カジノ経済効果が6兆円? 見せかけの試算に物申す

カジノ経済効果が6兆円? 見せかけの試算に物申す

  • JBpress
  • 更新日:2018/04/27
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カジノが生み出す経済効果に関する「試算」は妥当なのか?(写真はイメージ)

「成長戦略の目玉になると思う」――2014年5月、安倍首相はシンガポールにあるIR(カジノを含む統合型リゾート施設)を訪問後にこう発言した。それから4年近くが経ち、ついに、民間賭博を認める「カジノ特区」の実施法案提出が秒読み状態となった。

4月14日、15日の世論調査では、国民の71%がカジノ法案の成立は「必要ない」としている(朝日新聞)。3月に行われた共同通信の調査でも、65%がカジノ解禁に「反対」していた。にもかかわらず、カジノの解禁が「既定路線」かのように進められてきたのはなぜか。そこには日本の富に群がる外国人ロビイストらの影が浮かび上がる。

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シンクタンクの数字を鵜呑みにしていいのか?

カジノを中核とする統合型リゾート施設(通称「IR」)は、そもそもどんな経済効果を日本にもたらすのだろうか。新聞等では、シンクタンクや外資系投資銀行による「試算」を拠り所として様々な「予測」が飛び交ってきた。

「年間6兆円を生むカジノの経済効果とは」(2017年3月20日 雑誌「経済界」)
「カジノ法案、経済効果年2兆円の試算も」(2017年7月31日 産経新聞)
「大阪・夢洲へのIR誘致、経済効果年6300億円」(2017年1月19日 日本経済新聞)

見出しだけを見ると、あたかもカジノで国が豊かになるかのような印象を与える。だが、この種の未来予測を読む際には、その予測がどんな前提条件の上に成り立っているのか、その前提が果たして妥当なものかどうかをチェックする必要がある。要するに、楽観的な前提さえ置いてしまえば、未来の話は何とでも言えるわけだ。

上記の見出しのうち、「経済界」と産経新聞の数字はそれぞれ経団連と大和総研の試算をもとにしている。これらの試算は政府の有識者会議でも使われており、カジノ推進の政策議論に影響を及ぼしたと見られる。

IRを10カ所つくれば6兆円という皮算用

経団連や大和総研のレポートでは、シンガポールと似たような大きさのIRが日本にできた場合の「経済効果」を試算している。IRの「収入」としては、シンガポールにある2つのIRと同じ程度の年間3300億円や2100億円といった数字が使われたようだ。IRの「売上」ではなく「収入」という言い方をしたのは、カジノでのIR側の「勝ち分」(お客の負け額)が決算で公開されるためだ(ちなみに、東京ディズニーリゾートで知られるオリエンタルランドの売上高は年間4700億円ほど)。

経団連等の試算では、IRでの消費は、IRでの仕入れや従業員が行う消費を通じて他の産業にも波及し、結果的にIR以外の産業での消費も潤うとしている。このような波及効果も加味して、金額に若干の差はあるが、IR1カ所あたりおおむね6000億円の経済効果を経団連や大和総研は試算している。

ただし、この「経済効果」のうち、GDP、すなわち付加価値額となる部分は、実は6割弱に過ぎないとレポートの中には記されている。冒頭、新聞の見出しに踊っていた金額は、付加価値換算する前の総投入額であり、GDPがその分増えることを意味していない。

空から消費が降ってくるのか?

経団連や大和総研などの調査機関が行ってきた試算には、他にもトリッキーな落とし穴がある。

第1に、あたかも数千億円もの観光消費が空から降ってきたかのような設定で話が進められている点だ。

海外から「新たな」観光需要が「追加的に」発生するというのなら、そういう前提を置いても構わない。だが実際のところ、IRを訪れる客の8割以上は「日本人」になるとシティグループは2013年8月のレポートで予想している。参考に、東京ディニーリゾートの2016年度の外国人来園者比率は、近年増加傾向にあるとはいえ、わずか8.5%に留まる。

