シンクタンクの存在意義とは何か?

シンクタンクの存在意義とは何か?

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  • 更新日:2021/02/22
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米国のペンシルベニア大学が発表した世界有力シンクタンク評価報告書で、日本国際問題研究所(佐々江賢一郎理事長)がその国際的な活動が評価されて世界トップのシンクタンク賞に当たる「シンクタンク・オブ・ザ・イヤー2020」に選ばれた。アジアのシンクタンクの受賞は初めてで、佐々江理事長に日本国際問題研究所(以下、国問研)の活動状況と今後について聞いた。

ペンシルベニア大学(f11photo/gettyimages)

――「シンクタンク・オブ・ザ・イヤー2020」というのはどういう賞なのか。

佐々江理事長 世界各国のおよそ7500のシンクタンクやメディア、民間、政府担当者へのアンケートなどをもとに、ペンシルベニア大学ローダー研究所のパネルで審査して選出されるもので、「シンクタンク・オブ・ザ・イヤー」は年間特別賞だ。

――そもそもシンクタンクは米国ではどのように機能しているのか。

佐々江理事長 米国のシンクタンクについてはいくつかの特徴があるが、主に3点説明したい。第1点は、米国のシンクタンクは政策提言や発信機能を重視している。学問的な研 究のみでなく、直面する政策課題にどのように対応すべきかについて、政府、軍、経済界などの関係者と意見交換を緊密に行い、情報を得て、それを検証しながら様々な提言を行っている。シンクタンクのメンバー自体も、いわゆる「回転ドア」で政府の役職を経験した人材も多い。

トランプ政権の下では、ワシントンのシンクタンクの多くがトランプ大統領を批判し、政権との連携が機能しなかったという特殊な状況にあった。これが一時的な現象であるのか、あるいは米政治社会が分断し保守とリベラルの乖離が激しい状況を反映して、政策提言の収れんが難しい状況が継続するのかはわからない。

2点目は、政策提言の発信力と集客力。米国のシンクタンクは米国内外への発信力を重視し、他の機関や他国のシンクタンクとの合同でプログラムや会合を実施することも頻繁に行っている。このため、世界のシンクタンクの間の議論でも米がリードすることが多い。

第3は、財政基盤であり、特に日本と大きく異なるのは、民間の出資による大きな資金を有していること。

――どういう理由で、ペンシルベニア大学ローダー研究所がシンクタンクを評価するようになっているのか。

佐々江理事長 ペンシルバニア大学ローダー研究所のシンクタンク・市民社会プログラム(TTCSP)の説明によれば、1989年の設立以来、TTCSPは、シンクタンクの傾向や、市民社会のアクターとしてシンクタンクが政策形成過程において果たす役割に関するデータの収集と研究の実施に取り組んできた。

こうした実績を踏まえて、2006年には、世界の全地域で、公共政策研究の全ての主要分野の中核的研究拠点を特定し評価することを目指し、シンクタンクの国際指標というパイロット・プロジェクトを策定し発表した。この指標の策定にともなって、同年からシンクタンクの評価を開始したものと承知している。なお、TTCSPでは、06年以降も評価の仕方について一層改善するため、随時変更を行ってきている。

――過去にどのようなシンクタンク、機関が評価されてきたのか。

佐々江理事長 今回国問研が受賞した「シンクタンク・オブ・ザ・イヤー」は、14年以降では、米国のブルッキングス研究所が計4回(2014、15、17、18)、英国のチャタム・ハウスが1回(2016)、米国のカーネギー国際平和基金が1回(2019)受賞している。国問研は、これまで日本及びアジアのシンクタンクでは常にトップの評価を得てきている。世界ランキングでは、ほぼ一貫して10位台前半(10位~15位の間)で、今回初めて8位となって一桁の評価を得た。

――国問研のどういう活動が評されたと思うか。

佐々江理事長 私が理事長になってからこの数年は、世界に向けて発信力を強化した。発信力は機能と内容の両面があるが、デジタル化が必ずしも十分ではなかったので、ホームページ上で発信し、SNSなどにも力を入れた。内容に関しては、外交、安全保障だけでなく、多様な分野での研究のリポートを出してきた。特に力を入れたのは、研究所内だけのリポートではなく、外部に向かって一般の人にも分かりやすい形でマスコミが追っているようなカレントなトピックについて分析、提言したものを、タイムリーに戦略コメントという形で出そうと心掛けた。これをなるべく英語を含めた形で海外に出すために相当に力を入れた。また日常的に行っている研究会の立派なリポートがあっても、うずもれていたので、外に発信しようとした。こうしたことを通じて、国問研の存在が専門家の間だけでなく、より多くの人に知られるようになった。

