映画『すみっコぐらし』異例の大ヒットのウラにある「3つの誤解」

映画『すみっコぐらし』異例の大ヒットのウラにある「3つの誤解」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/11/21
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前週比150%、勢い未だ止まらず

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』の快進撃が続いている。初週では大作洋画に続き3位の高順位で発進したが、2週目の土日では前週比150%を記録。初めて映像化された子供向けアニメ映画がここまで話題になるのは異例と言えるだろう。

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(C)2019 日本すみっコぐらし協会映画部

また、レビューサイトでは子供のみならず大人からも高評価が相次いでおり人気が拡大、こぞって絶賛している。本作の何がそこまで大人たちの心を掴んだのか。その理由を探っていきたい。

『すみっコぐらし』は、デザイナーであるよこみぞえりが学生時代に書いた落書きを原案として生まれたキャラクターだ。“しろくま”などのキャラクターがデフォルメ化されて動き回る姿を見るだけでも楽しいのだが、よこみぞはインタビューにて「可愛いだけではないのが弊社(サンエックス)のキャラクターの強み」と答えているように、それぞれのキャラクターには個性がある。しろくまであれば人見知りで寒がり、ペンギン?は自分が何者かわからずに自分探し中……などといった個性が、よりキャラクターの魅力を強くしている。

従来のキャラクター達は自信に溢れ、前に出て行くイメージがある。だが、今作は名前の通り“すみっこ”が好きなキャラクター達の誰かが主人公になることなく、全員が主役を譲り合うように動き回る。

結果として”全員が主役”という群像劇となるのだが、それが奥ゆかしく感じて親近感がわくだけでなく、キャラクターたちの悩みに大人が共感するのだろう。<自己啓発や自分を売り出すこと=中央にいくこと>を重要視される世の中に疲れた大人に癒やしを与えてくれる、現代を象徴するキャラクターとも言えるだろう。そういったすみっコ達が集まってできた優しい世界が観客を魅了した。

成功をもたらした巧みな「設定」

とはいえ『すみっコぐらし』を映画で知り、初めてすみっコに触れるという人も多いはずだ。その点で重要なのが映画オリジナルキャラクターである”ひよこ”の存在だ。

物語の主軸になるキャラクターが必要だが、今作はすみっコの中から選ぶのではなくひよこの自分探しを中心に展開する。ひよこの詳細はすみっコファンも知らず、すみっコ達と一緒にその正体を考察する楽しみもあり、また初見の観客は完成されたコミュニティに入り込んでいくひよこに対するすみっコたちの優しさに惹かれるのではないだろうか。

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(C)2019 日本すみっコぐらし協会映画部

本作の物語の成功の要因は、“絵本の中”という設定にあるといえるだろう。

(1)キャラクターコンテンツとしてグッズ展開の可能性
(2)子供も大人も楽しめるストーリー性
(3)物語の暗喩の込め方

(1)に関しては本作の絵本の中に入ったキャラクターたちのグッズを制作することでコンテンツとしての幅が広がり、鑑賞後にぬいぐるみなどを販売するという商法だ。

物語として唸らされたのが(2)である。『すみっコぐらし』は敵を倒す、親を見つけ出すなどの大きな物語が設定されているわけではない。そこで絵本の世界を導入することで、絵本の物語性を獲得すると共に「行って帰る物語」として大きな枠組みができる。

また、題材となった作品も有名であり、子供にも大人にも届きやすいのも利点だ。鑑賞中に子供からは「赤ずきんちゃんの世界にいるとんかつは心配だな」という、元となる物語を知るからこその反応もあった。

作品に深みを与えるという点において(3)も見逃せない。作中で赤ずきんの世界に迷いこむのはとんかつとえびふらいのしっぽであるが、2人(?)は誰かに食べられることを夢見ている。

一方で敵となるオオカミは赤ずきんを食べる存在であるが、とんかつたちはむしろ食べられたいのですすんで食べられにいく。その様子に恐れを抱いたオオカミは逃げ出し、それをとんかつたちが追いかけるという描写がある。作中ではコメディとして描写になるが、赤ずきんも食べてしまうオオカミにすら、普通の食べ物なのに食べてもらえないとんかつ達の姿に悲壮感がある。

また、物語の転換点では絵本という世界観を活かした真実が明らかとなっており、落書きから生まれたキャラクターだからこそできる物語となっているほか、子供の創意工夫の意欲も育てる教育的な映画の側面もある。

ヒットの陰に潜む「3つの誤解」

ただ、本作のヒットの陰には「3つの誤解」があったように筆者は感じられる。

1つ目は、まるで『すみっコぐらし』が急に人気の出たコンテンツのように扱われているということだ。近年はゆるキャラなどのご当地キャラクターも定着し、キャラクター産業は2017年で2兆4千億円規模であり、『すみっコぐらし』もその例外ではなく、市場規模で言えば2019年は200億円に達している。スマートフォンアプリゲームなど各種グッズも発売されており、今回が初の映像化とあって楽しみにしていたファンも多いのではないだろうか。

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(C)2019 日本すみっコぐらし協会映画部

これは結果論になるが、むしろ114館という公開規模が小さすぎたのではないだろうか。また、公開時期もファミリー向けアニメ映画は3月から5月ごろのGW付近や8月の夏休みシーズンに多いものの、秋は『プリキュア』シリーズくらいしかなく、ちょうどそこにハマったことも大ヒットの要因の1つといえるだろう。

2つ目の誤解はTwitterの口コミだ。公開初週には『#逆詐欺映画』などがトレンド入りし、大きな話題となったが、中には作品の本質とかけ離れたツイートが飛び交った印象がある。

Twitterの性質上、過度に煽るような強い言葉がよりリツイートされ、拡散される傾向にあるが、本作は特にそれが多かった印象がある。皮肉ながらそれが大きな宣伝効果となり映画を見にいった、あるいは映画の存在を知った観客も多かったのではないだろうか。

奥深い子供向けアニメ映画の世界

3つ目の誤解は子供向けアニメ映画に対する、大人たちの視線だろう。本作が素晴らしい作品であることは疑いようがないが、では子供向けアニメ映画として異例の作品なのか? と問われると、そんなことはない。

むしろ本作のようなテーマ性やメッセージ性を内包した子供向けアニメ映画は他にもある。筆者の贔屓目もあるだろうが、暗喩の使い方やメッセージ性の強さなどを鑑みると、大人向けの実写映画よりも子供向けアニメ映画のほうが平均的にレベルが高いようにも思われる。

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(C)2019 日本すみっコぐらし協会映画部

本作を語る際に日本でも大ヒットを記録している話題作『ジョーカー』を挙げる人もいる。同作では「社会からも孤立している存在にどう接するのか?」といったテーマを指しているように思われるが、こうしたテーマはけっして目新しいものではない。

実際、『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いを込めて』や『若おかみは小学生』などでは、「孤独な環境にいる相手への接し方」をテーマに扱っている。誰も仲間外れにしない、孤独な存在に優しく接するというのは子供向けアニメ映画全体に共通するテーマだ。

今作のヒットはキャラクターコンテンツ大国である日本にとって大きな意味をもたらすのではないだろうか。2019年は『鬼滅の刃』がアニメ化に成功し、『ONE PIECE』が11年続けたコミックス年間累計売上ランキング1位の座を奪取する見通しだ。映像コンテンツの成功は作品の知名度や人気を飛躍的に挙げることはよく知られているが、他のキャラクターコンテンツも後に続けとなるかもしれない。

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