末期がん「誰にも知らせず逝きたい」の考え方、勧められない理由

末期がん「誰にも知らせず逝きたい」の考え方、勧められない理由

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/11
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がんになったことを隠し、ひとりで治療を受けていたミエコさんは、最期に多くの親戚を突然巻き込んで亡くなった。死を目前にしても頼る人がいない、家族がいても頼りたくないなど「おひとりさま」で病気を抱える患者本人は、どうしたらいいのだろうか。

2006年から「卵巣がん体験者の会スマイリー」の代表を務める片木美穂さんは、これまでに約7000件の患者相談を受けてきた。「おひとりさま」でがんを患った時にどうすればよいのか、片木さんに聞いた。(聞き手・構成:坂元希美)

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高齢の親に話すタイミングがわからない

――卵巣がん患者さんの相談の中で、身寄りがなくひとりで治療を受ける人や、ミエコさんのように頼る家族がいない人、家庭内で孤立しているような患者はおられますか。

片木美穂(以下、片木) 卵巣がんの患者会なので女性の患者さんばかりですが、女性に限ったことではないでしょうね。実際に身寄りがないという人もいますが、独身で親と長く別居している人、遠方に住んでいる高齢の親に知らせられないというケースもあります。それに加えて配偶者や家族がいても、自分ひとりで抱えている人がけっこうおられます。自分ががんになったことや経過を周りに隠す人は、すごく多いんです。それが痛みやしんどさが大きくなって、自分自身のコントロールがかなり難しくなってきた時期に、誰にどう助けてと言っていいのかわからない、となってご相談を受けることが多いですね。

「高齢の親に、がんになったことをどうやって知らせたらいいでしょうか?」という相談はかなりあります。患者さんご自身の残り時間がかなり少なくなって、親が受け止められないだろうからとぎりぎりまで伝えずにいて、どう話していいかわからないままにホスピスに入り、そこで初めて親に知らせて、卒倒するほどびっくりされたというケースも年に1、2件はあります。親より先に死ぬ可能性が高いとなると、悲しませたくないという人が多いのです。

――家族関係で元々、確執があるということもありますね。

片木 悲しませるという以外に、親世代にがんの知識がないから知らせたくない、ということも少なくありません。高齢世代は「抗がん剤で寿命が縮まる」ような印象を持っていることも多く、医学の進歩や治療方法について知識がアップデートされていなかったりします。それまでがんばって治療をしてきた患者さんに、経緯を知らない、知識もない家族や親戚などが「○○療法はやったのか」「この病院はだめだ」などと急に介入してくるのは本当につらいし腹立たしいものですから、それを避けたいという人もいます。

とくに「残された時間が少ない」とわかってからあれこれ言われると、「この段階になってなぜ怒られなきゃいけないのか」と感じるものです。「だから嫌だったんだ!」と緩和病棟から泣きながら電話をかけてきた患者さんもいました。この人は亡くなるまで、面会謝絶にしてもらったそうです。同じような理由で、ホスピスで面会謝絶にした患者さんは何人もおられます。

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荒れた家庭で育ったり虐待の経験がある人などは、親との確執があるままでしょうし、若いうちに離れた家族だったら、お互いの人生がどのようなものだったかも知らずに何十年もたっているわけですから、そこで「もうじき死にます」と連絡をとったり、頼りにするのは難しいですよね。血縁はもちろん、友人とのつながりも全部絶ってひとりで死んでいこうとする人もいます。

「迷惑をかける」を恐れる患者たち

――パートナーや自分の家族に何も報告や相談をしない、「家庭内おひとりさま」患者さんの話も聞きます。

片木 生きている人に迷惑をかけたくない、かけてはならないと考えたり、かわいそうと思われたくないのでしょうね。「迷惑をかける」ことを極端に恐れている人が多い印象があります。そういう人は、とにかく早めに話したほうがいいと私は勧めています。初発であれば根治できることもありますが、卵巣がんは再発すると寛解する割合は非常に低いですから、再発した時、あるいは別のがんになった時が家族や友人など関係者に話すタイミングです。生き延びられたらそれでOKですし、それでも人並みには生きていくのが困難になることもありますから。

