ついに"新しい1キログラムの時代"が幕をあけた!

ついに"新しい1キログラムの時代"が幕をあけた!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/05/28
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世界計量記念日は「質量維新」の記念日にもなった!

今日、2019年5月20日は「世界計量記念日」だが、今日から「キログラム」の新しい定義の運用が始まった。これまでの「キログラム」はリセットされ、まったく新しい、不変の質量基準の時代を迎えたのである。これは、実に130年ぶりの質量単位維新だ。

日本での度量衡(度は長さ、量は容積、衡は重さ)の総元締めは、産業技術総合研究所(産総研、つくば市)の計量標準総合センター(NMIJ)だ。ここで30年にわたって新しいキログラムの定義に取り組んできた藤井賢一さん(工学計測標準研究部門・主席研究員)に長時間のインタビューを行ったのは先月のことだが、先週、その藤井さんが出張先のフランスからメールを届けてくれた。

「今週はキログラムの定義改定などを協議する国際会議に参加するため、BIPM(国際度量衡局、フランス・セーブル)に来ています」

「今日(16日・木曜日)からは、キログラムの定義を司る質量関連量諮問委員会(CCM)の本会議が開催されています」

「主に、定義改定後、どのようにして世界に新しい質量の基準を普及させるのかについての議論が行われています」

メールに添付されていた写真の1点はその本会議の様子で、もう1点は会議場で撮影した藤井さんのショット。

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質量関連量諮問委員会(CCM)の本会議(2019.05.16) 写真提供:藤井賢一

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会議場での藤井さん(2019.05.16) 写真提供:藤井賢一

その写真には、「Pavillion du Mail」というパネルの字が読めた。

これは、どういう意味なのかと質問を送ったところ、

「質量関連量諮問委員会が開催されているBIPMの大会議室の名前です。名称の由来を知っているフランス人はいなかったんですが、BIPMのMartin Milton局長が教えてくれました」

「1875年のメートル条約発足とともに、フランスのセーブルに国際度量衡局が設置されました。ここはパヴィヨン・ド・ブルトゥイユ男爵の所有地であったため、〈ブルトゥイユ男爵のパビリオン(Pavillon de Breteuil)〉と呼ばれてきたそうです」

「だが、それ以前、フランス革命の頃までこの一帯はメールさんという貴族の所有地だった。今回の国際会議に使われている大会議室には、そのより古い時代の呼称、〈メールさんのパビリオン(Pavillon du Mail)〉が使われているのだそうです。」

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フランス・セーブルに立地する国際度量衡局 出典:BIPM

国際度量衡局がすでに144年を経ている歴史的な存在であることを物語るエピソードだ。

優等生「キログラム原器」が揺らいでいた!

1875年(明治8年)5月20日。パリで世界17カ国が「メートル条約」に署名。それにもとづいて、質量と長さの単位を世界共通のものとする時代が開始した。

日本では1958年まで尺貫法の利用が認められていて、貫、両、匁という独自の質量単位が使われていたが、メートル条約以前のフランスでも、質量の単位はおよそ100もあったという。各国がバラバラな質量単位を使っているのでは、貿易などで大きな支障をきたす。また、1kgを測るハカリも、世界いかなる場所でも同じ1kgを表示してくれないと困る。

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1kgを指す、山根宅のキッチンにあるハカリ 写真・山根一眞

A店で買った金塊1kgをB店に持ち込んだところ、「900gしかありませんね」となっては経済取引は成り立たない。

そこで、メートル条約にもとづき、キログラムは1879年(明治12年)に「キログラム原器」(イギリスが製作)の質量と定義された。

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「キログラム原器」のレプリカを見る藤井さん。以下は産総研が公開したキログラム原器の映像だhttps://www.youtube.com/watch?v=stR--tsxh_o写真・山根一眞

キログラム原器は白金とイリジウムの合金で厳密な管理下に置かれており、10万年は質量が不変と言われ、度量衡の世界では最優等生とされてきた。世界各国にその複製が提供され、世界はこの原器をもとにキログラムを運用してきたのだ(日本は4台保有)。

