ここへきて「最強ドイツ車」が大苦境に陥ったワケ

ここへきて「最強ドイツ車」が大苦境に陥ったワケ

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/10/23
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2019年フランクフルトモーターショーの衝撃

10月24日に開幕する東京モーターショーにほとんどの海外メーカーが出展を取りやめ、その凋落ぶりが報じられているが、モーターショーの凋落は東京だけではない。パリ、デトロイトのショーもかなり寂しいものとなっているが、中でも今年9月に行われたフランクフルトモーターショーの衝撃は、あまりに大きいものだった。

フランクフルトモーターショーは展示面積20万㎡超という巨大なモーターショーであり(東京モーターショーは最大だった1997年で5万㎡)、ドイツメーカーは巨大なブースを設営してブランド力を競い合ってきた。

メルセデスベンツはフェストホールという巨大なイベント会場を丸ごと使った3~4階建て、エスカレーター付きのブースを構築し、アウディは会場中庭に巨大な仮設ブースを建て、BMWはブースの外周を一周する「サーキット」を仕立てて車を実際に走らせる。

他のモーターショーでは考えられないスケールとクオリティを誇るのがフランクフルトモーターショーだったのである。前回2017年までは。

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2015年のフランクフルトモーターショーのBMWのブース/photo by Akira Yamazaki

なぜこんなに貧相になってしまったのか……

それが今年2019年、その変わり様に唖然とすることになる。メルセデスベンツのブースは会場の半分ががらんとして薄暗く、ホールの半分しか展示に使っていない。そしてその半分の展示もいままでにない寂しさであった。

BMWはいつものサーキットがないだけでなく、展示面積が前回の1万1000㎡からなんと3000㎡と驚くほど小さくなっていたのである。ドイツメーカー以外のブランドも、日本メーカーで出展しているのはホンダのみ、イタリアからはVWグループのランボルギーニのみ、フランスからはルノーのみというありさまなのだ。

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すっかり寂しくなった2019年のBMW/photo by Akira Ymazaki

それにしてもこの凋落ぶりは極端である。

一般的には情報発信の場としてのモーターショーの役割が低下していることがあげられているが、来場者数は前回まで大きく減っていたわけではない。ドイツでの販売台数が少ないブランドが撤退するのは理解できるが、ドイツブランドにとっては自国のマーケティング上このショーは今でも重要なはずだ。

ここまで一気にスケールダウンするという理由としてそれだけとは考えられない。

ここからは私の勝手な推測になるが、その理由はドイツ各社の展示内容から感じ取ることができたような気がする。その理由とは何か──。

きわめてハードルの高いEU環境規制

ヨーロッパでは地球温暖化に対する関心が高まっており、それに伴い2021年に販売車両の平均CO2排出量を95g/km、2030年には60g/kmという非常にハードルの高い規制値が定められた。平均値だけでなく、CO2排出量50g/km以下のLZEVの販売比率を2025年に15%以上、2030年に30%以上にしなければならない。

現在販売中の車のCO2排出量はプリウスが78g/km、VWゴルフのディーゼル1.6Lが104g/km、ガソリン1.0LのVW Up!でも100g/kmといったところである。

2018年のメーカー別加重平均値はトヨタがトップで99g/km、小型車中心のフランス・イタリアメーカーがそれに続き、VWは118.8g/km、メルセデスベンツは139.6g/kmである。2030年規制はハイブリッド車でも困難な水準である。

ドイツメーカーは高級車・高性能車の販売比率が高く、規制をクリアするためには2030年までに販売車両の少なくとも3分の1をCO2排出のないEV(電気自動車)にせざるを得ない状況に追い込まれているのである。

もっともEVに適さない国・ドイツ

しかし、ドイツという国はもっともEVに適していない国なのである。大都市はベルリンのみで他は多くの中規模都市で構成されていて、都市をちょっと離れれば田園地帯となり、都市間は有名なアウトバーンが結んでいる。従ってアウトバーンで都市間を高速移動する機会が多いのがドイツなのである。

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ドイツのアウトバーン/photo by Getty Images

アウトバーンは基本的に速度規制がなく200km/h以上で走っている車も珍しくない。EVはストップ&ゴーが多い中低速走行場面では効率が良いが、空気抵抗が大きくなる高速走行ではみるみるバッテリーが減ってしまうのだ。

今回のショーで発表されたポルシェのEV、タイカンは625馬力の電気モーターを搭載、ポルシェにふさわしい動力性能を持つ。航続距離はWLTPモードで450kmと発表されているが、WLTPは都市部の走行と高速道路の走行を組み合わせたモードで、高速走行は120km/h程度までしか含まれていない。空気抵抗は速度の二乗で高まるので、タイカンをポルシェらしいスピードでアウトバーンを走らせると200kmも走らないのではと推察される。

