北朝鮮以下の日本のサイバー戦能力をどうするのか――オレの争点 #2

北朝鮮以下の日本のサイバー戦能力をどうするのか――オレの争点 #2

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/10/18

ここはサイバー戦にどう向き合うかというテーマを推したい。

各国が急速にその人材や人工知能システムを強化し、様々な施策を実施しているのに、我が国は非常に出遅れている分野だからである。

現実のものとなったサイバー攻撃

最近のサイバー戦の特徴は、ついに発電所や銀行の送金システム等の重要インフラへの攻撃が現実のものとなってきたことである。例えば、2016年12月には、ウクライナの発電所がサイバー攻撃によってダウンし、首都キエフで大規模停電を引き起こした。

シマンテック社は、2017年9月6日の報告書で、「Dragonfly」と呼ばれるハッカーグループが欧米の送電システムに侵入を繰り返し、既に機密性の高いネットワークにバックドア(抜け道)を仕込んでおり、いつでも支配権を奪われ、停電を起こされる可能性があると指摘している。

こうした事態に我が国も無縁でないことは、中国・北朝鮮・ロシアというサイバー大国を隣国に抱え、それらの国々からと思しき攻撃をたびたび受けていることからも明々白々だろう。実際、ランド研究所のデビッド・シラパク氏も、日中戦のシミュレーションで、日米の送電システム――特に日本のそれは脆弱と指摘している――が、中国側からハッキングされ、大停電が発生するとしている。

しかも、これから米朝の緊張が高まる可能性が大きいことを考えれば、北朝鮮が報復のリスクが低いサイバー攻撃を、韓国や日本に仕掛けてくる公算は高いだろう。その意味で、我が国にとって、サイバー攻撃は差し迫ったどころか、すでに存在する脅威なのである(ただし、筆者は、米国による年内の北朝鮮攻撃説に与するものではない)。

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サイバー戦は戦争のあり方を変える ©iStock.com

サイバー攻撃が厄介なのは、これまでの戦争の特徴であった距離や時間、一定規模の集団性といった地政学的限界をいともたやすく乗り越えてしまうのである。例えば、米軍がアフガンに駐留させる米兵1人当たりの維持費は年間1億円であった。巡航ミサイルトマホークもまた時速880km程度であり、そもそも射程の限界があった。そして、こうした遠距離に戦力を投射できるのは大国のみであった。

しかし、サイバー攻撃は四川の山奥にいる愛国的ハッカー集団であっても、ピョンヤンの一室に陣取るサイバー集団であっても、いつでも日本の発電所や金融機関を停止させることができる。つまり、国家でなくても、大国を相手取って、いつでもどこでも強大な戦力で戦うことができる。

まさしく、時と場所と主体を選ばないのである。そして、これは私たち一人ひとりにとっても無関係ではない。私たちのスマホさえ、彼らの攻撃の対象になりかねないからだ。実際、NATO軍関係者の発言として報道された内容によれば、最近のロシア軍はNATO軍兵士のスマホにハッキング攻撃をしかけ、嫌がらせをしているという。

さて、こうした状況で我が国が遅れているのは何か。とりわけ深刻なのは人材不足と議論の整理だろう。

例えば、江東区のインド系インターナショナルスクールでは、小学生にプログラミングを教えているが、日本の小学校では図画工作や家庭科のような20世紀式の授業をやっている有様だ。

また、米国では官民を問わず、自らのHPや情報システムをハッキングさせる懸賞金付き大会を積極的に実施し、その弱点を効率的に探している。同時に在野のサイバー人材を発掘して、育成するためだ。

米軍では、国防総省・陸軍・空軍のそれぞれが、総額1000万円を超える懸賞金のサイバーアタック大会を主催し、米国だけでなく、英国、カナダ、豪州、ニュージーランドといった同盟国の名だたるハッカーが参加している。

しかも、驚くべきことに国防総省と空軍の大会では高校生たちが優勝もしくは表彰されている。なんと高校生が米軍のHPを乗っ取り、ユーザーデータをすべて確保してしまっているのだ。

国防総省の大会では、高校卒業間近のデビッド・ドワーケンが最年少参加者として表彰された。彼は授業の合間にハッキングを敢行し、6つの脆弱性を国防総省のHPから見つけるのに成功し――残念ながらいずれも他の参加者が先に見つけていたので賞金は得られなかったが――、カーター国防長官から「よくぞ米国の敵よりも早く問題点を発見した!」として表彰された。

空軍の大会で優勝したのは弱冠17歳のジャック・ケーブル。彼は600人もの参加者の頂点に立ち、優勝賞金5000ドル(約56万円)を受け取った。彼は40もの脆弱性を発見し、空軍のHPを完全に支配し、内部ネットワークへの侵入に成功した。彼によれば、15歳の時に金融機関のサイトの脆弱性を「たまたま」発見し、勝手に送金できることを見つけたのがハッカーとしての始まりだったという。

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カーター国防長官から表彰される高校生ハッカー(国防総省より)

