『ブラタモリ』を学者たちが「奇跡の番組」と絶賛する理由

『ブラタモリ』を学者たちが「奇跡の番組」と絶賛する理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/06/22
No image

千葉県・幕張メッセで毎年開催される「日本地球惑星科学連合大会」は、国内外の地球科学者が勢揃いする一大イベントである。2019年5月26〜30日に行われた今年の大会は、参加者数8390名に及んだ。その大会で、私はコンビーナ(会議を企画・運営する人)としてパブリックセッション「ブラタモリの探究」(本記事ではブラタモリセッションと呼ぶ)を開催した。

No image

ブラタモリセッションには会場の定員450名を超える参加者があった/日本地球惑星科学連合提供

研究者たちにもファンが多い

私たちが『ブラタモリ』(NHK)を取り上げた理由はいくつかある。まず、地球科学の裾野を広げたいという使命感だ。大会の初日はパブリックデーとされ、学会の非会員も参加可能なパブリックセッションを開催できる。地球科学に関心を持っていただく人たちを増やすには絶好の機会なのだ。

あわせて、地球科学のすべての分野の研究者が集まる場で、私たちの専門知を一般の方々に解説する方法論を議論したいことも理由のひとつだった。『ブラタモリ』は、そのヒントを与えてくれると思ったのである。

ブラタモリセッションの参加者は、私たちのほぼ予想通りで、約6割が学会員の地球科学者、約4割が非会員のパブリックであった。

ブラタモリセッションでは、番組内で案内人を経験した研究者たちから、『ブラタモリ』の人気の秘訣が評価された。私と一緒にコンビーナを務めた萬年一剛さん(神奈川県温泉地学研究所主任研究員。「#71箱根」などに出演)は、『ブラタモリ』が地球科学のコミュニティから注目されるようになった経緯を整理し、地球科学者が頻繁に出演・協力しているほか、たくさんの地球科学者が番組を視聴していることを報告した。

地球科学以外の研究者にも登壇いただいた。井上素子さん(埼玉県立自然の博物館主任学芸員。「#79秩父」などに出演)は、『ブラタモリ』の難易度が視聴者の科学リテラシーに合致しているからこそ人気番組に成り得ていると考察。松田法子さん(京都府立大学准教授。「#27熱海」などに出演)は、時空間スケールを操りながらシームレスに事象を切り取るのが『ブラタモリ』のセンスで、文系と理系を行ったり来たりするストーリーが魅力的であると評価した。

『ブラタモリ』の人気の秘訣は、わかりやすさと学術的な正確さを両立させていること、シームレスなストーリーを構築していることに集約されると、私も思う。「シームレス」とは「繫ぎ目のない」「境界のない(もしくは曖昧な)」というような意味である。

科学を扱うテレビ番組はたくさんあるが、そのほとんどは、特定の学問分野を背景に特定のテーマやトピックを扱ったものといえる。ところが『ブラタモリ』は、特定の学問分野にターゲットを絞り込むようなことはしない。学問分野の境界を意識せず、しかしきちんと学問的内容に触れつつ、あらゆる学問分野を柔軟に出入りしながら番組が構成されている。

制作班とのぶつかり合いは当たり前

『ブラタモリ』が、学術的な正確さを保ちながらわかりやすい内容になっていることは、わかりやすさの専門家である番組の制作班と、学術的な正確さの専門家である案内人との、徹底した協働作業の賜物といえる。専門を異にする両者がお互い妥協せず、時にはぶつかり合いながら落としどころを見つけていく作業によって、わかりやすさと正確さの両立が達成されている。

No image

協業作業を図化したスライド/古今書院編集部提供

しかし、その協働作業は決して対等なものではない。当然ながら編集の責任と権限は制作班にあるため、案内人は制作班の意向に屈しやすい。案内人がいくら学術的な正確さを要望しようと、制作班に「それじゃ伝わらない」と一蹴されたら、それまでである。

『ブラタモリ』に限らず、テレビ番組を制作する側は、放送内容に直接関わらない情報を「ノイズ」とみなす。このノイズの選定と除去は、視聴者の混乱を避けるためには、欠かせない作業である。しかしその作業によって、学術的内容は極限まで削られ、簡略化される傾向がある。

ブラタモリセッションで講演した小山真人さん(静岡大学教授。「#19富士山」などに出演)は、これを「単純化圧力」と呼び、その圧力に対して無理に妥協しないことが番組の学術的な正確さを左右すると指摘した。つまり、案内人の側がいかに意地を張れるかの勝負である。そのぶつかり合いが緊張関係を生むこともあるが、そこを乗り越えることができたとき、わかりやすさと正確さがハイレベルで両立する。

そのような徹底したやりとりを可能にするためには、余裕のある番組づくりが必須になる。制作班のスタッフは、とにかく現場を徹底的に歩いている。スタッフたちの靴を見ると、私たち地球科学者顔負けの、まさに晴耕雨読を地でいくような取材がなされていることがよくわかる。