IRができても、実際には、国内ですでに発生している日本人の消費の奪い合いが大半になるということだ。財布の中身は限られているので、IRでのレジャーに回すか、これまで通り外食や教育、既存のレジャー等々に回すのか、家計は選択を迫られることになる。これで経済全体としての消費が増えるのかは極めて不透明だ。

第2に、IR利用客の約2割といわれる外国人観光客も、全て新規の顧客だとは限らない。数億円単位の観光需要が、すべて新規で発生するとは考えづらい。実際には、今ある観光地とカジノ・リゾートとの間で観光客の争奪戦も起きることが予想される。

外国人は約2割、追加される付加価値は6割。これら2点だけを考慮しても、1カ所で6000億円という試算額は約1割、なんと12%にしぼむ(0.2×0.6=0.12)。

経済活動が行われた際に、その犠牲になっている部分は何か。トレードオフ、すなわち代替関係に着目することは経済学では基本中の基本だ。それにもかかわらず、なぜ彼らはこのような、あえて「部分」に着目して「全体」を無視するかのような試算を公表するのだろうか。

1920年代の理論に基づくシンクタンクのレポート

この試算の最大の問題は、実は他にある。すなわち、お金を入れれば入れただけ、生産高も無尽蔵に増えるような想定がされていることだ。

経団連、大和総研などのレポートでは「産業連関分析」という手法が使われている。これは公共事業などの効果を測る手法として、地方自治体や国交省などの報告書ではよく見られるものだ。

「産業連関分析」ではある重大な前提が置かれている。先ほど触れた「お金を入れた分だけ生産量も同様に増やせる」という仮定、経済学の言葉で言うならば「収穫一定」とも言える仮定だ。

産業連関分析は1926年に旧ソ連出身のレオンチェフという経済学者がその原型を考案した。3年後の1929年、米国発の世界恐慌が発生。恐慌を乗り越えるため、積極的な財政支出(バラまき)を説いた経済学者、ケインズの理論が脚光を浴びた。しかし、60年代半ば以降になると、ケインズの理論は「不況下の経済学だ」として鋭く批判された。産業連関分析の生みの親、レオンチェフも、ケインズの学説は「政治的だ」として距離を置いていた。そんな彼の産業連関分析が、現代の日本では、さも「バラまき」を肯定する理論であるかのように用いられてしまうのだから、皮肉としか言えない。

確かに、失業者が溢れているような状況では生産余力があるので、お金さえバラまけば、雇用は経済全体でも増え、富は蓄積されるかもしれない。だが、現在の日本では、戦後2番目に長い景気拡大が続いており、失業率は主要国の中で最も低い2.5%前後だ。国内にカネさえバラまけば、経済全体としての雇用が増え、生産量も上がると考えるのは楽観的過ぎるのではないか。

「バラまき」による経済効果に疑問を呈した経済学者としては、フリードマンを挙げることができる。彼は、国内の総供給能力が一定の下では、いたずらに政府支出を増やしても、民間の経済活動を代替してしまう恐れがあることを指摘した。同じ議論は、カジノ誘致の経済効果についても言えるのではないか。

ただでさえ人手不足の地方都市

大阪市は夢洲の(IRを含む)湾岸開発が、なんと年間10万人以上の雇用を創出すると試算している(「夢洲まちづくり構想」より)。ただし、大阪市に試算の根拠を問い合わせてみたところ、「情報の提供元である『IR事業者』からは、計算プロセスの非公開を条件に試算を受け取ったため、一切回答できません」という対応を受けた。

IRで必要とされる職種は、現在の日本で特に不足している職種と見事に被っている。大阪府の直近の有効求人倍率を職種別で見ると、「建築・土木」が6.2倍、「接客・給仕」が3.9倍、「サービスの職業」全体では4.8倍にも上っている(2018年2月分)。

IRは規模の大きいものでは1万人もの従業員が雇用される。ただでさえ人手不足が深刻な地方都市で、IRによってこれ以上人材を奪われたら、元々あった地域の産業が崩壊してしまう恐れもある。元々あった地場のサービス業はなくなっても、みんなでIRの中で働けば、幸せになれるというのだろうか。

