中国・アリババの「デジタル百貨店」に行って驚いた、そのヤバい実力

中国・アリババの「デジタル百貨店」に行って驚いた、そのヤバい実力

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/08/23
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百貨店の「未来形」ができていた!

2019年7月29日、筆者は中国・杭州のアリババパークにある最先端ホテル「FlyZoo Hotel」で夜明けを迎えた。

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杭州市・アリババパーク「FlyZoo Hotel」の夜明け(2019年7月29日/筆者撮影)

今回の杭州の旅の目的はこのアリババパークや、スマートシティ化の著しい杭州市の最新施設を視察することだが、もうひとつ筆者が楽しみにしていたことがあった。

それは中国の百貨店「銀泰(インタイム)」を視察することである。なぜ旧態依然とした百貨店などに行くのかと思われるかもしれないが、それには理由がある。中国IT大手のアリババが2年前に買収した百貨店だからだ。

中国の大手老舗百貨店である「銀泰商業集団(インタイム・リテール・グループ)」にアリババが出資を始めたのが2014年のこと。2017年には約3000億円を出資して、インタイムはアリババグループの一翼を担う存在となった。

日本で百貨店の売り上げが低迷しているように、中国でも既存百貨店は低迷の兆しが顕著となり、閉店が相次いでいる。そんな既存百貨店がアリババと組んだ結果を確認したかったのである。

「ARミラー」で化粧品を“試着”…?

筆者の宿泊する「FlyZoo Hotel」については、今年4月に寄稿した『中国・アリババの最先端ホテルに泊まってわかった、そのヤバい実力』でその詳細を報告している。

顔認証、キャッシュレス決済はもちろん、ロボットが行き交うその最先端ホテルは、アリババが得意とする「AI×ビッグデータ」のたまものだった。こうしたアリババの技術が既存の百貨店に導入されれば、果たしてどのような世界観が広がるのだろうか。これがこの旅の筆者の最大の関心事だったのだ。

結論を先に言ってしまおう。インタイムは見事なアップデートを遂げていたのである。

いや、アップデートというよりは、論語の「温故知新」という言葉がピタリと当てはまるだろう。古き良き百貨店の機能を「AI×ビッグデータ」により最適化、あるいは発展させたのだ。

その結果、買収後わずか1年でインタイムの売り上げは約30%も上昇したというから舌を巻くほかない。その実力とはいかなるものか。じっくり紹介していこう。

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インタイム・デパートの外観

筆者が到着したのは『インタイム杭州武林店』である。入店すると一見、馴染みのある従来の百貨店の風景が広がっている。しかし、目を凝らせばあらゆる最新設備があることに気が付かされる。

たとえば化粧品売り場には「ARミラー」という端末が備えられている。

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コスメ売り場の「ARミラー」で化粧の“試着”を楽しむ

顧客は化粧品を実際に試してみなくても、たとえばリップスティックの色合いが自分の唇になじむかを確認することができるというもの。さながら化粧品の“試着”を楽しめるというわけだ。

店内を行きかう「謎のロボット」の正体

もちろん決済はアリペイで行われ、支払いのために長蛇の列に並ぶこともない。また中国全国のインタイムのうち18軒のデパートが、10キロ圏内のユーザーに2時間以内で配達が可能となっている。

インタイムのテナントから商品を買おうと思えば、このアプリを利用すればよく、この利便性からインタイムの売り上げは急伸している。

消費者はこのアプリを使いどこでもインタイムのテナントの商品を購入できるばかりか、インタイムで買い物を楽しんでいても、このアプリで商品を購入すれば商品は自宅に届けられる。顧客は重い荷物に悩まされることもないのである。

インタイムのこうした配送システムがすでに完備されており、そのスタッフはすでに全国1万人にのぼっている。

さてこのロジスティクスに絡み、今回、筆者がインタイムの店舗内で遭遇したのが奇妙な箱型のロボットである。なにやら店内のショップとバックヤードを行き来しているが、これはいったい何ものなのか。

