北朝鮮またもミサイル発射! 「異次元の圧力」という安倍首相の言葉の空虚さ

北朝鮮またもミサイル発射! 「異次元の圧力」という安倍首相の言葉の空虚さ

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/09/16

安倍晋三 首相
「これまでとは異次元の圧力を科すべく、取り組みを進める必要がある」
産経ニュース 9月7日

名言、珍言、問題発言で1週間を振り返る。北朝鮮がまたミサイルを発射した。15日午前6時57分頃、北朝鮮は平壌付近の順安から弾道ミサイルを1発発射。ミサイルは北海道上空を通過し、日本列島にJアラート(全国瞬時警報システム)が鳴り響いた。

結局、ミサイルは7時16分頃に襟裳岬東の沖合約2200キロメートルの太平洋上に落下。韓国軍によると、ミサイルの最高高度は約770キロメートルで、前回と同じく日本の領空圏内は通過していない。もちろん、落下したのも日本の領海ではない。

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北朝鮮のミサイル発射を報じるニュースの画面=15日午前、東京都千代田区 ©時事通信社

7日午前、安倍晋三首相は訪問先のロシア・ウラジオストクで韓国の文在寅大統領と会談を行い、北朝鮮に対するさらなる圧力が必要との認識で一致した。その際の安倍首相の言葉が「異次元の圧力」だ。北朝鮮に対する断固とした強硬姿勢の表れである。安倍首相がアベノミクスの第一の矢として掲げた「異次元の金融緩和」を思い出す人も多かっただろう。「異次元」は首相にとってマジックワードなのかもしれない。

ところが、国際社会の足並みが揃わない。安倍首相と何度も電話会談を続けているトランプ米大統領は、かねてから「全ての選択肢がテーブルの上にある」と発言してきた(BBC NEWS JAPAN 8月30日)。「全ての選択肢」とは、軍事的手段も含めるという意味だ。安倍首相はトランプ氏のこの発言を非常に高く評価している。

一方、ロシアのプーチン大統領はかねてから制裁ではなく、対話による解決の必要性を訴えている。中国も同様だ。ドイツのメルケル首相は「われわれには平和的で外交的な解決しか考えられない」と明言している(産経ニュース 9月4日)。

日本時間の12日午前7時過ぎに行われた国連の安全保障理事会は、新たな北朝鮮制裁決議を全会一致で採択したが、草案に盛り込まれていた北朝鮮への原油の輸出を全面的に禁止することや、金正恩朝鮮労働党委員長の資産凍結は除かれ、原油については過去1年分に相当する量の輸出を認める、事実上の現状維持に等しい内容に修正された。これらはアメリカが決議の採択を急ぐため、制裁に慎重な中国やロシアに譲歩したものと見られている(NHK NEWS WEB 9月12日)。

安保理決議の内容はとても「異次元の圧力」とは言えない。ところが、安倍首相は「格段に厳しい制裁決議が迅速に全会一致で採択されたことを高く評価する」とコメント。菅義偉官房長官も記者会見で「今回の決議は初めて北朝鮮への原油、石油の供給量の上限を決めた。極めて強力な内容だ」と強調した(毎日新聞 9月12日)。

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©文藝春秋

安倍首相が掲げる「地球儀俯瞰外交」とは、日本が各国との個別の関係を強化することで、橋渡しをしたり、国際世論をリードすることが目的だった。しかし、北朝鮮に対する制裁と圧力に関しては、トランプ氏としかうまく手を結べていない。15年にわたって安倍首相を取材してきたNHKの岩田明子解説委員は、「いまの危機の中にあって、ただ強固な日米関係を演出するだけでは、何のための地球儀俯瞰外交だったのか」と手厳しく批判している(『文藝春秋』10月号)。なお、トランプ氏は11月に初来日を予定しており、安倍首相との首脳会談のほか、ゴルフも計画していることが明らかになった(朝日新聞 9月13日)。

ドナルド・トランプ 米大統領
「一つの非常に小さな一歩に過ぎない。大したことではない」
朝日新聞 9月13日

トランプ米大統領は、12日に行われた国連安保理の決議について、「最終的に実現すべきことからはほど遠い」と述べ、制裁をさらに強めていく考えを強調した。決議の全会一致は評価しているものの、「大したことではない」「どんな効果があるかは分からない」としている。

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ニューヨークの国連本部 ©iStock.com

言葉の背景には、安保理決議だけでは、制裁は不十分だというトランプ氏側の考えがある。今後、米国は北朝鮮と取引を行う中国の銀行などに対して独自の制裁を行い、核・ミサイル開発の資金源を断つことを目指すという(日本経済新聞 9月14日)。

