
ボールを“持てる”ようになってきた名古屋。ユンカーは「動かし方を改善して、もっとスピーディに」とさらなる成熟を求める。(C)J.LEAGUE
[J1第5節]名古屋0-0FC東京/3月18日/豊田スタジアム
チーム作りは常に右肩上がりではいかないことを改めて感じた試合だった。
前節、アウェーで柏レイソルを相手に理想通りの快勝(3-0)を収めた名古屋だったが、同じメンバーを並べてのホームゲーム、FC東京戦では自慢の攻撃力が鳴りを潜め、勝点1を確保するに留まっている。勝てばスコア次第で2019年以来の首位に立つこともできた一戦だったが、残念ながらそれは次の機会に譲られた。
90分を通して名古屋もFC東京も6本ずつのシュートを放ち、前半においてはFC東京のシュート数はゼロ。これは試合全体を通じておおむね名古屋が優勢だったことを物語る。
後半にアウェーチームが猛攻を仕掛けたとも言えるが、それでも得点を奪えなかったのだから名古屋の守備陣が一枚上手だった。ランゲラックに主だった守備機会はなく、ヤクブ・スウォビィクのセービングも79分の一回のみ。この試合の枠内シュートがこれ一本だったことを思えば、名古屋もまた相手守備を崩しきれなかったところはあった。
とはいえ、マテウス・カストロには少なくとも2回の決定機があり、精度が伴えば結果は違っていたとも言える。ただし、それが彼に勝敗の責任を背負わすことにはならず、名古屋の攻撃にはどこかチグハグしたものが漂っていたのも確かなことだ。
冒頭に書いた「右肩上がりではいかない」という印象がそこにある。今季はファストブレイクに加え、ビルドアップからの速い攻撃や、相手のプレスに屈しないボール保持、ボール運びもチームは大きなテーマとして取り組んできた。
それが極端に表現できなかった開幕戦を反面教師に、2節からしっかりチャレンジするようになり、3節・サガン鳥栖戦での反省を踏まえた試行錯誤の結果が、4節・柏戦での快勝へとつながった。
名古屋のボールを持つ力は向上してきている。事実、FC東京のプレッシングに対しても名古屋はクリアやフィード、シンプルに背後を取るロングパスに頼ることなくパスをつなげていた。
この日は米本拓司がよくボールを受け、運び、ワンタッチパスも豊富に攻撃を前進させ、周囲もよく反応できていた。3バックのスタメンを奪った野上結貴も得意のパス出しだけでなく、かなり高い位置での守備も披露し攻守にチームを牽引。何より彼の持つポゼッション感覚は新たなエッセンスとなって、チームに変化をもたらし始めている。
それがある側面では名古屋の攻撃を“遅く”した感が否めないのが、FC東京戦で感じた難しさだ。
前半、パス交換からダイレクトに背後を狙えるスペースとタイミングが右ウイングバックの森下龍矢に訪れた時、すかさず永井謙佑とキャスパー・ユンカーが走り出したが、森下はパスを下げて保持を選んだ。
その判断が間違っていたわけではないが、当然のごとく前線のふたりは不満をあらわにする。ボールを持ちたいならば、欠かしてはいけないのが背後を取る意識である。そこを狙ってこないのであれば、相手の守備の難易度は下がる。
ユンカーは試合後、「ボールは持てていたかもしれないが、もう少しボール回しのスピードを上げるべきだったと思う。もっとボールの動かし方を改善して、もっとスピーディにしていくことは必要」と語った。
名古屋で存分にその実力を発揮しているストライカーには厳戒マークが日常になってきており、「今日はその分、逆に味方にチャンスを作ることはできたと思う」と対処はできている。
前節までの4試合で2得点ずつを挙げている永井とユンカーにチャンスがなくとも、マテウスに決定機が2度も訪れたことは、チームとして良いマネジメントができている証拠だが、攻撃の質を上げればさらにユンカーたちにも決定機が生み出せた可能性は大いにあった。
どこまで行っても仕留めていれば勝てた試合には違いないが、なぜそうできなかったかという部分には、ポジティブな悩みとでもいうものが絡んでいる。成長していくチームのポゼッション力、プレス回避力と、最大の武器である速い攻撃への意識の高さ。相手があることだけに一面的な見方ばかりもしていられないのだが、どんな相手にも自分たちのスタイルを発揮するためには見失ってはいけないものもある。
ただし、悲観する必要はない。ストロングポイントを存分に活かしきるために、何をすべきかという判断基準をチームで共有し実行し続けることは、勝点を稼ぎつつ経験を蓄積できている今だからこそ、強気に向き合えてもいる。
勝って反省、引き分けてなお真摯に修正へ取り組んでいく好循環は今の名古屋にあり、ホームでの勝利を逃してなおその勢いを失うことはない。
むしろ次はどれだけ修正してくるかという期待感があり、それがこの序盤5節で上位を争っている理由ではないか。失った勝点2すら糧に変え、名古屋はさらなる前進へとその牙を研ぐ。
取材・文●今井雄一朗(フリーライター)