小売店、なぜあえて窮屈化の傾向? スイーツ店、なぜ狭い道の前だと売上増?

小売店、なぜあえて窮屈化の傾向? スイーツ店、なぜ狭い道の前だと売上増?

  • Business Journal
  • 更新日:2017/09/15
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「混雑」というと、特定の空間内にいる人の多さ、すなわち「人混み」を思い浮かべる方が多いと思います。人混みは、必要とする空間が、大勢の人がいることによって確保されない経験的状態と定義されます。

しかし、心理学では混雑が人混みだけでなく、「物理的な空間の狭さ(空間的込み具合)」を含めた2つの次元で構成され、後者が前者の感じ方の規定要因であると捉えています【註1、註2、註3】。人混みが消費者行動に与える影響については、すでに2017年1月17日付本連載記事で取り上げているので、今回はこの空間的狭さに着目したいと思います。

消費者による店の空間的狭さの評価は、広狭といった店内の特性だけでなく、店の周辺状況も含みます。広々とした大通り沿いにある店、狭い道沿いや路地裏にある店、階段を下りたところにある店など、周辺環境が空間的狭さの全体的評価に影響するからです。一般に、そうした空間的狭さは、消費者の店の選択には影響しても、店が提供する商品の選択には無関係と思われがちです。しかし、消費者行動研究ではその関係が存在することを明らかにしていますので、以下では、それらを紹介したいと思います。

●狭い空間と選択する種類

まず、空間的狭さは選択する商品の種類の多さに影響することが明らかにされています。リバヴらとチューは、ある作業をしてもらった後に、お礼として好きなスナック菓子を選んでもらうという実験を行いました【註4】。スナックはスニッカーズやキットカットなどの6種類のスナックバーで、それぞれ10個ずつ別々のボウルに入れられ、通路の先にあるテーブルの上に置かれました。

この通路は、室内につい立を使ってつくられた長さ約4.5mのもので、狭い通路(約1m)と広い通路(約2m)を用意し、被検者にはどちらかの通路を通ってもらいました。その結果、狭い通路を通った被験者のほうが、広い通路を通った被験者よりも、選択したスナックバーの種類が多くなったことが示されました。また、通路を狭く感じた被験者ほど、選択した種類が多くなったことも報告されています。

リバヴらはさらに、NPOへの寄付を対象とした実験も行い、狭い通路を通った被験者のほうが、無名のNPOに対する寄付の意向や寄付額が高くなったことを明らかにしています。これは、狭い空間を通ったことにより、未知のモノへの関心や選好が高まったことを示しています。

ではなぜ、狭い空間にいると、より多くの種類や無名のモノを選びたくなるのでしょうか。それは、2017年4月4日付本連載記事で紹介した「リアクタンス理論」で説明できます。リアクタンス理論は、人は自分の行動の自由が抑制される状況に置かれると、心理的抵抗感(リアクタンス)を覚え、抑制された自由を回復しようとする現象を説明します。狭い通路は窮屈で自由が抑制されたように感じさせるので、そこから心理的抵抗感が生じ、自由を回復するためにいろいろなモノを自由に選びたいという欲求が強くなったということになります。

これらの結果を踏まえると、狭い店では商品の品揃えを豊富にすると顧客の満足度を高められること、また、新製品や無名の商品を販売する場合には、狭い通路沿いの棚や狭いスペースに陳列すると、顧客の関心を惹きやすくなることが予想されます。

●狭い空間と衝動行動

空間的狭さは、衝動買いにも影響することが明らかにされています。人は通常、狭い室内にいるときには、他者、壁、モノなどにぶつからないよう周りに注意を払いながら自分の動作をコントロールしようとします。そうすることで「何かにぶつかる」という不快な出来事を避けられるからです。これは、制約のある空間にいることによって、自己統制力が上昇することを意味します。

このように自己統制力が高い状態にある場合、この統制力が無関係の別の行動にも波及することがあります。心理学ではこの現象を「抑制的スピルオーバー効果(inhibitory spillover effect)」と呼んでいます【註5】。

シュウとアルバラシンはこの効果に着目し、狭い空間にいるとスイーツなどの快楽的消費の誘惑に強くなることを分析しています【註6】。実験では窓のない2つの部屋、すなわち大部屋(約14平方メートル)と小部屋(約2.8平方メートル)を用意し、被験者をどちらかの部屋に案内しました。そして室内では、ブラインドテストと称し、高カロリーで砂糖の含有量が多いチョコボールの味見をしてもらいました。チョコボールはボウルの中に20個入れられており、好きなだけ食べることができます。