私は、そういう患者さんに「迷惑ってどういうことだと思う?」と話すんですよね。「日常のことができなくなった」「しんどい、不自由だから助けて」と言って、「じゃあサポートするよ」と言ってもらえることは迷惑じゃなくて、理解した上での協力ですよねって。だから、あらかじめ起こり得ることを説明しておいて、してほしいことや手伝ってほしいことを伝えて、いいよと相手が言ってくれたら、それを引き受けるのは相手の責任ですから、迷惑をかけていると思う必要はないと思います。知っておくべきことを共有しないまま、緊急事態に巻き込む方が、家族や関係者に迷惑をかけることになるのではないでしょうか。家族も伴走していく中で受け止める準備や、気持ちの整理や覚悟をする時間が必要なんですよね。

ある患者さんの旦那さんが相談に来られたのですが、奥さんが再発して治療中だということにまったく気づいていなかったそうです。ずっとカツラでいるから、がんの治療をしたら毛が生えてこないんだなあと思っていて。奥さんが救急搬送されて、初めて残り時間が少ないと知って、とても狼狽しておられました。

私はお話を聞いていて、「旦那さんが元から無関心・無神経な人だから、奥さんは言っても理解してもらえないだろうと思ったんだろうなあ」と感じましたが、急に妻を亡くすという現実を突き付けられ、なんの準備もできていない夫はやはり気の毒だと思いました。健康なうちから家庭を顧みなかったり、自分をいたわってくれない家族に言いたくない気持ちもわかるのですが、やはり言っておいた方がよいと思います。患者に関係する人たちにも、覚悟をする機会と時間が必要なんです。

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――ミエコさんのケースならば、片木さんはどのようにアドバイスされるでしょうか。

片木 初発の卵巣がんの時に私の運営するスマイリーに相談することもできたでしょうが、やはり乳がんになった2回目の時が相談したり、告白するタイミングだったでしょうね。その時点で親戚にお母さんの世話や、自分がつらい時のサポートを相談しておけば、ミエコさんもお母さんも、親戚の方々も負担が少なかっただろうと思います。元気な間に告白するチャンスを逃したまま苦戦になっていくと、頼みたい相手の負荷がどんどん増えて、余計に言いづらくなります。

おひとりさまの財産管理は

――ミエコさんは高齢のお母さんと二人暮らしで、お金の管理も担っていたようでした。突然、残された家族はそういう財産などの管理にも困ることになりますね。

片木 「終活」をきちんとして旅立つ方もおられます。独身で身寄りのないまま亡くなったある患者さんは、マンションを所有しておられました。余命の告知を受けてから、元気なうちにマンションの売却や財産、家財道具をどうするかなどを信頼できる弁護士さんを探して依頼し、遺言書もすべて用意されていました。

ただ、これは患者さんがある程度元気なうちでないとできませんし、本人が死が近いことを自覚していないと難しいものです。ミエコさんのように、すぐに帰ってくるつもりで入院して、そのまま亡くなってしまうと、守りたかったはずの人が困ることになります。家族や親族には、心情的なものだけでなく実務的なことを考える機会や時間も必要なので、誰かに告白するタイミングを逃さないでほしい。友人や同僚など、やや関係性が薄い人でも「キーマン」を作っておいて、お金の管理や生活のことを相談したり、頼めるようにしてもいいと思います。そういうキーマンに少しでも話しておけば、弁護士など専門家につないでもらったり、手伝ってもらうことができるでしょう。