ところが、不変のはずの優等生、キログラム原器の質量が「1億分の5」ほど変化していることが明らかとなった。原因は不明だが、空気中のホコリやカビなどの有機物の付着、また何らかの原因で原子数が増減したという意見もある。

1キログラムの「1億分の5」の変化など大したことないと思えるが、科学と技術は、原子1個を操作するなど、ナノ(10億分の1)、ピコ(1兆分の1)、フェムト(1000兆分の1)の時代を迎えている。質量の計測に「1億分の5」のゆらぎがあるキログラム原器に頼っていたのでは、これからの科学技術のイノベーションの大きな障害となる。

「物理法則」による定義決定でキログラムはビリ

また、国際度量衡局が定めている7つの「SI基本単位」、長さ(メートル)、質量(キログラム)、時間(秒)、電流(アンペア)、熱力学温度(ケルビン)、物質量(モル)、光度(カンデラ)のうち、キログラム原器のような「物」を基準としている単位は、キログラムだけになっていた。

たとえば1メートルは、かつては北極から赤道の距離の1000万分の1と「地球という物」をものさしにしていたが、1983年に真空中で1秒の2億9979万2458分の1の間に光が進む距離と定義が変更されている。

地球は不変の物ではなく、そのサイズは月の引力によってわずかに変動している。そこで地球という「物」ではなく、「光の速度」という不変の物理法則を基準にするようになったのだ。

では、キログラムだけがなぜ「物」を、130年間も使ってきたのか。藤井賢一さんはこう説明した。

「キログラムを物理法則で決定するのは至難のわざで、私たちが生きているうちには実現できないだろうとすら、言われていましたから」

だが、やっとそれが達成でき、昨年、2018年11月20日、国際度量衡委員会が新しいキログラムの新定義を採択したのだ。

今回採択された新定義とは、どういうものか?

では、その新定義とは……。

国際度量衡委員会によるキログラムの新定義

2019.05.20

プランク定数の値を正確に

6.62607015×10-34 ジュール・秒

と定めることによって設定される。

国際度量衡委員会によるキログラムの新定義 作図:山根一眞

このキログラムの新定義、一見して「理解できた!」という一般の人はほぼ皆無だろう。「1メートルとは真空中を一定の時間に光が進む距離」という定義と比べ、雲泥の差どころではない難解さだ。

このプランク定数の値を求める挑戦を続けてきた専門家たちの苦労と努力は想像を絶するもので、核燃料施設でのシリコン同位体の濃縮、人類が手にしたことがないほど丸いシリコン球の研磨、そしてその球の原子数を数えるといった信じがたい仕事が30年も続けられてきたのだ。

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キログラムの物理定義を決定するために使われたシリコン球 写真:山根一眞

今日、2019年5月20日の「キログラム」の新定義の運用開始は、産総研のチームを初めその実現を目指してきた各国の研究者たちにとっては、重力波の観測成功に匹敵するほどの凱歌なのである。

それにしてもこのシリコン球、「キログラム原器」に代わる「新キログラム原器」に思えてしまうが、まったく違うのである。

次回は、この難解で気絶するようなキログラム新定義を手にするまでの30年の歩みを紹介する。

〈中編に続く〉

キログラムの新定義のために使われた「シリコン球」(オリジナルは約1億円)のレプリカと「キログラム原器」のレプリカは、以下で見ることができます。

産総研・サイエンス・スクエアつくばhttps://www.aist.go.jp/sst/ja/index.html

福井県年縞博物館(特別館長・山根一眞)でも産総研の協力で「シリコン球」(レプリカ)を期間限定(5月20日〜7月29日)で特別展示。常設展示にはキログラム原器(レプリカ)もあります。

福井県年縞博物館http://varve-museum.pref.fukui.lg.jp/

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新しい1キログラムの測り方科学が進めば単位が変わる

臼田孝

絶対に変わらず、誰にとっても納得できる「重さ」の基準とはなにか? 最先端の科学がその難題に挑みます。

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