築地の「カラスの餌」が豊洲で「希少部位」に! 驚きのマグロ消費史

築地の「カラスの餌」が豊洲で「希少部位」に! 驚きのマグロ消費史

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/11/20
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トロや赤身だけでなく、中落ち、脳天、アゴ肉などはいかが──。

東京・JR中野駅から少し離れた飲食街に出現したおしゃれな若者向けの店「マグロマート」は、本マグロの希少部位専門の料理店。2019年7月のオープン以来、若者を中心に大人気で、なかなか予約が取れないほどの盛況ぶり。開店の午後5時を過ぎると、店内はあっという間に人で埋め尽くされてしまう。「希少部位」をめぐる流通の事情を、時事通信水産部長が深掘りする。

人気の希少部位をSNSで披露

ガラス張りの大きな窓を店外から見ると、明らかに女性客が多いことに気付く。テーブルには、マグロの刺し身が目立つが、中には真っ赤なマグロの身が、骨付きで皿の上に乗っている。その身をスプーンで削って楽しそうに食べるカップルや女子たち。スマートホンで撮影し、さっそくSNSにアップしながら楽しむ姿が散見される。

テーブル上にある骨付きのメニューの正体は「本マグロ中落ち」だ。

じつはこの店、魚の料理屋(居酒屋)としては珍しく、料理のほとんどがマグロの希少部位。中落ちをしのぐ人気メニュー「マグロマート盛り」は、脳天やアゴ肉、ホホ肉などが分厚くカットされ、まな板のような木の皿に乗せられ、客席に運ばれていく。

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東京都中野区のマグロ料理店「マグロマート」で一番人気の「マグロマート盛り」

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中落ちの仕入れはゆっくり豊洲へ

東京・築地市場(中央区)から移転して1年を経過した江東区の豊洲市場へ、マグロマートのオーナーである平島瑠尉さん(36)は毎日のように、材料を仕入れに行く。豊洲へ行くというから、さぞかし早い時間かと思いきや、午前10時ごろに顔を出すのだとか。重役出勤なのか?

仲卸店も店じまいの時間が近付くころではないか、と平島さんに問いかけると「トロなんかを仕入れるわけじゃないので、あまり早くても……」といった具合。なるほど、そうか、言葉は悪いが「余りモノ・売れ残り」を集めに行くということか。

中落ちなど、マグロの希少部位について数十年のキャリアがある仲買人に聞くと、「ひと昔前までは、ほとんどが廃棄物だった。中骨にはたくさん身が付いているから、削り集めて従業員らで食べることはあったが、ほかは捨てていたことが多かった」。

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生マグロの卸売場(旧築地市場)

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たしかに築地市場では、仲卸店の端の方にマグロの頭や尾がまとめてタルに入れられており、粗末に扱われていた。

ゴミとして運ばれる際、運搬中に「ターレ」などからこぼれ落ちたのだろうか、それとも故意に捨てられたのか、マグロの頭などが市場内の通路に無造作に置かれ、市場が静けさを取り戻す午後、カラスがついばむ光景も日常茶飯事。希少部位といった扱いではなかったことが思い出される。

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マグロを満載したターレ(旧築地市場)

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「ザギンでシースー」の最盛期

いったい築地時代から何が変わったのか──。

まず、マグロそのものの売れ行きが、以前とは大きく違っていた。遡ること30年ほど前。バブル経済期には、今とは比べ物にならないほど、マグロは「飛ぶように」売れた。「1日に1000万円以上の売り上げは珍しくなかった」と、ベテラン仲卸は懐かしそうに話す。

築地からほど近い東京都中央区、証券会社などが乱立する茅場町近くの寿司店では、店内で寿司を握ろうとしても、ネタがなくなるほど寿司の出前の注文が入った。「1日300人前以上の注文が頻繁に入っていたため、しゃかりきに寿司を作った。中でもマグロはネタの中心。トロや赤身は、築地でたくさん確保しておかないと、注文に応えられないから余計に仕入れていた」(店主)という。

銀座の街も接待やら何やらで、飲食店は好景気。「今日もザギンでシースーか?」と業界用語らしい言葉も飛び交う中で、寿司ネタの王道・マグロ人気は最高潮に達していた。その需要にあやかろうと、国内外で取れたマグロは「築地へ運べば間違いない」と、日本一の魚市場へ集められ、他にない高値を付けられながら、常に次の荷を待ち受ける状況だった。

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混雑する旧築地市場内の通路

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マグロを巡るさまざまな壁

マグロを食べ尽くす浮かれた時代は、そう長くは続かなかった。

まず「日本は世界のマグロを絶滅に追いやっている」といった欧米を中心とした保護団体の「外圧」が、急激に大勢力となって立ちはだかり、ワシントン条約やマグロの国際機関で、保護策が話し合われたのは90年代初め。

すでに商業捕鯨が禁止され、捕鯨再開を求める日本の声も反捕鯨国に打ち消され「マグロをクジラの二の舞にするな」というのが水産関係者で常套句となっていた。マグロの資源管理強化を訴える風当たりが強まったのに加え、バブル崩壊による景気の低迷も重なって、次第にマグロ人気にも陰りが見えはじめたのだ。

その後は、日増しに高まる資源保護論やリーマンショックなどを背景に、マグロをはじめとした魚介類の消費低迷の流れは収まらず、ついに日本も今から10年ほど前、国民1人当たりの魚消費量が肉に追い抜かれるという「魚離れ」が決定的になった。マグロ業界も窮地に立たされる中、皮肉にも世界的には、和食ブームに乗っかって魚消費はうなぎ登りとなった。