インタイムの職員に尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「これはインタイムのオンライン販売のロジスティクスを担う最新のロボットです。インタイムは天猫やタオバオのオンラインモールと直結しており、この百貨店にある商品もオンラインで販売されています。バックヤードにある商品はそのまま配送されますが、店舗に並んでいる商品もオンライン販売の対象になっています。その商品をテナントからピックアップし、バックヤードまで運ぶのがこのロボットの任務なのです」

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インタイムの「ピックアップ・ロボット」。店舗とバックヤードを行き交う

つまりインタイムでは、在庫管理はバックヤードにオンライン用として仕分けされるのではなく、店頭で販売している商品までがその対象となっている。しかも注文が入れば、その商品をロボットにピックアップさせて発送するのだ。

すべての管理がデジタル化され、在庫管理もシステムによって最適化され、タグ付けされているからこそできる離れ業だ。ロボットが正確に商品をピックアップしに来るので、店員はロボットにその商品を持たせるだけ。いちいちオンラインの注文が入るたびに、バックヤードと店舗とを行き来する必要もないわけだ。

インタイムでこのロボットに遭遇するだけで、デジタル百貨店の威力を感じることができるだろう。

「ビッグデータ」をテナントに開放

ただしこのロボットは、アリババの実力の一端に過ぎない。

アリババが集積したビッグデータによるマーケティングデータは、この百貨店のテナントにすべからく提供され、最適化されたセールスが可能となっているのである。

インタイムに訪れるほとんどの顧客の消費データはアリババのビッグデータに蓄積されている。なぜならアリババはオンラインショッピングモール、天猫やタオバオを持ち、さらに生鮮食料品のフーマーやホテルなどを運営、タクシーの配車アプリなどからもデータを集積しているからだ。

こうしたアリババのサービスを受けた消費者のマーケティングデータはアリババの各サービスの提供に利用される。そのためインタイムに訪れた消費者が、店員の接遇を受けて自身のインタイムのアプリを示すなどすれば、百貨店側は顧客の年齢や趣向性などから、顧客が求める最適な商品を提案することができるのだ。

こうしたデータをGAFAをはじめとしたメガテック企業が握っていることについては、欧米や日本でも賛否はあるが、アリババはこのビッグデータを使って、インタイムのテナントに有効な経済活動を促し、消費者の利便性を高めていることも、また見逃してはならないだろう。

というのは、そもそも百貨店はただの場所貸しではなく、テナントの集客支援という重要な役割を担っているからだ。インタイムではアリババの持つ膨大なマーケティングデータを必要に応じてテナントに供給し、旧来の百貨店の機能をさらに効率化、最適化しているのである。

実際、その成果は数字に表れており、インタイムに出店するテナントが続々と全国売上トップになっている。18年に中国全土で最も売り上げた百貨店のテナントのうち、21のブランドがインタイムのテナントだった。また18年度の期間中にインタイムのすべての販売チャネルで総売上が100万元(約1700万円)を超えたアイテムは900アイテムを数えたというのだ。

インタイムは百貨店の機能をフル回転させて、テナントとともに成長を遂げているのだ。

ニューリテールの真価

そもそも中国においても小売業の雇用人数と売り場面積は、2014年に初めて減少し、岐路に立っていた。アリババが百貨店に目を付けたのは、こうしたデジタル化に乗り遅れているリアルの小売の4.5兆ドルの市場を再開拓する試みでもあったのだ。

アリババグループのダニエル・チャンCEOは、2016年12月に、「様々な消費者層の『特徴を可視化・識別』し、『精度の高いアプローチ』と、『消費者ニーズの把握』に努め、『サービス提供』を行う」と宣言した。

それは「ひと(消費者)」、「もの(商品・ブランド)」、「場(売り場)」の再構築を目指すことと同義。それこそがオンラインとオフラインを結合させるアリババの「ニューリテール戦略」なのだ。

