“ショートホラー漫画”という新たなジャンルを切り拓き、一躍売れっ子漫画家に仲間入りを果たした洋介犬さん(@yohsuken)。その後、ホラージャンルを突き進むのではなく、SNS時代に合致した新たな社会風刺漫画を生み出していく。

『反逆コメンテーターエンドウさん』(KADOKAWA)
前編では、漫画家になった経緯や創作の秘訣について語ってもらった。続く後編では、ショートホラー作品に対するこだわりから、社会風刺漫画『反逆コメンテーターエンドウさん』を生み出すきっかけ、そして、新たな世界へ飛び込み、結果を残し続けるその方法について話を聞いた。
インタビューと共に、『外れたみんなの頭のネジ』と、ショートホラー漫画を紹介する。ぜひ最後まで目を通していただきたい。
恐怖を追求しても発展しない理由
──洋介犬さんが描く、一連のショートホラー作品では恐怖に、ユーモアとかドキっとするような別の要素が必ず加わっていますよね。そのあたりは、意識されている部分ではあるのですか?
洋介犬:それは、かなり意識している部分です。究極の恐怖を追求して、狂気性や猟奇性を高めても、それが面白さとイコールではなくて、怖いことに慣れていくというか。それを喜ぶのは、ごく少数の人ばかりで、大半の読者は置いてけぼりになります。それだと、理解もされないし、先細りになってしまう。だから、それ以外の要素で面白さを見出そうと考えました。
──その考えで、ショートホラーを量産していくスキルというか発想力はたくましいですね。いくつもテーマや切り口、オチを考えないといけないと思うので。
洋介犬:そのスキルは、4コマギャグ漫画を描いている時期に培ったように思います。一種の脳内改造ですね(笑)。月間で50〜100本の4コマを描いていた時期もあるので。例えば、テレビを観ながら、“コンビニ”っていうキーワードが耳に残れば、それだけで3〜4本のネタを作るみたいな。
──凄まじい能力ですね(笑)。それぐらい思考を鍛えないと量産できない?
洋介犬:そうなんです。ホラーも同じですね。怪談話やホラー作品、実際に起きた猟奇的な事件をストックして頭の引き出しを豊富にしておいて、何かのキーワードと組み合わせて作っていくイメージです。
ショートホラーから社会風刺に

クラスの人気者の裏の顔が明らかに…
──その能力を極めていくと、そのままショートホラー漫画の道を突き進んでいくと思うのですが、なぜ社会風刺漫画を手掛けようと?
洋介犬:よく新しいジャンルに挑戦したと言われるのですが、僕としては“戻った”っていう感覚なんです。実は、4コマ漫画を描いていた時代に、少しだけ社会風刺漫画を描いたことがあるんですよ。
──そうなんですか? ちなみに、その作品はどのような内容だったのですか?
洋介犬:『反逆コメンテーターエンドウさん』に比べ……青臭い感じですね。社会の本質を捉えるというか、常識を疑うコンセプトは変わりませんが、今から読み返すと「これ、間違ってるだろ」って自分では思いますね(笑)。
多様な作風を受けいれる土壌が整った