このように米国では、国防総省や空軍のHPの脆弱性を発見できる高校生が続々と生まれ、認められるようになっているのである。日本では一部の野心的な企業がコンテストを実施しているにすぎないことを考えれば、スケールの差は歴然としている。果たして、我が国でこうした高校生が多数出現し、何より自由に活躍できるのだろうか。

もう一つは、議論の整理である。現在、国際的にも議論となっているのが、サイバー戦をどう位置付け――サイバーテロとの峻別も含めて――、自衛権とどう結びつけるのかである。しかし、我が国ではこの点はまったく議論されず、所管官庁も曖昧なまま、内閣サイバーセキュリティセンターが「総合調整」を行うということになっている。

そもそもの問題は、サイバーセキュリティが「ハッキングされて情報漏洩したりシステムが乗っ取られたりしない状態」(サイバーセキュリティ基本法)と明確に定義されたものの、重要インフラへの大規模攻撃や通常の武力攻撃と組み合わせたような「サイバー戦」が法律的に定義されていない点にある。

つまり、どの部署がどの問題にどのような責任を負い、どのような資格と責任において具体的にどう対処するのかを決められないのだ。

サイバーセキュリティ基本法を通した中心人物

さて、こうした中、各党の状況はどうなっているのだろうか。

自民党は他の政党に比して、相対的に先んじており、サイバー戦も意識したと思われるサイバーセキュリティ人材の育成やサイバーテロ対策の強化が政権公約に記入されている。

この分野で注目すべきは、平井卓也前衆議院議員だろう。彼は自民党きってのIT政策専門家として知られ、人材強化に力点を置いたサイバーセキュリティ基本法を議員立法で通した中心人物であり、今後のサイバー戦対策でなくてはならぬ政治家だ。

過去のインタビューで、平井氏は「サイバーセキュリティ産業全体の拡大を図りたい。産業がきちんとしていないと良い人材は出てこないですから」と話しており、これは非常に重要な視点である。

また、自民党では、平将明前衆議院議員も注目すべき存在である。彼もまた、自民党を代表するITイノベーション政策の専門家であり、サイバーセキュリティ担当の内閣府副大臣として辣腕を振るったことから、今後の活躍も期待できるだろう。

もう一つの与党、公明党も高く評価できる。何よりも重要インフラ防護のためにサイバーセキュリティ対策に取り組むとしていることは、非常に心強い。

公明党のキーマンは石川博崇参議院議員だろう。防衛大臣政務官を務めた彼は、防衛省内局の若手・中堅・幹部からも信望が厚く、また、公明党のサイバー攻撃対処検討委員会事務局長として、サイバー対策問題の議論をリードしてきた。サイバーセキュリティ基本法案に際しては、(1)中小企業サイバー対策支援、(2)国民の相談体制整備、(3)地方自治体への支援などを盛り込むことを提案し、具体的なマネジメントにも注目していることは注視すべきだろう。

希望の党の政権公約にも、サイバーセキュリティへの関心がうかがわれる点は評価できる。希望の党系で、特に注目すべきは、長島昭久・神山洋介の両前衆議院議員だろう。前者については、与党の防衛大臣経験者たちからの信望も厚く、我が国きっての外交安保通である。敵地攻撃の議論でサイバー戦の活用を主張するなど、今後も積極的に議論を主導するだろう。

また、後者はサイバー戦問題を専門とする数少ない野党議員の一人であり、常々、サイバー戦から国全体を防衛する体制の構築・強化を強く主張している。国会質問では、「サイバー領域における自衛権解釈をしっかりと確立するべき」と迫り、答弁に困った稲田朋美防衛大臣(当時)を立ち往生させる場面もあった。

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人材育成が急務だ ©iStock.com

残念ながら、立憲民主党、社民党、共産党の公約はサイバー戦という観点からは評価のしようがない。共産党の今次選挙の政策集は65項目からなる分厚い内容だが、サイバーには一言も触れていない。

社民党も同様だ。その政策集は、米国の全米ライフル協会や宗教右派と同様の憲法原理主義に彩られているが、サイバーのサの字もない。

立憲民主党は一夜城もびっくりの急造政党なので酷かもしれないが、これまた憲法原理主義の一方で、サイバーについての言及はない。

こうした状態は、日本維新の会や日本のこころといった保守政党でも同様である。彼らも戦争観という意味では、立憲民主党、社民党、共産党と似ていると言わざるを得ない。維新の党が提案した108本もの膨大な数の法案には、サイバー問題は管見の限り存在していない。日本のこころも同様である。しかも、彼らは「敵基地攻撃能力」の保有を主張しているが、ここには当然盛り込まれるべきサイバー戦能力は盛り込まれていない。

維新・立憲・共産・社民・こころのいずれも、幾分かの国民の声を代表する政党である。ぜひサイバー戦をどのように位置づけるのか、人材発掘・育成をどのようにするのかについて議論を喚起してほしい。

いまだ日本のサイバー戦能力は、北朝鮮の高度な能力に劣り、米中にも伍していけない状況である。我々国民としては、こうした問題に熱心な政治家を後押しし、サイバー戦能力の向上や人材育成が「支持につながる」になることを意識的に見せていく必要があるのではなかろうか。

(部谷 直亮)

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