その結果、大部屋にいた被験者のほうが、小部屋の被験者よりも食べた量が多くなったことが示されました。小部屋にいた被験者は自己統制力が高まり、それがチョコボールの消費という衝動行動にも波及し、消費量を抑えたということになります。

このことから窮屈に感じさせる店では、健康やダイエットをアピールした商品や健康的なメニューを提供すると、それらに対する顧客の消費意欲が高くなるので、満足度も高まることが予想されます。

●抑制的スピルオーバー効果vs. 自我枯渇効果

ところで、前述した抑制的スピルオーバー効果は、自己統制する2つの行動、すなわち自己動作とスイーツ消費が同時に発生しているときに見られました。このような2つの統制が同時ではなく、連続して起きる場合には、抑制的スピルオーバー効果よりも「自我枯渇効果(ego-depletion effect)」が生じることが別の研究によって実証されています【註5】。

自我枯渇効果とは、自己統制によって精神的なエネルギーが消耗するため、統制後は意志力が弱まり、その後の行動を抑制しにくくなるという現象のことをいいます。トゥクらは、メタ分析という手法を用いて多数の調査結果を分析し、2つの自己統制行動が同時発生する状況では抑制的スピルオーバー効果が、連続して発生する状況では自我枯渇効果が存在することを確認しています。

この結果は、スイーツなど、食べ過ぎないよう自己抑制が必要とされる快楽的消費では、狭い空間の中では抑えられても、その空間から解放された後は食べ過ぎてしまう可能性があることを示しています。したがって、スイーツ店は、狭い道から出たところやエレベータから出たところにあると、自己統制力が弱まると共にスイーツの消費意欲が高まるので、売り上げが増えることが予想されます。

以上見てきたように、店内や周辺の空間的な狭さによって顧客の商品選択が変化することがあるので、こうした要因に着目した品揃えを検討してみるのもいいかもしれません。

●店の大きさについて

最後に、店の大きさの大小について触れたいと思います。もしも、大きい店と小さい店のどちらが好きかと聞かれたら、大きい店を選ぶ人が多いのではないでしょうか。大きい店のほうがゆっくりと買い物できますし、品揃えも豊富です。しかし今、アメリカでは「店は大きいほうが良い」という認識が小売業者の間で失われつつあるようです。店内の一部を小規模事業者やファストフードレストランに貸したり、店内に仮設の壁を設置して床面積を減らしたりする業者が増加しているそうです【註7】。

また、大規模な店を展開することで知られているウォルマート・ストアーズは、1ドルショップやコンビニエンスストアなどの小規模店に対抗するために、2011年からWalmart expressという小規模店の展開を始めました。ただし、Walmart expressは成功とはいえない状況にあるようで、必ずしも「小規模=成功」といった単純な図式は成り立たないようです【註8】。ネットショッピングの普及もあって、消費者がオフラインの小売店に求めるものは一層複雑化しているようです。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

・参考文献
【註1】Stokols, D. (1972), “On the distinction between density and crowding: Some implications for future research,” Psychological Review, 79 (3), pp. 275-277.
【註2】Machleit, K. A., J. J. Kellaris, and S. A. Eroglu (1994), “Human Versus Spatial Dimentions of Crowding Perceptions in Retail Environments: A Note on Their Measurement and Effect on Shopper Satisfaction,” Marketing Letters, 5 (2), pp. 183-194.
【註3】Eroglu, S. A., K. Machleit and T. F. Barr (2005), “Perceived Retail Crowding and Shopping Satisfaction: The Role of Shopping Values” Journal of Business Research, 58, pp. 1146-1153.
【註4】Levav, J. and R. Zhu (2009), “Seeking Freedom through Variety,” Journal of Consumer Research, 36 (December), pp. 600-610.
【註5】Tuk, M. A., K. Zhang, and S. Sweldens (2015), “The Propagation of Self-Control: Self-Control in One Domain Simultaneously Improves Self-Control in Other Domains,” Journal of Experimental Psychology: General, 144 (3), pp. 639-654.
【註6】Xu, A. J. and D. Albarracín (2016), “Constrained Physical Space Constrains Hedonism,” Journal of Association for Consumer Research, 1(4), pp. 557-568.
【註7】Levy, M., B. A. Weitz, and D. Grewal (2014), Retail Management, McGraw-Hill Education.
【註8】“Wal-Mart unveils smaller-format Walmart Express,”Market Watch, 2011年6月2日, http://www.marketwatch.com; “Why Walmart Express hit a dead end,” CBS Money Watch, 2016年1月19日, http://www.cbsnews.com.

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