カモからの借金を、ネギからの借金で返す話

カモからの借金を、ネギからの借金で返す話

  • MONEY PLUS
  • 更新日:2018/02/15

「ある水曜日、サギ君は5万円が必要になりました。そこでサギ君は、昔からの友人であるカモ君にこう持ちかけました。『5万円を貸してくれない?次の土曜日には返すから』。こうしてサギ君は、カモ君から5万円を借りることができました。ところがサギ君は金欠が解消しないまま土曜日を迎えてしまったのです。そこでサギ君は、やはり昔からの友人であるネギ君にこう持ちかけました。『5万円貸してくれない?次の水曜日には返すから』こうしてサギ君はネギ君から5万円を借り、カモ君には5万円を返しました。しかしサギ君の金欠はまだ解消しません。そこでサギ君は次の水曜日にカモ君を呼び出して……」

これはベンガル人作家チャクラボルティの短篇『カネが必要なら借りろ』の冒頭を筆者が独自に翻案したものです(参考:日経サイエンス2014年9月号「経済に潜むポンジ詐欺」)。物語はこのあと水曜日のやりとり(カモ君から借りた5万円でネギ君からの借金を返す)と土曜日のやりとり(ネギ君から借りた5万円でカモ君からの借金を返す)とが不毛に繰り返されることになります。しかしある出来事で物語が急展開するのですが……続きは後ほど。

今回の記事では、この物語を軸にして、海外発信の経済記事でよく登場する言葉「ポンジスキーム」(Ponzi scheme:詐欺的な資金集め)について、掘り下げてみます。

ポンジスキームとは?

最近、国際経済の要人による発言で、ポンジスキームという言葉をよく耳にします。多くは、ビットコインなどの仮想通貨について批判する発言です。

例えば世界銀行のジム・ヨン・キム総裁は「仮想通貨の圧倒的多数は基本的にポンジ・スキームだと聞いている」(2018年2月7日/ブルームバーグ同8日記事より)と述べています。国際決済銀行(BIS)のアグスティン・カルステンス総支配人も「(ビットコインは)バブル、ポンジ・スキームおよび環境破壊が混じったもの」(同6日/ロイター同7日記事より)との批判を展開しました。ポンジスキームの意味を知らない人でも、以上の発言を俯瞰することで、これが悪い意味だと理解できるでしょう。

実際、ポンジスキームとは「詐欺手法のひとつ」を表します。したがって以上の発言者たちは、いずれも「ビットコインは詐欺である」と批判しています。

ではポンジスキームとはどういう種類の詐欺なのでしょうか?そしてその詐欺に、どうしてポンジスキームという名前が付いているのでしょうか?

カモへの配当を、ネギからの出資で払う

短篇『カネが必要なら借りろ』でサギ君が持ちかけていたのは「借金」でした。しかしポンジスキーム界のサギ君が持ちかけるのは「投資」です。「5万円投資してくれたら、毎月1万円の配当を払うよ」とか、そんな類(たぐい)の話を持ちかけるのです。

ここではサギ君がカモ君に出資話を持ちかけたとしましょう。しかもサギ君はカモ君から預かった出資金を「一切運用する気がありません」。それでも最初の5ヶ月は、カモ君からの出資金5万円を切り崩しながら、カモ君へ毎月1万円の配当を支払うことができます。しかしそれだけでは6ヶ月目に出資金が底をついてしまいます。

そこでサギ君は、ネギ君にも出資話を持ちかけることにしました。その際サギ君は「カモ君には毎月配当をきちんと支払っているんだよ」と説明します。その説明に嘘はないので、ネギ君はサギ君の言い分を信じてしまいました。こうしてサギ君は、まんまとネギ君からも出資金を受け取ることに成功するわけです。そこからの2ヶ月間、サギ君はカモ君とネギ君への配当を各1万円(計2万円)払うことが可能になります。

この仕組みは、サギ君が新たな出資者を継続的に集めることさえできれば、破綻なく継続できます。さらに出資者の人数が多ければ、それだけサギ君がピンハネする金額も大きくできます。しかしこの仕組みは新たな出資者が集まらなくなると、一気に破綻への道を歩むのです。

もうお気づきのことでしょう。ポンジスキームとは日本語でいう「自転車操業」や「出資金詐欺」に近い意味の言葉なのです。

稀代の詐欺師、ポンジ

ではこのような詐欺手法のことを、どうしてポンジスキームと呼ぶのでしょうか。

ポンジスキームのうちスキーム(scheme)の方は、日本語でもよく聞く表現ですね。これは「大きな枠組みを伴う計画」を意味する言葉で、例えば事業スキーム・連携スキームなどの複合語もよく登場します。しかしながらポンジスキームでいうスキームには「陰謀」や「たくらみ」の意味があります。