天涯孤独な人もいますし、残り少ない人生を誰にも左右されたくない人もいますが、自分が生きてきて持っているものや財産などは、死んだ後にどうしても残ります。その行方まで心配したまま、最期に向かっていくのもつらいのではないでしょうか。

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「おひとりさま患者」を選ぶ自己責任世代

――家族や友人などがいても、あえて「おひとりさま患者」でいることを選ぶ人も少なくないですよね。

片木 私が相談を受ける人たちは、卵巣がんの中心年齢より少し下の40、50代の世代で、自分だけで抱え込む人がすごく多い印象があります。社会環境や親世代との考え方の差などがあるのでしょう、四方八方に手を尽くして親に、子どもに、仕事に、家庭に・・・と頑張り過ぎている人、自己責任世代とでも言うのでしょうか。自分が傷つかない、周りを傷つけないためにがんばって、誰にも頼らずぎりぎりまでがんばるこの世代が、がんに罹患しやすい年齢に突入しているのでしょう。がんが進行しても治療をあきらめない人たちも、弱さをさらけだしてみっともないと思われたくない、傷つきたくないから「最期まで誇りをもって闘ったと思ってもらいたい」のかな・・・と感じることもあります。親しいからこそ迷惑をかけたくない、傷つけたくないと誰にも頼れなくなるのでしょうね。

――人気ドラマの『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』で、独身50代の百合ちゃんが子宮体がんに罹患して病院で説明を受けるのに、同席してくれる人が誰もいないという状況が描かれていました。

片木 今は必ずしも家族や親族でなければ同席できないわけではありませんし、一緒に聞いてくれる人がいると心強いでしょう。自分がパニックになった時にサポートしてくれたり、一緒に内容をメモしてくれる存在がいれば、患者さんにも医療者にも助けになります。

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これからの「おひとりさま患者」

――さまざまなタイプの「おひとりさまのがん患者」が増えていくと思うのですが、患者や関係者にどんなサポートがあればいいと思われますか。

片木 がん患者さんには、人生の交通整理をしてくれる存在が必要だとよく感じます。たとえば仕事やお金のこと、自分に関わる人たちのことを一緒に考えて整理してほしいのです。さらに弁護士など専門家につないでくれると助かります。身内や知り合いにお願いするよりも、お金を払って赤の他人にサポートされた方が気楽でありがたいかもしれません。病気の知識が多少あって、あわてず騒がず、干渉しすぎずに話を聞いてくれたり、サポートしてくれる存在があるといいなと思います。

がんの種類や治療の内容によって患者さんの状況は違いますが、細々とした困りごとはたくさんあります。書類の記入が難しい、役所の手続きや通院の付き添い、その間だけ子どもの面倒を見てほしい人もいます。シングルマザーで乳幼児のいる患者さんなど、本当に大変なのです。そういう時に、がんという病気や治療のことを知っている人によるサポートがあれば、心強いでしょう。

私は患者会で活動する中で相談を受けていますが、私ひとりですべてをカバーすることは不可能ですし、自分もSOSを発する日がくるかもしれないとも思います。そんな時に「おひとりさま」であっても、事情や気持ちをわかってサポートしてくれる「赤の他人」にお金を払って頼めたら、「迷惑をかける」と思わずにすむかもしれません。家族など近しい関係者ではない「頼める人」が増えたら、充実したおひとりさま患者でいることも可能になるのではないでしょうか。

【片木美穂さんプロフィール】
30歳のときに卵巣がんと診断され手術と抗がん剤治療を受ける。2006年、海外で卵巣治療に承認されている抗がん剤が日本で承認されていない問題を解決するべく患者会を設立し、抗がん剤承認に導いた。現在は「卵巣がん体験者の会スマイリー」代表として卵巣がん患者への情報提供や相談支援などの活動を行なっている。2010年に日経ウーマンオブザイヤー注目の人、2019年にIGCS(国際婦人科がん学会)において2019 IGCS Distinguished Advocacy Awardを受賞。

坂元 希美

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