私が制作班のスタッフに初めて会ったのは2015年の秋。たまたま計画されていた首里・那覇の野外巡検(大学の授業)の話をすると、彼らは同行を希望してきたのである。そのとき私は『ブラタモリ』の本気を知ることになり、協力するなら手を抜けないと腹をくくることになった。

ブラタモリセッションの講演中でも、林信太郎さん(秋田大学教授。「#81十和田湖・奥入瀬」に出演)はじめ、登壇者の誰もがスタッフのリサーチ能力を高く評価していた。制作班による学術的裏付けの作業は、私たち案内人とのやりとりだけではない。スタッフ自身も専門書や論文を読む必要があり、大変な労力がかかる。さらに、科学性を追求するためには、研究者への取材も、セカンド・オピニオンはもとより、サード・オピニオンくらいまで行うのが望ましい。「ブラタモリ」の学術的な正確さは、そのような地道な努力に支えられているのである。

テレビで科学を伝える難しさ

私たち研究者は、一般の方々にもそれぞれの専門知を伝える努力をしなければならない。それは「アウトリーチ」と呼ばれる。私は国立大学に勤めているが、本務である大学での教育も、ひとつのアウトリーチと見ることができる。大学の授業は、学生の反応をチェックしながら解説や会話を進められるため、あらゆる軌道修正が可能である。

No image

photo by iStock

ところがテレビ番組には、基本的に視聴者の理解度をチェックする術がない。番組への意見募集や視聴率から読み取れる部分もあるとはいえ、教育現場などで行えるようなリアルタイムでのチェック作業は本質的に不可能である。

視聴者は、つまらなければチャンネルを切り替えるだけという、極めてシンプルな世界だ。特に『ブラタモリ』のように、ターゲットとする視聴者を限定しない番組の場合、国民全体の平均的な科学リテラシーに適応させるようなレベル設定が要求される。

テレビ番組が科学を伝える場合、その情報拡散力が圧倒的であるため、諸刃の剣にもなる。もし誤解のある扱われ方をされると、非科学的な知識や情報が市民に広がってしまう。視聴率の高い人気番組ほど、その効果はてきめんである。

『ブラタモリ』のように、十分な取材を行い、誤解のないよう番組を編集する努力をしたとしても、視聴者に誤解・曲解される可能性はけっして消えることはない。視聴者は、自らの知識や経験というフィルターを通して、放送内容を咀嚼するためだ。そこで、伝えたいことと伝わったことがずれるという事態が起こる。その齟齬を完全に防ぐことはできない。

『ブラタモリ』こそ奇跡の番組だ

テレビ番組の制作にあたってなされている学術的内容の簡略化は、尺が限られ、また不特定多数の視聴者を相手にしている以上、やむを得ない。その一方で、科学の専門家は、事実(データ)と解釈、また断定表現と推定表現を、厳密に切り分ける。これらの切り分けは、学術論文では最重要ポイントのひとつと言える。

ところが、テレビ番組の場合、制作する側のフィルターにより、取材を受けた研究者のコメントが推定から断定にすり替わってしまうケースも見受けられる。さらに、編集の都合によって取材内容が切り貼りされ、特定の部分が強調されてしまうことで、誤解を生むケースも認められる。

それではテレビ番組において、科学的内容がどこまで伝われば「成功」とみなせるだろうか。非科学的な情報を発信しないことが前提であることは言うまでもない。その上で、断定と推定の混乱には特に要注意で、それが疑われる事態は「成功」とは言えない。しかし、その混乱がなかったとしてもなお、誤解・曲解を完全に避けることはできない。視聴者の科学リテラシーに依存するためである。

『ブラタモリ』はどうか。週末のゴールデンタイムに放送され、視聴者を限定しないという厳しい条件にありながら、視聴者の科学リテラシーを汲み取り、わかりやすさと正確さを両立させることに成功している。それはパブリックの目線では視聴率で、専門家の目線では番組ファンの研究者がたくさんいることで証明されていると言えよう。

番組内では“奇跡”というワードがたびたび登場する。しかし、私からみれば、地球科学のマニアックな話題が飛び出す番組が視聴率二桁を維持していることこそ奇跡だ。あまり馴染みのない地球科学の話題を、専門家が舌を巻くようなシームレスなストーリーとして紡ぐことに成功している『ブラタモリ』は、意図せずとも、地球科学のアウトリーチと科学コミュニケーションに貢献してしまっているのである。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

テレビカテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
「仮面ライダーゼロワン」キャスト&キャラクターまとめ
フジ 21日「ワイドナショー」は急きょ異例の生放送に!松本人志&東野幸治が宮迫&亮の契約解消問題語る
波瑠×中川大志×松下由樹、初共演で「G線上のあなたと私」ドラマ化 大人の恋と友情描く
松本人志&東野幸治『ワイドナショー』緊急生放送決定 宮迫&亮を語る
ゆきぽよ“超ミニスカ”テレビ出演で中身が...「放送して良いの?」
  • このエントリーをはてなブックマークに追加