金正恩氏をどう「利用する」のか...トランプの狙いが見えてきた

金正恩氏をどう「利用する」のか...トランプの狙いが見えてきた

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/06/14
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トランプが見せた「大人の態度」

「歴史的」な米朝首脳会談が終わった。内外メディアでは「具体策がなくみるべきものはない」との酷評が大勢である。

だが、これまでの「トランプ流」交渉術を考え合わせると、トランプ大統領にとって今回の会談は、当初から具体的な交渉を行う気はなく、まずは北朝鮮のキム委員長が気持ちよく交渉をするに足る人物かどうかを見極めるのが目的であったということではなかろうか。

そして、会談後の状況から推測すると、とりあえずは、キム委員長はトランプ大統領にとって、「今後も交渉する価値がある」とみなされたようなので、非核化、及び、北朝鮮の経済開発などの具体的な交渉の余地はまだつながっていると筆者は考える。その意味では、この段階でトランプ大統領を批判するのはまだ早いのではなかろうか。

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〔PHOTO〕gettyimages

ところで、テレビ報道を視る限り、今回の会談で、トランプ大統領に、例えば、安倍首相と会談する時のようなにこやかな表情はみられなかった。むしろ、「次はどんな『ディール』を仕掛けてやろうか」という思いが頭を巡っているようにも感じた。

そもそも、国力からみて、アメリカにとって北朝鮮の存在自体は、「取るに足らない国」であろう。従って、北朝鮮の脅威を排除するだけの目的であれば、交渉などせずに強硬手段に訴えれば問題は早急に解決するはずである。

それをやらずにトランプ大統領がキム委員長に対してあえて「大人の態度」で接したのは、やはり、「後見人」である中国を意識しているというのは想像に難くない。

「トランポノミクス」の第一の目標は、「アメリカの覇権を取り戻す」というものであろう。これは、トランプ政権の経済・安全保障政策をレーガン政権のそれと比較するとわかりやすいのではなかろうか。

レーガン政権は、アメリカの安全保障上の覇権を脅かす存在として旧ソ連を意識し、国際経済上の覇権を脅かす存在として日本を意識した。そして、対ソ連政策として軍事支出の拡大を、対日政策として保護貿易的な措置をちらつかせるなどの貿易交渉を仕掛けた。

この2つの政策はその後の世界経済の構図を大きく変えたが、トランプ政権の場合、安全保障上の政策と国際経済上の政策がともに中国に向けて発動されていると思われる。

今年中間選挙を控えたトランプ政権にどんな審判が下され、その結果、トランプ政権が4年間といわず、2期8年持続することができれば、現在の状況の先延ばし(「中国経済が世界経済でのプレゼンスを高める」)という将来予測とは全く異なる世界が、10年後に実現しているかもしれない。

すべては対中国政策の一環か

実際、トランプ政権下では防衛費が着実に増加している。2018年第1四半期のGDP統計における防衛支出は前年比+3.6%であった。

この「3.6%」という数字はたいして大きくないようにみえるが、2011年以降、アメリカの防衛支出は6年連続で前年割れとなっており、防衛費は財政再建の一環として削減対象とされてきた。この結果、米国の軍事力(少なくとも「世界の警察官」としての能力)は(絶対的な優位は揺るがないが)相対的には後退してきていたのであろう。

それがトランプ政権になってようやく前年比でプラス(2017年全体で前年比+0.2%)となり、現在も拡大が続いている。

統計上もかなり拡大しているが実際は統計上の数字以上に伸びているといわれている中国の軍事費と比較すると、米国は、近い将来、世界の覇権を中国と二分せざるを得ないとの見方が有力になりつつあったのも事実であろう。

現に、民主党に近い安全保障の専門家の中には、かつてイギリスがそうしたように、アメリカもそろそろ覇権の一部を中国とシェアする時代になったという、一種「諦観」にも似た見方もあるようだ。

だが、トランプ政権は民主党から政権を奪うことで、その流れに抗う姿勢を明確にしている。

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〔PHOTO〕gettyimages

一方、貿易政策面では、「安全保障上問題のある」輸出品目について、関税率を大幅に引き上げる措置を相次いで発表している。これに対し、主にEU諸国を中心に「保護貿易的な措置である」と強い批判が浴びせかけられている。

だが、これは、中国が、米国が開発してきたハイテク技術に「ただ乗り」することで、今後も経済成長に大きく寄与すると思われるテクノロジーのノウハウを獲得することを阻止しようとする試みであると考えられる。

