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文在寅大統領、訪日断念の「ウラ」で起きていた韓国内の“本当の事情”

文在寅大統領、訪日断念の「ウラ」で起きていた韓国内の“本当の事情”

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/07/22
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大統領来日をめぐる報道の混乱

韓国大統領府は19日午後、「東京五輪を契機にした文在寅大統領の訪日をしないことに決まった」と発表した。

23日の開幕式まであと4日という時点での決定だった。この間、文大統領の来日を巡って、日韓両国のメディアから様々な報道が飛び交い、韓国外交省が不快感を表明したこともあった。どうして大統領訪日を巡る報道が混乱し、なぜ訪日しないという結論に至ったのか。

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photo by gettyimages

「文在寅大統領が訪日する可能性があるので、準備せよ」。韓国大統領府が外交省にこう指示したのが6月10日ごろ、英コーンウォールで主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる直前のタイミングだった。

複数の関係筋によれば、訪日は文在寅大統領本人の希望だったという。韓国与党関係者の1人は「韓国は慶弔の付き合いは大事にする。隣国で大きなイベントが開かれる以上、直接訪れてお祝いをするのが当然だと、大統領は考えたようだ」と語る。

また、文大統領の頭の中には、2018年2月の平昌冬季五輪開幕式に、安倍晋三首相(当時)が訪れてくれたことへの感謝の気持ちもあったという。韓国は当時、周辺4強国と呼ばれる日米中ロの首脳に訪問を働きかけていた。

だが、トランプ米大統領、習近平中国国家主席、プーチン・ロシア大統領はみな、訪問を見送った。そんななか、日韓慰安婦合意の破棄問題を巡って、一番心証を害しているはずの安倍首相が訪問してくれたことに、文大統領は深く感謝していたという。

大統領府は文大統領の意向を受け、訪日準備を始めたが、最終決定のタイミングは開幕式の10日前ぐらいをめどとするとした。安倍首相が平昌五輪開幕式への出席を韓国側に伝えたのが開幕式の約2週間前であったことを参考にしたほか、懸案を抱えている日韓関係が改善する見通しがあるのかどうか、あるいは韓国内の世論が評価してくれるかどうかをギリギリまで見極めたい考えが働いたという。

「文在寅大統領が訪日する場合、日本側はどう対応してくれるのか」。韓国側は水面下で日本政府に問い合わせた。日本側の回答は「大統領が訪日される場合には、外交上丁寧に対応することが当然だというのが政府の認識だ」(加藤勝信官房長官)というものだった。

日本側は、開幕式に出席した外国首脳とは原則、菅義偉首相との間で会談を行う方針を決めていた。今回は新型コロナウイルスの感染拡大があり、2016年リオデジャネイロ夏季五輪の約40人を下回る可能性が高いものの、「1人あたり15分程度」の会談時間を見込んでいた。

それでも日本政府内には「会談できるんだし、訪日に障害はないだろう」という楽観的な空気が流れていた。これが、日本メディアが次々に「文大統領訪日へ」という記事を流す背景になった。

話進まぬ背景に「大統領選」の影響

ただ、日本側の見立て通りに、話は進まなかった。一つには、来年3月に迫った韓国大統領選の影響があった。現在、与党の大統領候補としては、李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事や李洛淵(イ・ナギョン)元首相らが有力視されているが、いずれも「文派(ムンパ)」と呼ばれる文在寅支持勢力の出身ではない。

文政権の幹部らは、文派出身者を候補にするためにも、具体的な成果を欲していた。特に野党陣営から「文在寅政権が破壊した」と追及されている日韓関係の改善は、焦眉の課題だった。

大統領府の朴洙賢(パク・スヒョン)国民疎通首席秘書官は7月7日のラジオ番組で文大統領の訪日について「せっかく行くなら、首脳会談を行って韓日間の葛藤が解消される成果があればいい」と語った。この発言に、文政権高官たちの計算が込められていた。

具体的には、日本による韓国向け輸出管理措置問題、福島第1原発の処理水問題、そして徴用工・慰安婦判決問題のうち、どれか一つでも、韓国の国民向けに「関係が改善した」と説明できる成果を欲していたという。

だが、日本政府にしてみれば、「関係改善には、慰安婦や徴用工らへの損害賠償を命じた韓国司法の判決について、韓国側が日本の政府や企業に損害が出ない措置を取ることが前提になる」(関係者)という立場は譲れない。

すでに韓国司法の一部は、損害賠償を命じる法理を変更する動きを見せ始めているが、文在寅政権は日本の要求に応じる措置を決めかねている。日韓は6月21日にソウルで外務局長級協議を行ったが、従来の主張を繰り返しただけに終わった。

韓国も外交省や大統領府国家安保室といった外交ラインは、日本の主張を理解しているという。韓国側が譲歩案を示せない以上、文大統領の訪日を利用した日韓首脳会談が短時間の儀礼的な行事に終わるのもやむを得ないという空気が流れていた。6月21日の局長級協議も問題解決への合意こそないものの、雰囲気は非常に友好的だった。