「全ての選択肢がテーブルの上にある」と発言してきたトランプ氏だが、実際に先制攻撃はできないという見方が大勢を占める。なぜなら、日本と韓国が「人質」になっているからだ。北朝鮮は南北境界線近くにソウルを攻撃できる400門前後の長距離砲を配備しており、1時間に6000発以上の砲弾を浴びせることができる。また、日本を攻撃できる弾道ミサイル「ノドン」だけで約200発を保有している。米国が先制攻撃を仕掛けたら、日韓両国は「火の海」になる(WEBRONZA 9月14日)。ジェームズ・マティス国防長官は6月、北朝鮮と軍事衝突した場合は、「1953年(の朝鮮戦争)以来、見たこともないような極めて深刻な戦争となる」との見通しを示し、「それはわれわれが根本的に望まない戦争になるだろう」と述べている(WEBRONZA 9月14日)。

在英国際ジャーナリストの木村正人氏は、国家安全保障局(NSA)長官、中央情報局(CIA)長官を歴任したマイケル・ヘイデン氏に取材し、ヘイデン氏は核危機を回避するためには「トランプ政権が北朝鮮と協議すること」しかないと語ったという(Yahoo! 個人ニュース 9月14日)。しかし、米朝がこの問題について協議する見通しは今のところない。

ロイター通信のコラムニスト、ダニエル・R・デペトリス氏は、「ドナルド・トランプ氏は、北朝鮮問題で解決策を見いだすのに失敗した歴代米最高司令官の長いリストに、新たに名を連ねる大統領となった」と記した(ロイター 9月14日)。白人至上主義者たちへの対応で非難に晒されたトランプ氏は、北朝鮮への対応でも窮地に追い込まれている。

北朝鮮 朝鮮アジア太平洋平和委員会の声明
「日本列島の4つの島は、チュチェ思想の核爆弾によって海に沈むべきだ。もはや日本は私たちの近くに存在する必要はない」
ハフィントンポスト日本版 9月14日

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©iStock.com

国連安保理の決議に対する北朝鮮の声明がこちら。米国に対しては「わが軍や人民は、米国人を狂犬のように棒で打ち殺さなければならないと強く主張している」と警告を発しているという(時事ドットコムニュース 9月14日)。

これまで「世界が見たこともない炎と激怒で対抗する」(BBC NEWS JAPAN 8月9日)、「対話は答えではない」(BBC NEWS JAPAN 8月31日)などと発言してきたトランプ大統領をはるかに上回る口の悪さだ。もちろん、安易に北朝鮮の挑発に乗ってはいけないのだが、菅官房長官は「極めて挑発的な内容で言語道断であって、地域の緊張を著しく高めるもので断じて容認することはできない」と批判した(ブルームバーグ 9月14日)。

ウラジーミル・プーチン ロシア大統領
「ロシアと北朝鮮の関係は友好と相互尊重の伝統に基づいている」
時事ドットコムニュース 9月9日

安倍首相は7日、ロシアのプーチン大統領と首脳会談を行った。「北朝鮮の問題を含め、地域の平和と安定に貢献するために話し合いたい」と語りかけた首相だったが、プーチン氏は頬に手を当てて無表情になったという(産経ニュース 9月8日)。それほどまでにロシアは北朝鮮への制裁に対して消極的だ。プーチン氏は会談後の記者会見で、「核問題の解決は政治・外交的手段によってのみ可能だ」と発言した。

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会談前に握手するロシアのプーチン大統領(右)と安倍首相=7日、ウラジオストク ©共同通信社

一方、プーチン氏は9月9日の北朝鮮の建国記念日に祝電を送っている。それが冒頭の言葉だ。安倍首相に対する態度とは正反対である。

安倍首相も出席したウラジオストクでの東方経済フォーラムでプーチン氏は、北朝鮮やモンゴルとともにシベリアを中心とする北東アジア全体の開発を行っていきたいと熱弁をふるったという。演説を聞いた飯島勲特命担当内閣参与は「オレも感銘を受けちゃったぜ」と感想を漏らしている(『週刊文春』9月21日号)。

ドリス・ロイトハルト スイス大統領
「対話の時がきている」
『週刊新潮』9月21日号

米国、日本、韓国が北朝鮮への圧力を強め、ロシアと中国がそっぽを向く中、交渉の仲介役に名乗り出たのは、スイスの女性大統領、ドリス・ロイトハルト氏だ。

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スイスの女性大統領、ドリス・ロイトハルト氏(左)と習近平(2017年5月) ©時事通信社

中立国であるスイスは北朝鮮にとって数少ない交流のパイプを持つ欧州の国。38度線の国境には今でもスイスとスウェーデンの平和監視軍が駐屯している。また、金正恩氏は10代の頃、スイスに留学経験があるが、これは正恩氏の祖父、金日成氏がかつて「(南北統一後は)欧州の中立国のようになりたい」と語っていた影響だ。欧州政治学者の田口晃氏は「北朝鮮はスイスへの思い入れが強かった。恐らく今でも水面下で連絡を取り合っていると思われます」と指摘する。

ロイトハルト氏は「制裁強化は有効ではない」とも語っているが、はたして安倍首相の言う「異次元の圧力」はどのような形で続くのだろうか?

(大山 くまお)

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