そうだとすれば1時間たらずでバッテリーは空になるということだ。

EVを実用的に使おうと思ったら、それがポルシェであれメルセデスであれ、せいぜい100km/h程度でゆっくり走らなければならないのである。これはアウトバーンを走り慣れたドイツ人には耐えられないであろう。

象徴的だったID.3デビュー

さらにドイツは石炭火力発電に4割を依存し脱原発にも動いているため、水力発電が95%のノルウェーや原子力発電が大半を占めるフランスなどと比べ政府としてもEVにインセンティブを与えにくい(1台4000ユーロの補助金はあるが、ノルウェーの車両価格の39~67%に相当するという巨額の補助金と比べると極めて少ない)。

繰り返しになるが、それでも客にEVを買ってもらわなければならないのである。だからドイツメーカーは客の啓蒙に必死なのだ。

もっとも象徴的だったのは、今回のショーでVWがEVのID.3をデビューさせ、主役に据えていたことである。実は、ほぼ同時期にID.3とほぼ同サイズの新型ゴルフの発表も控えているのだ。

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VWがデビューさせたID.3/photo by Getty Images

いうまでもなくゴルフはVWの屋台骨であり、多くの車好きが集まるお膝元のフランクフルトモーターショー以上のデビューの場はないはずだ。しかしVWはあえてゴルフの発表は見送り、ID.3に集中したのである。ID.3の納車が始まるのは2020年夏であり、実際の納車はゴルフの方がはるかに早いにもかかわらずだ。

これからのVWの中核はゴルフではなくID.3なのですよ、とドイツ国民に啓蒙しようとしたとしか考えられない。

メルセデスもEVブランドであるEQの売り出しに躍起であり、メインステージはEQのコンセプトカーが陣取り、通常の内燃機関モデルの展示台数を大きく絞っていた。BMWも正面入り口の目立つ高い位置に、発売からすでに6年が経過しているEVのi3を置いていた。

EVシフトで「ショー」にかけるカネを渋った?

このことから考えると、ドイツメーカーは申し合わせてこのショーを「EV啓蒙ショー」としたのではないかと考えられるのだ。

とにかくここ10年の間に、EVの販売比率を3割以上にしなければならないのだ。そのために広報的観点からショーの主役にEVを据えたものの、車好きが大半であるショー来場者のEVに対する関心は低いため、ショー自体に金をかける意味はない。それがショーの大幅縮小を招いたのではないか。

EVの啓蒙に躍起なドイツメーカーであるが、本当にEVが主役となるのかということについては、ドイツメーカー自身懐疑的に見ているのではないかと私は考えている。

それを示す1つの例は、BMWが水素で発電して走る燃料電池車(FCEV)を今回のショーで参考出品していたことである。

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出展されていたBMWの燃料電池車/photo by Getty Images

燃料電池は、1990年代後半に「21世紀は燃料電池が主流」ともてはやされ、ドイツメーカーも積極的だったが、水素の貯蔵とコストの問題から実用化が進まず、トヨタとホンダが少数の市販車を販売するに留まっている。

しかし燃料電池車は、航続距離と燃料補給時間が内燃機関車と変わらず、実用性は高い。貯蔵とコストの問題が解決されれば一気に環境対策車の主役に躍り出る可能性がある。

「本命」はEVと決まったわけではない

市販車が日本メーカー2社のみということからわかるように、燃料電池の技術は日本がリードしている。

東京モーターショーではトヨタが現行型より航続距離が3割も長くなったFCEV、新型MIRAIをお披露目し2020年に発売する。もう1つのFCEVを発売しているメーカーであるホンダはフランクフルトショーでEVを発表したが、EVは小型の短距離利用の車で有効という立場を取っている。

ドイツメーカーは当面の規制を乗り切るために、彼等にとって現在唯一の選択肢といっていいリチウムイオンバッテリー式EVに舵は切ったものの、それが客に本当に受け入れられるのかは疑問だ。

EVをプロモーションしすぎると内燃機関車の買い換え控えも起きかねない。EUは環境を重視し(すぎ)て厳しい規制を制定したが、それはドイツ自動車産業に厳しい試練を与えることになってしまったのである。

何はともあれ、一人の自動車愛好家としては、車好きを心からワクワクさせてくれたフランクフルトモーターショーの復活を切に望むだけである。

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好評既刊『マツダがBMWを超える日』

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