世間の人に分かりやすい形で紹介するための会合であるイベントについては、世界の主要な識者などを多数集めて公開で議論を行う「東京グローバル・ダイアログ」(TGD)を19年末に行った。また、過去1年間に起きた主要な出来事についての「戦略年次報告」も19年末から和英文双方で出した。今年も2月初めに「戦略年次報告2020」を「インド太平洋の今日と明日:戦略環境の変容と国際社会の対応」というテーマで出し、また2月下旬に第2回目のTGDも行われる。

毎年G20の会議が開催されるときには、その前に世界のシンクタンクが集まる「T20(シンクタンク20)」が開催される。19年に大阪でG20が開かれた時には、その前にアジア開発銀行研究所(ADBI)や国際通貨研究所と協力して「T20」を開いた。こうした場にはペン大のローダー研究所の人も来ていた。この賞をいただけたのは、この1、2年の国問研のこうした仕事の中身に注目すべき点があったと、審査する側が評価した結果ではないか。世界のシンクタンクとの関係を深めたことで、ビジビリティが上がって目に留まる機会が増えた点もあるのではないか。

コロナ禍でのシンクタンクとは

――コロナ禍の時代で、シンクタンクの基本的なあり方は。

佐々江理事長 コロナがどういうインパクトを与えるのかは、世界の研究機関の共通の関心事項だ。各国が協力してこれをどう乗り切るか、国際的な協力の議論をすべきで、日本は外交でどうしたらいいのか、日本の発信する力はまだ十分ではない。コロナ以外でも、中長期的な大きな方向性と問題点を明確にして、何をすべきかの政策提言を行うことで、それを世の中の人にこれまで以上に分かりやすく発信していくべきだと思う。

――コロナ以外ではどういったテーマに取り組んでいく考えか。

佐々江理事長 気候変動、SDGs(持続可能な開発目標)などは従来型の戦略的なテーマには入っていなかったが、政治や外交にも反映してくる。当研究所ではこうしたテーマについても研究をしているが、さらにそのインパクトについて研究する必要がある。それに加えて、新しい大統領が誕生した米国でコロナが内政上でどういう影響を与えるのか、大国となった中国のガバナンスの在り方が政治や安全保障の関係にどう影響するのかの研究も深めるべきだ。

――国問研の研究員の国籍を見ると、大半が日本人で、もう少し国籍を多様化した方が良いのではないか。

佐々江理事長 国際問題に関する研究員の質を高め、多角的な観点から研究をするという意味で、研究員の国籍はバラエティに富んだ方が良い。能力があり信頼できる研究者であれば、日本人でなくてもよい。政府から委託された研究はしているが、公務員ではないので国籍要件は必要ない。日本に在住はしていないが、アソーシエイツという形でフランス、インド、カナダ、豪州の研究員もいるが、研究所の基盤を強化しながら様子を見て、こうした海外の国籍の研究員を増やすことも視野に入れていく。

――国問研は政府関係の仕事をどの程度されているのか。

佐々江理事長 政府が研究、分析を委託したテーマを、研究機関などが競争入札に参加して、我々が応札できたテーマについて仕事をしている。政府に対して情報を提供するというよりも、中長期的な視点からの分析や、こうした方が良いという提言をする場合が多い。今後も積極的にこうした仕事は受けていきたい。その提言が政府によって実行されれば、研究所としての存在意義にもつながる。

――今後の新しいテーマとしてはどういう問題に取り組もうとされるか。

佐々江理事長 まずは研究所としての足腰を強くしたい。そうしないと、新しいことに取り組むのも難しくなるので、民間や政府からの支援をお願いしたい。取り組み強化の必要があるテーマは、コロナ、気候変動、ハイテクがある。コロナはこれまでもいくつか行ってきたが、引き続き深掘りしていきたい。気候変動もグローバルな大きなテーマなので戦略的視点から取り組みたい。ハイテクは安全保障や経済活動と絡んでくるので、大きな戦略的課題になってきている。

また、今後は若い人たちの研究者としての育成にも力を入れ、大学の研究者などにも研究の機会を与えていきたい。また、日本は女性の研究者が相対的に少ないので、女性を増やすように意図的に取り組む必要があると感じている。

ささえ・けんいちろう 1974年外務省入省、2002年経済局長、05年アジア太平洋局長、10年外務事務次官を経て、12年から駐米大使、18年6月から日本国際問題研究所理事長。69歳。岡山県出身。

中西 享

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