東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門 (12) 金融機関と長期的に取引することで得られるメリット

東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門 (12) 金融機関と長期的に取引することで得られるメリット

  • マイナビニュース
  • 更新日:2017/10/13
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前回は、融資以外のデットファイナンスの選択肢について説明しました。今回は金融機関と長期的に取引することで得られるメリットについて解説します。

業績が同等の「過去に融資の返済実績がある企業」と「融資を受けたことがない企業」を比較した場合、返済実績がある方が心証は良いとよく言われます。ファイナンスの世界では「過去の実績は将来のパフォーマンスを保証しない」と考えますが、事実が企業の実力を傍証すると言えばよいでしょうか。金融機関との取引実績を蓄積することで、企業がメリットを享受できる場面があります。(1) 金額、(2) 金利、(3) 保証の3点について整理します。

○(1) 金額

ベンチャーキャピタルから出資を受ける際、シリーズA・B・C…… とラウンドを重ねながら追加の資金調達が可能であるのと同様に、融資の世界でも繰り返し資金調達することができます。返済スケジュールを忠実に守り、業績が伸びていれば、金融機関側から「追加の資金ニーズはありますか? 」とオファーがあります。

よくあるシナリオとして、半年単位の賞与資金の融資から始め、1年単位の短期運転資金の融資へステップアップし、毎年金額を増やしながらゆくゆくは長期運転資金の借入を狙うという方法があります。賞与資金の融資は、一時的な大きい出金となる賞与の支払いを、融資の枠組みを通じて出金形態を分割返済へと変換し、財務負担を平準化するために利用されます。

もうひとつのアプローチは、制度融資のスキームを活用して最初の資金調達を長期運転資金として借り入れ、分割返済で融資残高が程よく減った時期を見計らって再度長期の融資を申し込み、手元資金を積み増すという考え方です。入口が短期資金であっても長期資金であっても、返済実績と将来の業績に対する期待感が肝となります。

取引先の金融機関を増やして融資残高を増やすことも考えられます。経営を安定させるために融資を受ける金融機関を増やすことには、大きな意味があります。一方で、最初に融資を受けた金融機関の心証をできるだけ悪化させずに、ふたつめの金融機関から借り入れをしたいと思うことも人情です。メインバンクから「親密先の金融機関を紹介します」という言葉をいただければ、財務担当者も安心できるのではないでしょうか。

融資残高が積み上がれば、収益を独占できる状態であっても単独で全リスクを負いたくないと、貸し手が考える瞬間がいつか訪れます。エクイティファイナンスにおけるリードベンチャーキャピタルに相当する役回りを、デットファイナンスではメインバンクが担うことがあるのです。最初に融資をうけた金融機関からお墨付きをいただけるほどに実績を積めば、チャンスが広がります。

注意点として、「肩代わり融資」を避けることが挙げられます。既存の借入の全額返済を条件に、低利で大きな金額の融資を提案する金融機関があります。提案された条件を受け入れるか否かは経営判断なのですが、仮に応じた場合、全額返済された既存の取引先からは二度と融資を受けられないことを覚悟した方がよいでしょう。商取引は経済合理性だけではなく印象論にも左右されることがあります。期待していた収益を失った企業が、その原因となった相手に対して先々どのような行動を取るか、想像してみてください。短期的な利益を優先するあまり、将来の備えを疎かにしないよう留意しなければなりません。

○(2) 金利

融資を長期に渡って続けることで、利率を下げる余地が生まれます。主な要因を2つ挙げるとすると、ひとつはリスク評価の精緻化、もうひとつはボリュームディスカウントになります。融資の実行中は定期的に経営報告をするため、貸し手の借り手に対するリスク評価は時間の経過とともに精緻化されます。取引開始当初、金融機関は万一の際の損失を最小化するべく、安全を見込んで金利は高く設定し、リスクは大きめに見積もります。情報が蓄積されるにつれてリスク評価がより正確になり、妥当な水準へと金利が収斂する可能性があります。

また、融資のボリュームが大きくなれば、多少利率を下げても金利の金額は大きくなる状況を作ることができます。交渉次第ですが、ボリュームディスカウントを要求できるよう長期的に融資残高を積み上げていくことが大事です。他の融資条件を譲ることなく、金利を下げる要請をしても応じていただけません。貸し手にもメリットがあるかたちをイメージしながら、合意点を探ります。

○(3) 保証

融資の保証に関する理想的なストーリーは、制度融資を入口として取引を始めて、信用保証協会保証付き融資から個人保証付きプロパー融資へと着実に進み、最終的には無保証を目指すことでしょう。中小企業が融資の全額を無保証とすることは至難の業ですが、融資の一部について無保証とすることは十分に可能です。

サラリーマンの生涯年収が推計されるように、個人が一生のうちに稼ぐことができる金額には限界があります。限界水準を超えた個人保証は、言葉を選ばずに表現すれば空手形であり、意味を為しません。限界を超過した部分について、他の融資条件と引き換えに保証を外す交渉をする余地があります。

長期的な融資取引を通じて信用を獲得できれば、保証の条件を変化させることができます。

金融機関と長期的に取引することで得られるメリットについての説明は以上です。次回は金融機関とのコミュニケーションについて解説していきます。

※写真と本文は関係ありません

○執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。

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