いまこそ9.11を語ろう 映画「ナインイレブン」監督インタビュー

いまこそ9.11を語ろう 映画「ナインイレブン」監督インタビュー

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  • 更新日:2017/09/17
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「ナインイレヴン 運命を分けた日」(新宿武蔵野館、丸の内TOEIほか全国公開中) 配給:シンカ、協力:松竹 (c)2017 Nine Eleven Movie, LLC

9.11に遭遇した6人の運命を描いた映画が公開中だ。惨劇から16年後の制作の意味とは──。監督もキャストも悩み、考え抜いた。

2001年9月11日、ワールドトレードセンタービルのエレベーターに乗り合わせた人々を描く「ナインイレヴン 運命を分けた日」。実話を基にした舞台劇の映画化だが、企画が持ち上がった当初、マルティン・ギギ監督(52)は躊躇したと話す。

●俳優たちも悩み抜いた

「9.11を描くのは時期尚早ではないか、という疑念はありました。でもあれから16年。私たちは次の世代に何が起きたのかを伝える責任がある。あの日、正しい振る舞いをしたヒーローたちに敬意を払い、彼らの物語を描かねばと決心したのです」

俳優たちも監督と同じく「いまこれを語るべきか?」と悩んだ。主演のチャーリー・シーンは一度オファーを断ったという。

「『いい脚本だけど僕には出演できない』と。彼はニューヨーカーで、9.11で友人を亡くしてもいるのです。最終的には『脚本に少し手を加えていいなら』と承諾してくれました」

エレベーターに閉じ込められるのはウォール街の実力者、バイクメッセンジャーなど人種も背景も異なる人々だ。そんな彼らがあのとき何を感じ、どう行動したのかがつぶさに描かれる。チャーリーの友人でやはり生粋のニューヨーカー、ウーピー・ゴールドバーグも脚本に共鳴し、出演を決めた。撮影中も迷うたびに俳優やスタッフと話し合い「描くべきだ」と励まし合った。

「あの事件が起きて、その後世界がどうなったかは歴史に刻まれている。私が伝えるべきなのは巻き込まれた人々のヒューマンストーリー。そこを徹底的にリアルに描きました」

「なぜ、いま?」の問いには9.11の記憶が、怒りや憎悪を再び増幅させるのではという懸念もあるだろう。ましてトランプ政権下、自国第一主義が声高に叫ばれ、イスラム教徒や移民への差別や排除の声があがる時代だ。

●遺族に怒りはないのか

「映画を作り始めたときにはまさかトランプが当選するとは思ってもいなかったのですけどね……。9.11のときにはアメリカだけでなく世界中が『世界をよりよい方向にするために』気持ちをひとつにした。そのことをみなさんに思い出してほしかったんです。他者を断罪したり、差別や偏見で決めつけるような風潮にブレーキをかけるべきだと伝えたかった」

監督自身もかつて両親とともにアルゼンチンの軍事政権を逃れてアメリカに来た移民だ。

「アメリカは堅固な民主主義の国で、だからこそ振り子の振り幅が異常に大きい。ブッシュからオバマ、そしてトランプへと極端に右に左に振れる。私はいまの状況が永遠に続くとは思っていませんが、やはり現状には危機感を覚える。アメリカのみならず世界の人々が『人として何が大事なのか』にいま一度立ち返り、精神的な成熟をすることが急務だと感じます」

大勢の9.11関係者に取材をしたが、憎悪を感じたことはないという。

「一様に感じたのは悲しみ、そして他者への思いやりです。遺族からは『ある種の運命であり、さだめだった』という声を多く聞きました。犠牲となった彼らは世の中をよりよくするためのシンボルとなってこれからも歴史に刻まれていくんだ、と」

監督とキャストの真意と誠意はニューヨーク市や遺族コミュニティーも動かし、彼らのサポートを受けることもできた。映画の収益の一部は9.11被害者のケアのために寄付される。

「いまは確信をもって言えます。まさにいまが、このストーリーを語るべき時期だ、と」

(ライター・中村千晶)

※AERA 2017年9月18日

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