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現在の日本は慢性的な人手不足に陥り、雇用が増える余地はそもそも限られている。人材・資材・土地などの有用な資産を、外資のカジノ事業者に奪われてしまう事態、経済学の用語で「クラウドアウト(押し出し)効果」と呼ばれる問題が懸念される。

「おカネ」はよくも悪くも、人や資材を集めてしまう。だが、人材という名の資源は限られている。人々がカジノ産業で汗を流す日本と、 既存の産業分野(農業やものづくり、教育・医療などを含んだサービス)で人々が汗を流す日本、どちらが本当の意味で豊かな地域社会なのか、一度立ち止まって考えてみてほしい。

IR1カ所で年1000億円の国外流出

ここまで、シンクタンクや業界団体が出した数字だけを見て踊らされることがいかに危険かを見てきた。

シンクタンクが弾き出したカジノの「経済効果」は、今ある消費と新規の消費がごちゃ混ぜになっていて、疑わしいことこの上ない。8割以上は既に国内で発生している消費を奪うことになると予測される上に、付加価値額は見出しに踊る金額の6割のみだ。さらに、現実に起こりうる経済の「供給面」に与える影響、人材や土地などをIR事業者に奪われてしまう問題については、シンクタンクなどのレポートは何も語ってはいない。

加えて、IRで上がった巨大な利益が米国・外資系のIR事業者に渡ってしまうことを見逃してはならない。

仮にシンクタンクが想定するように、日本でのIR運営で1施設あたり年間3000億円ほどの売上を叩き出せたとしよう。シンガポールやラスベガスなどでカジノを運営する「ラスベガスサンズ」の最終利益率(税引き後)は過去5年間の平均で約18%、営業活動から得た資金(キャッシュ)の売上比率は33%ほどに上る。

IR1カ所での営業活動から年間3000億円の売上を上げると、その33%、つまり1000億円もの資金が毎年、米国のラスベガスサンズへ利益として流れる計算になる。大和総研(産経新聞)が言うように3カ所なら3000億円、雑誌「経済界」などが言うように10カ所建てられたら年間約1兆円の資金が国外へ流出する。

日本の企業で、税引後1兆円の利益を上げられる会社は果たして何社あるだろう。トヨタとソフトバンクの2社ぐらいではないか。IRを10カ所建てた場合の年間の資金流出額は、日本の3本の指に入る企業の年間の利益が丸々持っていかれるようなものだということになる。

この流出額は、シンクタンクなどが行った試算の金額とはまったく性格が異なる――「仕入れを含んだ総需要押し上げ効果」などというような、曖昧で、よく分からない数字とは違う。公開された決算情報から単純計算された試算だ。米国に流れる人件費や仕入れを足し入れることもしていない。

米国のIR事業者が単独で「1兆円規模の投資だって厭(いと)わない」ともちかけているのにはこういう理由がある。

「裁量労働制」削除の時と同じでは?

シンクタンクなどが作った「試算額」には、これまで挙げてきたデメリット(負の経済効果)はまったく金額換算されていない。試算を行う際には、メリットとデメリットを比較する(費用対効果分析)、補完関係や代替関係を考慮する――これらは経済学の基本のはずだ。少なくとも、試算では「ポジティブ(楽観シナリオ)」「ネガティブ(悲観シナリオ)」「ニュートラル(中立シナリオ)」の3方向から分析するのが通常だ。

どのような依頼や背景があって、これらの「カジノ経済効果の試算」が行われたのか、私には分からないが、独り歩きしたらマズイ数字をレポートの表紙に載せ、巨億の資金流出額については目をつぶる調査機関、その試算額を「権威ある研究機関が言っています」と見出しへ躍らせる新聞等のメディア。どちらも世論や政府関係者の印象を操作してきたという意味で罪深い。

今年2月の国会では「裁量労働制」の説明資料に比較不能なデータが並べられていたと問題になり、裁量労働制は法案から削除、安倍首相が陳謝する事態となった。私たちは、その時の教訓から何かを学んだのだろうか。本記事で取り上げてきた「試算」を、政府官邸はIR整備推進会議の第1回目会合で資料に使い、国民には誤った印象がずっと与えられ続けてきたわけだ。

IRに関する議論は一からやり直した方がいい。

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