一方のポンジは、実在の詐欺師カルロ・ポンジ(Carlo Pietro Giovanni Guglielmo Tebaldo Ponzi)の名に由来します。

1882年にイタリアで生まれ、1903年に米国に移住。1919年に国際返信切手券を対象とする投資ビジネスを立ち上げました。彼は「90日間で40%の利回り」(具体的数字には諸説あり)などと宣伝。その結果、数百万ドルの出資を受けることに成功します。しかし彼は出資金を一切運用せず(のちに国際返信切手券の購入に充てた金額はわずか30ドルだったことが判明している)、新しい出資者から得た出資金を、以前からの出資者への配当に充てていました。

元祖スキームの破綻

そんななか米国の金融誌『バロンズ』が彼の投資ビジネスに根本的な瑕疵があることを指摘します。というのも、国際返信切手券への投資でポンジが喧伝する運用益を確保するためには、当時発行されていたすべての国際返信切手券の6倍の量が必要だったのです。

この報道がきっかけとなり、彼の投資ビジネスが破綻。騙された多くの家庭が破滅に追い込まれ、ボストンにあった6つの銀行も破綻してしまいました。結局ポンジは詐欺罪で有罪となり、刑務所に入ることになったのです。

それにしても犯罪行為の由来が人名であるとは、なんとも不名誉な話ですよね。実は言葉の世界にはこの種の命名が時折現れるもの。私的制裁の暴力を意味する「リンチ」(lynch)には実在人物を由来とする説がありますし、出来レースを意味する「八百長」(やおちょう)は明治時代に実在したと思われる八百屋の店主・長兵衛が由来とされています。

和訳「ねずみ講」は適当か?

ところで英和辞典のなかには、PonziやPonzi schemeの訳語として「ねずみ講」という言葉を充てているところもあります。ただこの訳し方は、やや不正確かもしれません。

ねずみ講とは「会員をねずみ算式に増やし、子会員が講元・親会員などに順次送金することを繰り返して巨額な利益を得ようとする金融組織」(明鏡国語辞典・第2版「鼠講」より)のこと。親会員←子会員←孫会員←ひ孫会員といった具合に階層を作り、その階層ごとに集金を行うところに大きな特徴があります(例:集金したお金の半分を親に、半分を自分の懐に入れるなど)。ちなみにこの階層からの連想で、ねずみ講のことを英語でpyramid scheme(ピラミッドスキーム)とも表現します。

しかしポンジスキームの場合、出資者の間に明確な階層構造は存在しません。カモ君とネギ君のどちらも、サギ君に出資金を渡しているからです。もちろんネギ君以降に声をかけられるほかの人物も、サギ君に出資金を渡すことに変わりはありません。したがってポンジスキームをねずみ講と訳すのは「厳密には誤り」ということになります。

ただポンジスキームとねずみ講には類似した点もあります。それは「あとで参加した人ほど損をしやすい」構造です。

ポンジスキームのサギ君は、当初出資者に対してきちんと配当を払っていました。しかしそのスキームが破綻した場合、ピンハネしたサギ君は大儲けして、配当をきちんともらった初期の出資者(おそらくカモ君やネギ君)は小さく儲けたか小さく損をしたかの状態にとどまり、後期の出資者は配当がほぼ得られず大損しているわけです。この後期の出資者の状況は、ねずみ講における末端会員の状況(新規会員を集められず入会金の分だけ損している)によく似ています。

この「あとで参加した人ほど損をしやすい」というイメージも、ポンジスキームという言葉を理解するうえで欠かせない観点でしょう。

【悲報】サギ氏、カモネギと鉢合わせ

ところで冒頭のサギ君ですが、水曜日と土曜日のやり取りを何回か繰り返したのちに、ちょっとしたピンチに陥ってします。

「ある日サギ君が道を歩いていると、交差点でカモ君とネギ君の両方に鉢合わせしてしまいました。そこでサギ君はとっさに一計を案じ、カモ君とネギ君にこんな提案をしたのです。『これからは、水曜日にカモ君からネギ君に直接5万円払ってよ。逆に土曜日にはネギ君からカモ君に直接5万円払えばいいからさ』。意味が分からずポカンとしているカモ君とネギ君をよそに、サギ君は立ち去っていきました」……さてこの物語では誰がいくら得して、誰がいくら損をしているのでしょうか?

参考:日経サイエンス2014年9月号「経済に潜むポンジ詐欺」など

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