものはすべて入れたいと思いますよね。

●『ビヨンド』ラストシーンで北野武に進言したこと

――以前からそうなんですか?

そうですね。撮り方もそうですが、常に「シンプル」を意識していらっしゃると思います。

――「アウトレイジ」は北野映画で初のシリーズ。多少やりやすくなることも?

ロケ場所が同じ場所になったりすると多少は楽になります。あとは「物差し」ができる。山王会の事務所がこのぐらいの広さだったら、花菱会の広さをどうすべきかとか。

――北野監督は編集がいちばん楽しいとおっしゃっていました。別の作品なのですが、あるスタッフの方は試写を観てようやく自分の仕事が終わると。助監督としてはどのあたりで肩の荷が下りるんですか?

どのあたりでしょうね(笑)。スケジュールを切っている立場からすると、それがすべて完了した時に「終わった」とは感じます。文字通りのクランクアップ。ただ、スケジュールは他の組よりわりと楽だと思います。みなさん空けてくださるので。そういう意味では恵まれています。

――それでは助監督として一番のご苦労は?

大変なこと……やっぱり天気ですね(笑)。晴れてくれればいいなといつも願っています。ただ、北野組はツイてるのでいつも晴れるんですよ。

――確かに防波堤での釣りのシーンも好天。いいロケーションでしたね。

防波堤は最終日の撮影でした。監督は晴れ男ですからね(笑)。とはいえ、雨が降ることも想定しないといけないので、そこの準備も含めると大変ではあります。

――『ビヨンド』の時に『最終章』の構想は固まっていたそうですね。

そうですね。撮影の中盤あたりから、だいたい次の作品の話がはじまります。でも僕は、「監督、まだ撮影終わってませんよ(笑)」という役割です。

○「それだと『仁義なき戦い』ですよ。菅原文太と同じです」

――監督はご自身を介護老人タイプとおっしゃっています(『全思考』幻冬舎文庫より)。これだけの作品を一緒に作っていくとどこかでお友だち感覚になるので、仕事上の付き合いであることを意識していると。

僕もどちらかというと考え方は同じで。他の監督でもそうなんですが、シンクロすることは大事なんですが、一方で批評の目も大事だと思います。絶対的に他者の目でその作品に臨む。なあなあで監督を褒めて監督の望むことを100%やるのは実は正しくないのではないかと。僕等が加わったことで、その作品に何かしらの良い影響をもたらした時に、初めて僕らの存在価値が生まれる。どういう場所でもそうですが、「こういう考えもありますよ」と問いかけることができるのが僕の立場。それは忘れてはならないポイントです。みなさんプロの方々なので、基本的には北野組の求心力でまとまっているんですが、「一歩立ち止まって見る」という一貫した視点があります。

――監督に問いかけたことで覚えていらっしゃることは?

『ビヨンド』のラストシーンですね。もともと大友は、片岡の銃を受け取って葬儀会場に入っていく予定でした。僕からは、「それだと『仁義なき戦い』ですよ。菅原文太と同じです」と言わせていただいて。ロケハン先で『仁義なき戦い』を観てもらって、「こうなってます」と。

――ロケハンで(笑)。どんな反応でしたか?

「もう一度考えてみよう」みたいなことをおっしゃっていました。

――北野監督を取材してあらためて思ったんですが、自分たちが小さい頃から観てきた方が目の前にいて、いつもなら仕事に徹することができても、そういう平常心を突き破ってくるような存在感があるというか。ただ、北野組に入ったらそんなこと言ってられないということですよね。

そうですね。もちろん緊張しますよ。でも、それは置いといて(笑)。

――でも、北野監督に進言するのは相当な勇気を伴いそうですね。

なかなかシビレますよ(笑)。でも、監督は立場関係なく意見は聞いてくださるので。

――あとはあまり怒らないとも。

そうですね(笑)。基本的にはすべてスムーズです。

●「アレどこにやった?」の理解力

――『BROTHER』から加わると決まった時はどう思われましたか?

学生時代から観ている映画監督ですし、北野組は前から参加したいと思っていたのでうれしかったです。

学生時代から映画作りに関わって、いろいろな現場のお手伝いをしていたんですよね。その時にカメラマンさんに「好きな映画監督は誰なんだ」と言われて、亡くなられた監督を数名挙げたんですが、「そうじゃなくて、お前が仕事をしてみたいのは誰なんだ」と。そこで答えた方の一人が北野監督でした。

――なぜ一緒に仕事をしてみたいと?

それはもちろん、映画が面白いから。どうやって撮ってるんだろうとか。実際にこうして現場に入らせていただくようになって、その場その場で変わっていくのを目の当たりにした時は衝撃でしたね。今でも覚えているのは、加わって間もない頃。ものすごく前から大きなクレーンを準備していたんですよね。でも、監督が入ってきていきなり「それ、いらない」。もうね、「えっ!?」ですよ(笑)。それはすごく覚えていますね。衝撃的でした。もちろん上では話し合われていたことですけど、当時の僕はペーペーだったので。

今の僕は監督の傍について、変更があってもその過程を把握しているから驚かないですけど、下の人間にとってみれば「なんでいらなくなったの?」と思うことはあると思います。今回の『最終章』でいうと、部下の2人が急きょ殺されることになったんですが、それも撮影中に決まったこと。事前に渡された台本には書かれていないことですから、当然驚きますよね。セリフも現場判断で変わって、変更があるセリフは紙に書いてキャストのみなさんに渡しています。

○老夫婦のような関係を追い求めて

――北野組初のシリーズものが完結。クランクアップはどのような雰囲気でしたか?

通常だったらスタッフが声がけをして拍手みたいな感じですよね。花束を渡したり。それは普通にやりますよ。でも、昔から打ち上げはないんですよね。少なくとも僕が加わった時からありません。もちろん、メインスタッフと一緒に地方に行ったりした時にたまにお酒を飲むことはあります。監督も連れて行ってくださいます。これがね、緊張して酔うんですよ(笑)。そういう緊張感は作品を重ねても変わりません。

――それでは最後に。助監督から見て、北野監督の魅力とは?

とにかく処理能力がすごい。その上、映画以外の分野にも手を広げている守備範囲の広さというか。台本を作るときに口述で全部言ってみせるというのも、常人ではマネできません。

助監督はみんなそうだと思うんですけど、監督が「アレどこにやった?」とかの「アレ」がだいたい分かる。それは老夫婦のような関係。そういうことは、助監督にとってとても大切なことだと思っています。つまり、「アレ」までには流れがあって、何が必要なのかというのを一緒にシンクロして理解している状態。それが監督と助監督の良好な関係性です。

■プロフィール

助監督 稲葉博文(いなば・ひろふみ)

1973年2月16日生まれ。神奈川県出身。北野組には『BROTHER』(01)以降参加し、助監督としては『アウトレイジ』(10)『アウトレイジ ビヨンド』(12)『龍三と七人の子分たち』(15)に続き4作目。北野武以外にもこれまでに携わってきた監督は、廣木隆一、中田秀夫、三池崇史、滝田洋二郎、黒沢清、塩田明彦、万田邦敏、青山真治、冨永昌敬、水田伸生、瀬々敬久など多岐にわたる。近作は、『ミュージアム』(16/監督:大友啓史)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17/監督:廣木隆一)など。

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