この冬のインフルエンザ ここまで極端にかかる人が少ないワケとは?

この冬のインフルエンザ ここまで極端にかかる人が少ないワケとは?

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  • 更新日:2021/01/13
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山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師

日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「この冬のインフルエンザ」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

【グラフ】昨年47200件で今年は63件! こんなに違うインフルエンザ報告数

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明けましておめでとうございます。2021年も、皆様に読んでいただけるよう、外来診療で感じたことや、タイムリーな記事をお役にたつ情報を盛り込みながら、コラムを書いて参りたいと思っております。どうぞよろしくお願いします。

今年の年末年始は帰省せずに新年を迎えた、という方も多いのではないでしょうか。私も、昨年は一度も大阪の実家に帰ることができなかったので、せめて年末年始は日帰りでもいいから帰省したいなと思っていました。しかし、クリスマスを終えたあたりからでしょうか。外来診療を行っていると、38度を超える発熱を訴える患者さんが日に日に増えてきました。そして、新型コロナウイルスPCR検査で陽性を認める患者さんが多くなってきたのを目の当たりにし、帰省はやめたほうがいいと考えるにいたりました。

冬のクリニックといえばインフルエンザです。一昨年までは、年末年始やお正月などお構いなしに全国的に猛威をふるっていました。例年であれば、12~3月に流行のピークを迎えます。しかしながら、インフルエンザの流行が拡がり始めた2019年12月、中国武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染が短期間で急速に世界中に拡がっていくのとは反対に、日本を含む北半球におけるインフルエンザの流行はみるみる減少。外来診療の現場では、インフルエンザの検査をしても陽性にならない、そもそも例年のように高熱や咳症状がひどくなって受診するという患者さんが受診することが少なかったのでした。

一方、南半球では、北半球とは季節がほぼ真逆です。そのため、例年であれば、4~9月にかけてインフルエンザの流行のピークを迎え、その後減少していき、感染は収束します。しかしながら、2020年のシーズンでは、例年のように流行の兆しは見られたものの、その後の流行は見られませんでした。

どうしてなのでしょうか。流行の兆しが見られた時期は、ちょうど世界中で新型コロナウイルス感染症に対する対策が取られ始めた頃でした。南半球の温帯地方に属するオーストラリアや南アフリカ、アルゼンチンやチリでも、国全体ないしは大都市でロックダウンが実施されました。ロックダウンでは、学校も休校となったため、インフルエンザに罹る割合が多い子どもが通う学校の閉鎖はインフルエンザの流行拡大の機会を奪うことに繋がり、結果としてインフルエンザの流行の減少の要因の1つになったのではないかと、国立感染症研究所は報告しています。

昨年の秋頃には、アメリカ疾病予防センター(CDC)は、「今シーズンの冬はインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスのどちらもが流行する可能性が高いと考えている。」と警告していましたが、今シーズンの北半球におけるインフルエンザの報告数は例年よりも極端に少ないのが現状です。

私自身、今シーズンはインフルエンザ陽性の患者さんにはお会いしていません。勤務するクリニックでも昨年の11月ごろに、1例陽性を認めただけです。(ちなみに、その1例は、インフルエンザ迅速検査も新型コロナウイルス抗原検査のどちらも陽性でした。中国武漢の同済病院から、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時感染が報告されていますが、まさに同時感染をしていた症例でした。)

マスクの着用、手洗い、アルコール消毒、密を避ける、ソーシャルディスタンスなど様々な感染予防対策は、インフルエンザウイルス感染予防にも功を奏したとは思うのですが、要因の大きな1つとして、世界をまたにかけた人々の往来がストップしたことが挙げられると私は考えています。

アメリカ国立衛生研究所のBloom-Feshbach氏らは、世界137か所の検査室で確認されたインフルエンザの季節的・地理的変動を確認したところ、温暖な地域では冬季に一貫してピークに達しましたが、東南アジアの熱帯地域では半年ごとに頻繁に発生していること、さらにいくつかの温帯地域では、冬と夏にインフルエンザのピークがあったことがわかったと2013年に報告しています。一昨年のシーズンは、日本でも、東南アジアと同様に亜熱帯に属している沖縄では、夏にインフルエンザが流行しました。

オーストラリアなど南半球の温帯地域では、インフルエンザは4~9月にかけて流行がピークを迎えることなども考慮すると、今までは、日本ではインフルエンザの流行期でなかったとしても、流行期にあった渡航先で感染、または流行している地域からやってきた人に渡航先で感染し、ウイルスと共に日本に帰ってくる、など様々な感染経路から日本に持ち込まれていた可能性があります。しかし、日本を含め、世界中の各国で入国が禁止または制限されたことにより、人々の往来は激減。様々な感染経路が遮断された結果、2020年から2021年にかけての今シーズンは、そもそもインフルエンザウイルスの国内への流入が減少している可能性がありそうです。

それに加え、マスクの着用、手洗い、アルコール消毒、密を避ける、ソーシャルディスタンといった感染予防対策、さらにはインフルエンザの予防接種が例年以上に行われた中では、たとえウイルスが国内へ流入してきたとしても、流行まで引き起こすことはできないのでしょうか。

一方の新型コロナウイルス感染症ですが、日本では昨年12月から感染者は急増し、1月7日には東京・神奈川・千葉・埼玉で緊急事態宣言が発令されました。イギリスでも、1月8日には一日の新型コロナウイルス感染症の新規感染者が約6万8000人、死者は一日1300人となり、サディク・カーン ロンドン市長はこの日「ウイルスの拡散を制御できず、医療崩壊が起きている」として、事実上の「統制不能」を宣言しています。

未だ、世界的な流行の治まる兆しが見られない新型コロナウイルス感染症ですが、One World in Dateによると、1月11日時点での累計新型コロナウイルスワクチン接種量は、米国669万回、英国132万回、イタリア64万回、ドイツ53万回、フランス8万回と、昨年12月から世界では新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されています。

日本はどうかと言うと、国内の臨床試験や審査の手続きを経る必要があるため、接種開始は早くても3月ごろになる見通しだと言います。世界からかなりの遅れをとって接種がスタートすることは間違いありません。スタートするまでに歯止めが効かないほど感染が拡大しないことを願うばかりです。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本佳奈

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