「ママを追い出すつもり!?」夫逝去で、子からまさかの遺産分割請求...妻〈自宅と収入源〉喪失の危機【弁護士が解説】

「ママを追い出すつもり!?」夫逝去で、子からまさかの遺産分割請求...妻〈自宅と収入源〉喪失の危機【弁護士が解説】

  • 幻冬舎ゴールドオンライン
  • 更新日:2022/06/23
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資産家の夫が亡くなり、相続が発生。妻は、これまで通り自宅で賃貸物件の収入を得て暮らすつもりでしたが、子どもから「法定通りの遺産分割」を求められてしまいます。要求通りにすれば「住み慣れた自宅」か「収入源の賃貸物件」のいずれかを手放さなければなりません。どうしたらいいのでしょうか。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

夫亡きあと、遺産分割で実子とトラブルに

太一さんは、貸しマンション(時価1億円相当)、自宅(時価1億円相当)を持っている資産家です。家族は妻の陽子さんのほかに、長男の太郎さんと長女の花子さんがいますが、2人とも結婚し、太一さんと陽子さんとは別に暮らしています。

現金預金は、自宅やマンションのローンの返済や太郎さんと花子さんの学費や留学費用などに使ってしまったためほとんどありませんが、貸しマンションも自宅もローンの返済が終わり、自宅に妻の陽子さんと住んで、家賃収入と年金で暮らしていることから、生活には余裕があります。

悠々自適に暮らしていた太一さんが亡くなりました。遺言書はありませんでした。

妻の陽子さんは、自宅に引き続き住んで、家賃収入で暮らしたいと思っていますが、太郎さんと花子さんは「それでは、お母さんが取り過ぎだ」と文句をいってきます。太郎さんは、貸しマンションを相続したいといい、花子さんは自宅を相続したいといっています。

陽子さんはどうしたらよいでしょうか。

①陽子さんは、自宅に住みたいのであれば、自宅を相続して、年金で暮らすほかない。

②陽子さんは、生活費が欲しいのであれば、マンションだけを相続するほかない。

③陽子さんは、自宅について配偶者居住権の設定を希望し自宅に住むことができる上に、残りの相続分でマンション共有持分を相続するか、代償金を受け取ることができる。

住まいと収入源、一方をあきらめるしかない?

本件の陽子さんは、太一さんが生きている間は、自宅に住み、貸しマンションの賃料と年金で生活すればよく、預貯金があまりなくても生活に余裕があったはずなのに、夫の太一さんが亡くなった途端に、相続分が2分の1であるため自宅かマンションのどちらか選ばなければならないという状況に追い込まれているようです。

しかし、このような配偶者を救うためにできたのが、配偶者居住権の制度です。

相続法の改正により認められました。

改正前には、自宅の居住権を取得するには、自宅の土地建物を全部相続する必要がありました。そうなると、自宅が遺産全体の2分の1以上を占めると、配偶者は相続分を使い切ってしまいますし、2分の1を越える場合は、自宅に住むためには他の相続人に代償金を支払わなければならないということとなり、自宅に住むことを諦めざるを得ないケースもありました。

そこで、改正相続法では、配偶者は被相続人が亡くなるまでその不動産に居住していた場合、所有権を取得しなくても、配偶者居住権を取得することにより、亡くなるまで住めるようにしたのです。

配偶者居住権の評価額は、配偶者の年齢にもよりますが、土地建物の価格の4割から6割くらいとなることが多く、所有権(10割)の評価額と比べると安くなるため、その分、ほかの資産を相続できることとなるということなのです。

以上を前提に、本件のケースを検討していきましょう。

太一さんの遺産は、貸しマンション(時価1億円相当)、自宅(時価1億円相当)ということですから、合計で2億円ということとなります。

相続人は、妻である陽子さん、長男太郎さん、長女花子さんの3人で、法定相続分は、陽子さん2分の1、太郎さん4分の1、花子さん4分の1となりますから、遺産で取得する額は、それぞれ、陽子さん1億円、太郎さん5,000万円、花子さん5,000万円ということとなります。

陽子さんが、自宅に住み続けたいとして、自宅の土地建物を相続することとすれば、陽子さんは1億円を相続したことになることから、ほかの遺産は相続することとできなくなります。

したがって、陽子さんは、自宅に住みたいのであれば自宅を相続して、年金で暮らすほかないとする選択肢①は合っていそうです。

しかし、先ほど説明したとおり、自宅に居住するためには、所有権を取得しなくても配偶者居住権を設定すれば居住することができます。

そこで、選択肢①は誤りとなります。

遺された配偶者の生活を守る「配偶者居住権」

本件では、みなさんがわかりやすいように、配偶者居住権の評価額は、土地建物の評価額の5割として、以下説明します。

陽子さんが配偶者居住権を取得するとすれば、配偶者居住権は自宅の評価額の5割ということなので、5,000万円を相続するということとなります。

そうなれば、陽子さんは、まだ5,000万円の遺産を相続することが可能となります。

したがって、マンションの2分の1がちょうど5,000万円なので、マンションの持分2分の1を相続することが可能となります。

本件では、太郎さんがマンションは相続したいといっていますが、太郎さんの相続分は4分の1で5,000万円なので、マンション全部を相続するには相続分が足りません。そこで、マンションを全部相続する場合には、陽子さんに5,000万円の代償金を支払う必要があります。

そこで、陽子さんは、自宅について配偶者居住権の設定を希望して自宅に住むことができる上に、残りの相続分でマンション共有持分を相続するか、代償金を受け取ることができるのです。

したがって、選択肢③が正解となります。

選択肢②は、陽子さんは、生活費が欲しいのであれば、マンションだけを相続するほかないと、一見合っているようですが、配偶者居住権を取得することにより、残りの相続分で、マンションの共有持分を相続したり、代償金を取得したりすることができるので、誤りとなります。

なお、5,000万円の配偶者居住権の設定された自宅は、5,000万円の制限が付いていることから、評価額は1億円から5000万円を引いた額となり、5,000万円となります。

そこで、この配偶者居住権付の自宅土地建物は、自宅の相続を希望する花子さんに相続させることが可能となります。

配偶者居住権は、配偶者の方が自宅へも住みたいし、ほかの遺産から生活費も相続したいという場合に強力な武器となります。

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

高島 秀行

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