外交省は「文大統領に直接、日韓関係改善のためにも是非訪日すべきだ」という意見具申も行ったという。韓国側には「何も対価を求めず、お祝いのためだけに訪日することで、逆に日本人の韓国への感情が和らぐかもしれない」(関係者の1人)という考えもあった。事実、文大統領自身、純粋にお祝いに行きたいだけという考えだったという。

雲行き怪しく…

しかし、英コーンウォールで開かれたG7サミット首脳会議でまず、雲行きが怪しくなった。筆者の取材不足で当初、この首脳会議では日韓首脳会談はセットされていないと理解していたが、その後の取材によれば、6月12日に開かれた拡大首脳会議と夕刻のレセプションの間に、10分から最大20分までの略式会談がセットされていたという。

ただ、首脳会談の直前というタイミングで、韓国が竹島周辺で軍事演習を行うという事実が明らかになった。韓国軍は毎年、定期的に6月ごろに演習を行っており、この日程も前年末にはほぼ決定されていたという。G7サミットの日程も春先には決まっており、日韓首脳会談も考えて日程をずらしておかなかった韓国側のミスだった。

日韓は急きょ善後策を話し合ったが、「首脳会談の後に演習をやられたら、メンツが丸つぶれだ」という日本と、「首脳会談のために、演習の時期をずらしたら、韓国世論から猛反発される」という韓国が、お互いに譲らず、結局、会談は実現しなかったという。

それでも、韓国内では、レセプションなどの機会があるごとに、菅首相に歩み寄って会話しようとする文大統領の映像が繰り返し流れた。韓国世論の反発を恐れたのか、韓国政府高官が韓国メディアに「日本が会談を一方的にキャンセルした」とリーク。

驚いた日本側が「一方的にキャンセルしたという事実はない」として抗議するなど、事態が更に混乱した。このため、文派からは「略式の会談を行うだけでは、大統領の訪日は考えられない」という強硬な声が更に高まった。

この強硬論は、日本メディアから繰り返し、「文大統領が訪日へ」という報道が流れたことで、「日本政府が、略式会談の流れをつくろうとしている」という疑心暗鬼に変わっていった。

ここに至り、文派からは「東京五輪開幕式に出席する外国首脳のうち、G20(主要20カ国・地域)クラスは、フランスのマクロン大統領と我々の大統領だけではないか。それで、他の首脳と一律の略式会談では割に合わない」という声が噴出した。

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photo by gettyiamges

与党関係者の1人は「文派に属する大統領府スタッフはほとんどが政治家出身だ。 日韓関係の何が問題で、韓国がまず譲歩しなければいけない状況にあるといった状況など、全く頭に入っていない」と説明する。

ただ、韓国メディアの一部は「それでも文在寅大統領は訪日すべきだ」という論陣を張っていた。ここに至って、韓国内の外交ラインと文派の綱引きが膠着状態に陥り、決断ができない状況に至った。当初、想定していた「東京五輪開幕式の10日前にあたる13日までに最終決断」というタイミングも逃すことになった。

迫る“デッドライン”…

韓国政府が内々に決めた最終のデッドラインは7月20日だった。23日の開幕式に出席するためには、儀典上、日本政府や五輪関係者らに48時間前に誰が出席するのかを通告する必要があったからだ。

そのギリギリのタイミングで出てきたのが、韓国の放送局JTBCが16日夜に報じた、日本大使館総括公使による「不適切発言」報道だった。韓国外交省は週末にもかかわらず、翌17日に駐韓日本大使を呼び出して抗議した。

韓国大統領府の元高官は「大統領府の指示だろう。事実かどうか関係なく、報道が文大統領を揶揄する発言となっていたため、国民感情を踏まえて放置できないと考えたのだろう」と語る。

同時に「他の国の大使館だったら見逃していただろう。やはり、韓日関係は韓国の国民感情にとって複雑で特別なものがある。特に、文在寅支持層には日本を嫌う層が一定数いることも作用したと思う」と語る。

そして、この問題が結局、「文大統領の訪日断念」につながった。与党関係者は「良い口実を見つけたというところだろう。あの報道の後での決定だから、与党はもちろん、野党も訪日断念やむなし、という反応にならざるをえない。訪日してもしなくても、批判される状況だったが、揶揄発言報道を契機に訪日しないことで世論がまとまるという計算が働いた」と語る。

実際、最大野党「国民の力」も19日、文大統領の訪日中止を巡って特に批判的な論評は発表しなかった。韓国メディアの大半も「訪日中止やむなし」という雰囲気だった。

大統領府は19日、訪日断念についての説明の際、「日本が五輪を安全に成功裏に開催することを期待する」とした。菅首相も同日、記者団に韓国側のコメントについて「留意したい」と述べた。「さらに日韓関係を健全な関係に戻すため、 韓国側と意思疎通を行っていきたい」とも語った。

韓国の与党関係者は「どちらかの譲歩が必要な場面。大統領の訪日はその機会を作る良い機会だったのに、残念なことをした」と語った。

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