欧州諸国に加え、強固な「同盟国」であるはずの日本までもが高関税の適用対象となり、安倍政権に批判的なメディアの中には、安倍首相とトランプ大統領の蜜月関係を疑うような論陣を張っているところもあるが、欧州や日本を経由して、ハイテク技術が中国に漏出してしまっては元も子もないので、この措置はアメリカからすればある意味当然であろう。

以上、安全保障、国際経済両面で「中国の覇権国化」を阻止する姿勢を明確にしているトランプ政権にとっては、対北朝鮮政策も、対中国政策の一環ではないのだろうか。

今後のポイントは

このような筆者の勝手な視点で今回の米朝首脳会談をみた上で、筆者が考える今後注意すべきポイントをいくつか挙げたい。

第一点は、韓国の存在である。

今回のトランプ大統領の比較的「大人な」対応(もっとも、直前には中止を示唆するなど「ディール」を駆使したが)は、本来はアメリカの同盟国であるはずの韓国が親北朝鮮政権となったことで、同盟国の役割を果たせなくなっているためではないかと考える。

筆者が考えるに、北朝鮮にいいようにあしらわれている感もある。韓国がアメリカの同盟国として中国に接していれば、もう少し北朝鮮に対して強硬な姿勢(すぐにでも具体策を要請する)を示せたのではなかろうか。北朝鮮に対して、「鞭」だけを振るい続け、北朝鮮が中国サイドに逃げ込めば、東アジアの安全保障体制は大きく揺らぐ懸念がある。

「体制維持」と「将来の米韓合同演習の停止」という「アメ」を握らせる必要が出てきたのは、同盟国としての役割を果たせなくなりつつある韓国の存在ゆえではなかっただろうか。

以前の当コラムでも言及したが、文在寅政権は、典型的な「ダメなリベラル」的な経済政策を採用しているため、韓国経済がじわじわと低迷してきている。文在寅政権はこの失地を北との宥和政策で取り戻そうとしているのかもしれないが、ますます国民生活が脅かされる状況になれば、文在寅政権の存在基盤は危うくなる可能性が高い。

この状況下で、トランプ大統領は韓国に対しどのようなディールを仕掛けてくるのであろうか(北朝鮮にさらなる「アメ」を与え、中国との関係にクサビを打ち込んだ上で、韓国に対し、北朝鮮の経済開発支援を強く要求するなど)。また、文在寅政権は、本格的に韓国経済が停滞し始めた場合に、現状の政策を続けるのか否か、韓国の出方は非常に興味深い。

第二点は、ロシアの存在である。

今回の米朝首脳会談前に、キム委員長は、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談した。筆者はロシア(のプーチン大統領)が何を考えているのかがよくわからないし、トランプ大統領との関係性もいいのか悪いのかよくわからない。

だが、トランプ政権は、中国との関係を深めている欧州(特にドイツ)のことを快く思っていないとすれば、かつては旧ソ連圏であった東欧諸国を事実上、EUにとられ、かつ、ウクライナなどの旧ソ連圏諸国もEU寄りになり、ユーラシア大陸でのプレゼンスが後退しつつあるロシアは、「使える国」ではなかろうか(また、ロシアが中国とは友好な関係を築こうとしているとも思えない)。

ロシアのGDP成長率はほぼエネルギー価格と連動している。アメリカはシェールガスの輸出を解禁したが、このシェールガスの産出・及び輸出を通じて、エネルギー価格の動向に影響を与えることも可能になっていると考える。これを対ロシアの「ディール」に使うのであれば、ロシアを通じて、親中度を高めるEUを牽制できるかもしれない。

* * *

ところで、日本は、アメリカの北朝鮮に対する「ムチ」的な政策に対応し、強い圧力をかけることに協力してきた。従って、今回の米朝首脳会談におけるトランプ大統領の姿勢の変化にどのように対応していくのかが気になる。

日本の場合、拉致問題という特別な事情を抱えている。北朝鮮(そしてアメリカも)はこの拉致問題を交渉カードにするかもしれない(例えば、経済開発支援など)。

安倍政権がこれにどう対応するかはわからないが、拉致被害者のご家族は高齢化しており、時間が限られている。一刻も早い拉致被害者の帰国を実現していただきたい。

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トランプは経済で“大化け”する可能性を秘めている。気鋭のエコノミストが、世界と日本の動向を鋭く予測する!

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