航空機の技術とメカニズムの裏側 第399回 航空機のメンテナンス(22)ANAにJALも、用廃機を部品取り用に売却する

航空機の技術とメカニズムの裏側 第399回 航空機のメンテナンス(22)ANAにJALも、用廃機を部品取り用に売却する

  • マイナビニュース
  • 更新日:2023/09/19
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前回、既存の機体から部品や機器をはぎ取って利用する「共食い整備」の話を取り上げた。厳密にいうと、「共食い整備」は手持ちの機体同士で行うケースであり、部品や機器をはぎ取るための機体を別途調達するケースは「部品取り」といって区別する方がよいかもしれない。(「共食い整備」という言葉には、あまり良いイメージはなさそうだ)→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。

沈没したロシア海軍スラバ型巡洋艦「モスクワ」の電測兵装

余剰機が出ました。どうしよう?

といったところで、COVID-19のパンデミックである。人の動きが激減して、とりわけ民航各社の国際線は大打撃を受けた。ひところ、羽田空港などで「減便のせいで出番がなくなった機体」がたくさん、滑走路の周辺などに並べられていたのを覚えている方は多いと思う。

それがまた飛べるようになれば良いのだが、出番を失った余剰機を放出したり、新型機への代替を前倒ししたり、といった事例もあった。クルマと同じで、手持ちの余剰機を中古として誰かが買ってくれれば、懐に優しいし、手持ちの固定資産が減る。

しかし事情が事情だ。世界のどこに行ってもパンデミックの影響はあったわけだから、「ある国では余剰機が出ていても、別の国では機体が足りない」とはいかなかっただろう。普通に定期便の運航に使う機体の話として考えれば、そうなる。

ところが、売却先でも飛ばして運航に供する、いわゆる「耐空性売却」ではなく、部品取り用として売却するとなれば、話は違ってくる。

まず、耐空性売却では、相手はほぼエアラインに限られる。たまに、中古の民航機を購入して改造、軍用機に転用する事例があるが、レアケース。だから、これはあまりアテにできない。

それに対して部品取り目的の売却であれば、エアラインだけでなく、機体の整備・補修・オーバーホール、いわゆるMRO (Maintenance, Repair, and Overhaul)を専門に手掛ける企業も視野に入ってくる。

もちろん、中古機からはぎ取った部品や機器のコンディションが新品とまったく同じ、とは限らない。しかし実際のところ、(以前にも取り上げたことがあったと記憶しているが)所要の要件を満たしていれば、中古品でも使える。

需要が多い機体なら部品取りの需要も増える

もちろん、飛行機が多く飛んでいる国や地域の方が、パーツや搭載機器の中古需要も活発になると想像できる。実際、日本のエアラインで退役して部品取り用として売却された機体の多くは、アメリカに向けて送り出されている。

最近の事例では、日本航空で用途廃止になった777-246ER(JA701J)がカリフォルニア州ヴィクターヴィルまで最後のフライトを実施した。面白いのは、ただのフェリーフライトではなく、ツアーとして売り出して、乗客を乗せて飛んでいったこと。もちろん、JA701Jは現地に着いたら運用終了だから、帰りは別の定期便に乗る必要があった。

777なら、まだ世界各地でたくさん飛んでいるから、中古機をバラして部品単位で売りに出しても需要はあるだろう。それにボーイングでは従来型777の生産がおおむね終息しており、新形の777Xに切り替わる。すると、従来型777の部品需要に対応するには中古機からの部品取りが経済的、となるかもしれない。

逆にいえば、需要が少なそうな機種について「部品取りにいかがですか」といっても、果たして買い手がつくかどうか。使われている数が少ない機体は、当然ながら部品や搭載機器の引き合いも少なくなる。

すると、エアラインが経営判断としてフリートを縮小して余剰機を売りに出す場合に、単に最も古い機材を用途廃止にするのではなく、「部品取りとして買い手が付きそうな機体を」と考える場面もあり得よう。そこの判断を誤ると、売りたくても買い手がつかない、なんていうことになりかねない。
部品取りにできなくてもリサイクル

まだ部品として実運用に耐えられるものであれば、部品取りの対象にできる。しかし、すでに寿命が来ているもの、安全を確認できないものは、はぎ取って再利用するわけにもいかない。そうなると「航空機部品」として利用するのは無理だが、「素材」としてリサイクルする道は残されている。

また、市場としては比較的小さいかもしれないが、飛行機好きを相手にして「航空機部品」として売りに出す方法もあるし、実際、それが行われている事例はいろいろある。

部品をそのまま売ることもあれば、筆者の手元にある「ギムリー・グライダーの切り身」みたいに、加工を施した上で商品にすることもある。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第2弾『F-35とステルス技術』が刊行された。

井上孝司

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