国内で回転寿司は人気だが、ノルウェーサーモンの人気上昇もあって、「ハレの日にマグロ」という神話もどこへやら。簡単に振り返れば、こうしてマグロ人気は頂点から墜落し、流通にも大きな影を落とすようになったわけだ。

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ノルウェーのサーモン加工場 Photo by Getty Images

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この十数年で、マグロの浮いた話といえば、「築地・豊洲」の初競りで、青森県大間産の本マグロに1億5000万円とか、3憶5000万円とか超高値が付いたことくらい。

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2019年の「初競り」で落札された本マグロ Photo by Getty Images

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養殖マグロも台頭し、天然・国産本マグロといえど、必ずしも魚市場の主役ではなくなった。

希少部位へ昇格の軌跡

こうしたマグロをめぐる事情から、かつては「副産物」「端材」とも呼ばれてきた部位は次第に「希少部位」へと大きく格上げされることに。築地でも移転までの10年ほどで、ずいぶん希少部位の認知度が高まり、仲卸でも多くの店先に置かれるようになっていった。

マグロの希少部位は、種類が豊富。たとえば頭部なら、頭が良くなると言われるDHA(ドコサヘキサエン酸)や血液をさらさらにするEPA(エイコサペンタエン酸)たっぷりの目玉や「目の裏」と呼ばれるゼラチン質をはじめ、脳天やその下の鉢ノ子、ホホやアゴ、カマトロ、ノド裏なんて部位も食べられる。

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希少部位が取れるため豊洲市場で重宝されるようになったマグロの頭

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頭以外ならヒレや尾の身も十分おいしい。このほか、マグロの皮だって食べられる。

千葉県浦安市にある鮮魚店「泉銀」の店主で、魚にまつわる曲を披露する音楽活動も行っている森田釣竿さん(芸名・45)は、以前からマグロの希少部位にこだわった商売をしてきた。「マグロを余すことなくいただこう!」をコンセプトに、店頭にはさまざまな部位が並べられている。

きめ細かく消費者に説明

豊洲市場直送のマグロを仕入れ、トロや赤身を切る際に出る端材の利用にもこだわりを持ち続ける森田さん。「マグロの命をいただいているという気持ちを大切にしたい。工夫すれば、おいしく食べられる部位が多いため、細かくお客さんに(調理法を)教えながら食べてもらっている」と話す。

器用な手先で、マグロの頭やさまざまな部位から、少しでも食べられそうな部分を切り出して、パック詰めにする。それを目当てにする常連客も少なくないため、店頭に陳列したらすぐに接客。歌うのと同じように、メリハリの利いた喋りで、追及した希少部位の可能性を分かりやすく説明する。

「マグロのカマは、塩焼きか煮付け。ホホ肉はステーキがお薦め。筋がある尾の身はカレーや空揚げ用にするといい。表面の黒っぽい皮は湯がいて千切りにし、酢みそで食べるとおいしいし、あぶってもいい。腹の薄皮はいいだしが出るから、お吸い物に最適」(森田さん)などと、客に丁寧に教える。値札にも簡単な説明を表記するなど、きめ細かい対応で人気となっており、マグロの有効利用に一役買っている。

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千葉県浦安市の鮮魚店「泉銀」店頭には、多種類のマグロの部位が説明付きで並んでいる。

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希少部位も含めてマグロの魅力を知り尽くす魚のプロにとっては、中落ちや脳天などは決して珍しくないかもしれない。

だが、今、豊洲市場のほか中野区の若者向けの飲食店、さらに築地界隈でも希少部位が日の目を見るようになったのは、マグロだけでなく魚全体の消費が落ち込んでいることと無関係ではなさそうだ。

マグロの希少部位が日本の水産業を救う

かつてのように魚を味わわなくなった日本の食事情。「肉と比べて割高だから」「調理が面倒だから」「ごみが出るから」「調理法が難しいから」。その要因は数々挙げられているが、おいしいと分かっていれば、また食べたくなるのだろう。だが一度おいしいと知っても、調理法が分からなければ仕方がない。

景気が良く、マグロが飛ぶように売れたかつての築地市場では、マグロのプロの多くが希少部位をないがしろにしてきたといっていい。その結果、多くが消費者まで行き渡らなかったのだ。おいしさに加えて、食べ方に関する情報が魚市場で途切れてしまっていた。

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旧築地市場の仲卸で切り分けられたマグロの赤身

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だがこれまで述べてきたように、今は違う。豊洲市場でも手間をかけて『端材⇒希少部位』を切り出し、調理や食べ方に関する情報を積極的に出すようになった。

豊洲の仲卸をよく見ると、希少部位を店頭に並べながらまるで小売店のように「刺し身、ステーキ、角煮用」などとプロを相手に用途まで書いた札を置いている店もある。中には「お通し用に」などと店での扱い方まで薦めている。

移転から1年以上が経過した豊洲では、移転前に掲げた水産物の取扱量が目標を大きく下回っており、「当面は量より質で勝負」(卸会社)と考え方を切り替える向きもある。

質とは何も高級魚だけをそろえることだけではない。マグロの希少部位のような売り方や薦め方もあるのではないか。つまり日本全体の魚消費低迷への打開策のヒントが、マグロの中落ちや脳天の扱いに隠されている。

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