SNSが浸透したことも大きなアドバンテージに
──当時は、その作品にあまり反響はなかったのですか?
洋介犬:というより、時代がそうした作品を許してくれない雰囲気がありましたね。当時、あるテレビ番組で漫画家を育成する企画をしていて、社会風刺っぽい作品を発表している人がいたんです。すると、読者が「異色すぎるな〜」って。そういう時代でした。
──今は、ある程度、社会風刺を受け入れられる土壌が整ったと?
洋介犬:そう思います。4コマ目で盛大なギャグを持ってくる時代から、ショート漫画がきて、Web漫画がきて、萌え4コマがきて、4コマに笑えるオチがなくても許されるようになってきたなと。それと、SNSが浸透し始めてくると、議論が巻き起こるような、あんまりエンタメっぽい装飾をしていないむき出しの主張も受け入れられると思ったんです。
漫画を議論できるツールにしている
──実際、Twitterを中心に『反逆コメンテーターエンドウさん』を定期的に発表されていますね。反響は最初から良かったですか?
洋介犬:数字で言うと、Twitterのフォロワーが2000ぐらいから、今は10万人を越えてますから。SNS上で実社会とリンクした風刺性のある漫画をダイレクトに供給しても読んでもらえるようになったんだなと。
──作品は、社会の常識や当たり前を一度、疑ってみるというのがひとつのパターンになっていますよね。これは、洋介犬さんの主張や思考が反映されているのですか?
洋介犬:いえいえ。僕の考えはほとんどないですよ。エンドウさんほど、優しくないですし(笑)。キャスティングと演出と監督はするけど、キャラクターが何をしゃべるかは任せてるっていうか。登場人物と思想は、同一ではないですね。
──では、テーマを決める上では、洋介犬さんの思想が反映されるのですか?
洋介犬:こういう言い方は良くないのかもしれないですが、“根性論”とか“苦労は美徳”とされてきた昭和の価値観VS令和の価値観っていう構図もあるんですね。SNSが出てきて、これまで正しいとされてきた書籍やメディアの中にも、間違っていたことがたくさんあった。社会の中でも、今まで当たり前だったことも、ハラスメントって言われています。
昭和の価値観を知っている世代なので、今の価値観と照らし合わせて、これはおかしいんじゃないかと。そういう発想ですね。ただ、「昭和の価値観がおかしい」って断言しているのではなくて、漫画という形を通して、議論できるツールとして提案している感じです。エンドウさんも作中で何度も「自分のことを100%肯定しないでほしい」って語っていますしね。
社会風刺漫画を描く意図は?
──こういった社会風刺漫画を描かれるということは、気持ちの中に世直しや社会貢献したいという思いがあるのですか?
洋介犬:そこまで、善人ではないですよ(笑)。よく、「教祖になろうとしているんでしょ?」とかも言われますが、そういう気持ちも全くないです。だったら、作品より僕がメディアに出演するように思うんですよ。ただ、これまで漫画業界で生きてきた責任は少し感じるところはあります。
──漫画業界に対する恩返しのような?
洋介犬:そうですね。作品でストレートには表現していませんが、意味のない体育会系的な体質とか、若手漫画家たちに対する待遇を改善させようとか。そういう思いは込めています。例えば、新しくできた編集部は漫画家にとって、なにが必要なのかを知らないケースもあるので、そういうときは変えてもらえるようにお伝えしますね。だけど、「おれが世界を救ってやるぜ」っていう気負いはないですよ(笑)。
死ぬときの自分に胸を張れるかどうか

洋介犬さん
──これまでのお話を聞いていると、そうした漫画業界に対する取り組みもそうですが、人生の転換点で必ず勇気を持って一歩踏み出しますよね。そこでじっと耐えようという感じはしません。
洋介犬:以前はよく、描きたいものを見失った同業漫画家に相談されたときには、好きこそものの上手なれって言っていたんですよ。どうせなら好きなことで楽しくやろうよって。もちろん、割り切ってがんばるのも大切なことですけどね。
でも、人生において、いちばんダメだと思うのは、みじめな後悔をしちゃうことだと思うんですよ。「こうしておけば成功してたのに」とか「あっちを選んでおけばよかった」とか。それを、最期を迎えるときに感じるのは辛いじゃないですか。
──まったくそう思います。たとえ、選択した道で失敗しても、自分で選んだ道なら納得できますよね。
洋介犬:そうなんですよ。別の言葉で言うと、死ぬ時の自分に胸を張れるかどうか。最期の瞬間、「あぁ、俺はなにひとつ後悔ねぇわ」っていうのが、いちばん幸せじゃないかな。そう思えば、何事も真剣に考えるし、一歩を踏み出す勇気もわいてくる気がします。何だか偉そうな語りになってしまいましたが……(笑)。でも、後悔ばかりよりみじめな失敗の方ほうまだいい。そっちのほうがまだ立ち上がれると思うので。
<取材・文/橋本未来>
【洋介犬(ようすけん)】
風刺&ホラー漫画家。兵庫県丹波市出身。商業誌のみならず、SNSでも舌鋒鋭い漫画を発表中。代表作は『外れたみんなの頭のネジ』『反逆コメンテーターエンドウさん』『ジゴサタ ~地獄の沙汰もお前しだい』『JC、殺人鬼やめました』など。稲川淳二氏公式推薦作家であり、怪談語り部としてメディア出演も。
Twitter:@yohsuken






















【橋本未来】
コピーライターオフィス「西林敏一事務所」に所属。主に関西圏で広告関係やマガジン系の仕事をしながら、映像の企画・構成なども手掛ける。芸人さんやちょっと変わった経営者さんなどの話を聞くのがライフワーク。写真は先輩ライターの後ろでこっそりと厨房を覗き込んでいるシーン
bizSPA!フレッシュ