メッシに救われたアルゼンチン なぜW杯予選で苦しんだのか? 足を引っ張った協会の「ドタバタ劇」

メッシに救われたアルゼンチン なぜW杯予選で苦しんだのか? 足を引っ張った協会の「ドタバタ劇」

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  • 更新日:2017/10/12
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W杯南米予選最終節でハットトリックを決めた、リオネル・メッシ(写真:Getty Images)

2014年ブラジルワールドカップ(W杯)準優勝のアルゼンチンは、2018年ロシアW杯予選で失速に次ぐ失速を続け、W杯出場圏外の6位まで順位を落として最終節を迎えた。その相手はエクアドルで、会場は標高2800メートルのキト。勝たなければならない試合だが、アルゼンチンは高地が苦手。しかも、早々と先制を許してしまった。そのピンチを救ったのはリオネル・メッシ。自身初となるW杯予選でのハットトリックを決め、チームは劇的な予選突破を果たした。しかし、アルゼンチンはなぜこれほど苦しんだのだろうか。

W杯南米予選は2015年の10月から始まった。そのときアルゼンチン代表の指揮を執っていたのは、パラグアイ代表監督などで実績のあるヘラルド・マルティーノだった。ブラジルW杯で母国を1990年イタリア大会以来の準優勝に導いたアレハンドロ・サベーラ監督は、健康面の不安を理由に同大会をもって勇退。その後任に、アルゼンチン協会は迷うことなくマルティーノを選んだ。初陣はホームでエクアドルに敗れたものの、その後は2引き分けをはさみ3連勝と勢いに乗った。しかし、突然辞任してしまう。

南米の王者を決める大会はコパ・アメリカ。最近は4年に一度の開催だが、2015年と2016年は連続して行われた。15年は通常の大会で、16年は100周年の節目ということで、北中米カリブの国々も参加しての記念大会だった。そして両大会とも決勝戦はチリ対アルゼンチンで、チリが連覇を飾っている。マルティーノの辞任は、この2年連続しての決勝戦敗退の責任を取ってのものだった。ブラジルW杯から3大会連続の準優勝に国民は、「銀メダルはもういらない」と代表を非難した。サポーターにとって2位とは、“準優勝”という栄えあるものではなく、“決勝戦での敗者”という位置づけだった。

チームを完全に掌握していたマルティーノが続投してれば、今日のようなことにならなかったのは間違いない。協会は後任にエドガルド・バウサを据えたが、その成績は3勝2分け3敗で、大陸間プレーオフ出場圏の5位まで順位を落としてしまう。彼は2008年にリーガ・デ・キトの監督として、エクアドルのチームを初めてコパ・リベルタドーレス優勝とクラブW杯出場に導いて脚光を浴びた。14年には、母国のサンロレンソを率いて同大会を制覇。代表監督就任前は、ブラジルの名門サンパウロFCの監督だった。ライバル意識の激しいブラジルとアルゼンチンでは、選手はともかく、相手国の人間を監督に迎えることは稀だ。それほど、彼への評価は高かった。アルゼンチン協会は、サンパウロFCに多額の違約金を払ってバウサを引き抜いた。

しかし、彼には代表監督の経験がなかった。毎日のように指導できるクラブチームと異なり、代表チームはトレーニング時間が限られている。結局バウサは、自分が望む戦術を徹底させることができず、オーソドックススタイルで戦わざるを得なかった。しかしアルゼンチン代表の戦力をもってすれば、それでも勝ち点はもっと稼げたはずだ。それができなかったのには、別の理由がある。

代表のホームゲームは、ブエノスアイレスのリーベルプレート・スタジアムで行われるのが普通だ。しかし予選が中盤になると、ブラジルやウルグアイ相手の好カード以外は空席が目立つ。そのため協会は、チケットの売り上げを増やすため、会場をメンドーサ、サンファン、コルドバなどの地方に変更した。代表のキャンプ施設はブエノスアイレスに立派なものがあり、市内での試合の際は、そこからバスで直行する。スタジアムまでは、白バイの先導で約40分。しかし地方会場で開催する場合は、前日に飛行機で移動しなければならない。メンドーサやサンファンはチリに近く、ウルグアイへ行くより時間がかかる。つまり、ホームゲームの利は失われ、選手はアウェイゲームと同じスケジュールを強いられたのだ。バウサの就任期間中、会場がすべて地方だったのは不運なことだった。

残り4試合となった今年6月から、監督はホルヘ・サンパオリに代わった。彼はチリ代表を率い、15年のコパ・アメリカを制した男。つまり、マルティーノを辞任に追い込んだ男だ。それだけに期待されたが、結果は1勝3分け。自信を失ったチームを立て直すことはできなかった。今予選でアルゼンチンが不振だった最大の要因は、得点力不足に他ならない。18試合を戦い、わずか19得点しか挙げていない。これはボリビアの16得点に次ぐワースト2の数字だ。前回の予選は開催国のブラジルが参加しなかったため、16試合と今回より2試合少ないのに、アルゼンチンは35得点をマークしていた。1試合平均2.18だったものが、1.05になってしまった。今予選、0-0の引き分けが3試合、1-1は2試合あった。この5試合のうち一つでも勝っていれば勝ち点2がプラスされ、ここまで苦しむことはなかった。

アルゼンチンは歴史的に見ても南米の強豪だ。しかも、現在のチームにはメッシがいる。したがって、ブラジルとウルグアイ以外の対戦相手は極端に守備的になる。強かった頃のアルゼンチンはこれに対し、両サイドバックを常に上げていた。純粋に守備を担当するのはセンターバック2人とボランチの計3名。攻撃に7名を投入することで、局面において数的有利を作ることができ、その結果、フリーの選手が頻繁に生まれた。フリーの選手の出現により相手は慌て、マークがずれる。そこを突いてアルゼンチンは得点を重ねていた。しかしこの戦術は、ボランチへの負担が大きい。相手がカウンターを仕掛けてきたら、素早く反応してその芽を摘み取らねばならない。この大役を果たしてきたのはハビエル・マスチェラーノだが、33歳を迎えた彼の状態が以前とは違ってきた。19歳からトップレベルで身体を酷使し続けているため、コンディションはかなり悪い。局面での対応とプレーの読みは相変わらずのクオリティーだが、カバーできるエリアは狭くなっている。そのため、サイドバックはむやみに上がれない。マスチェラーノの負担を減らすためダブルボランチにすれば、攻撃的ミッドフィルダーを1枚減らさなければならない。つまり、以前のような数的優位が作れなくなり、フリーの選手の出現も激減した。

それでも能力に優れるアルゼンチンの攻撃陣は、多くのシュートチャンスを作り出してきた。得点は挙げられなくとも、シュートは山ほど打っているのだ。しかしフリーの選手が絡まないため、相手が慌てることはない。つまり、予測されたシュートなのだ。したがって、ゴールキーパーは防ぎやすい。それでもゴールネットを揺らすためには、シュートの強さと正確性が必要となる。アルゼンチンの選手はギリギリのコースを狙い、枠をわずかに外したり、ポストに嫌われるということを繰り返した。そして最終的には、シュートに対する自信喪失という状況に陥った。それにしても、あれほど入らないのも普通ではない。何かの呪いではないかと思うほどの不運続きだった。最終節でメッシが魅せたハットトリックは、いずれも見事なゴール。これが厄払いの効果を果たし攻撃陣が自信を取り戻せば、本大会に向けて良化していくだろう。(文・ホルヘ・三村)

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