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〔図表〕筆者作成

筆者が前回寄稿した『中国・アリババの『最先端会議』に出てわかった、そのヤバすぎる実力』でもその真価を紹介したが、わずか2年で「デジタル百貨店」と化したインタイムの変貌ぶりはまさにアリババの「ニューリテール戦略」を体現するものだろう。テナントの各店舗は見事に売り上げを伸ばしているのである。

もちろんこの「ニューリテール」はアリババが丹念に築いてきた物流網やプラットフォーム、決済機能、クラウドサービスあってこそ。アリババのレイヤー構造をいま一度、上記に振り返っておくが、クラウドサービスがあり、ロジスティクスがあり、ブロックチェーンがあり、ファイナンスがあり、各種プラットフォームがあって、ようやくたどり着いた「ニューリテール」なのだ。

日本の百貨店へのオマージュ

現在のインタイムと、日本の百貨店との大きな違いは、テナント企業に対する集客支援を最大化、最適化していることである。

実は日本の百貨店では、消費者はテナントの顧客ではなく、百貨店の顧客という位置づけがなされている。だからテナントは顧客のデータを自由に利用することはできないが、集客は百貨店の大きな役割だったのだ。つまり、テナントへの販売支援が百貨店の生命線だったのだ。

ところが百貨店はいま不動産ビジネスに勤しむばかりで、百貨店の集客機能は衰える一方。テナントは在庫処分に追われる悪循環に陥っている。

一方で、オンラインモールからスタートしたアリババは、「ニューリテール」の掛け声とともに、いままさに日本型の百貨店のビジネスモデルを復活させアップデートしているのである。筆者はインタイムのスタッフから、日本の百貨店の動向を訪ねる質問をいくつも受けたが、彼らは日本の百貨店の「集客支援×販売支援」というビジネスモデルに敬意を払っているようだった。

もちろんこのデジタル百貨店はアリババが築いてきた多様なIT技術があってこそだが、裏を返せば、本来もつ百貨店の機能の優れたビジネスモデルは、EC時代のいまでもデジタルトランスフォーメーションが実現できれば有効であることを裏付けているともいえるだろう。

さらにアリババは進化を遂げている。インタイムの視察で最も驚いたことを最後に記しておこう。

筆者がこの視察で気が付いたことは、「ニューリテール」によってブランドの開発・生産体制までをも巻き込む新たな試みが次々とはじまっていることだった

「最先端のマーケティング」がここにある

現地のアリババのスタッフは私にこう説明してくれた。

「インタイムでは、会員管理、商品在庫、サプライチェーン、決済などの全面的なデジタル化に向けて取り組んでいます。たとえば、全国に63軒あるこのインタイムのモールに蓄積されている会員や取引情報に加えて、オンラインのタオバオ、天猫をはじめとしたアリババ傘下の小売りプラットフォームが持っている消費者インサイト(潜在的な本音)とを融合させて分析し、顧客となりうる潜在顧客にアプローチするマーケティング施策を行うことができます。

インタイムモールに出店している女性アパレルブランドの例でいうと、潜在顧客のメジャー層がどんな色が好きなのか、どんなデザインが好まれるのか、を特定していくことができる。そうすれば例えば青色のシャツを何枚作ればいいか、オレンジ色を何枚作れば、無駄な在庫を抱えずに売り切れる最適の製造数を予測できるのです」

もちろん分析できるのはシャツの色だけではない。

季節によってどの素材が好まれるのか、また体にフィットしたセクシーなデザインなのか、ナチュラルなラインのスタイルがいいのか、はたまた袖の長さやボタンの位置や大きさ、縁取りのデザインに至るまで、アリババのビッグデータから最も購買意欲をそそるデザインを導き出している。これをテナントのアパレル企業に提供しているのだ。

もはやインタイムの百貨店としての機能は集客支援や販売支援にとどまらず、商品開発や製造支援にまで及んでいるのである。

いかがだろうか。日本の百貨店をはじめ、すべての小売企業は、このアリババの躍動をぜひ、刮目していただきたい。

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コスメ売り場にある「ARミラー」ではメイクを“試着”できる

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インタイムデパートにあるピックアップロボット

インタイムの外観

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