G7舞台裏で中国激怒「俺の顔に泥を塗った!」、それでも日中ホットラインが開通した舞台裏

G7舞台裏で中国激怒「俺の顔に泥を塗った!」、それでも日中ホットラインが開通した舞台裏

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2023/05/26

中国が21日、広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳宣言に激怒した。中国の孫衛東外務次官が「中国の顔に泥を塗った」と述べ、日本に抗議した。相手を激しく威嚇する恫喝外交は、中国の得意な戦術の一つだ。もちろん、それが外交の全てではない。中国は水面下で、様々な手を使って日米韓に接近していた。はねつけた国もあれば、利用しようとした国もあり、3カ国の対応は分かれた。

外務省の元高官は孫氏の発言について「中国は本気で、米国に代わって世界のリーダーになろうと思っている。ロシアと同じ扱いをされてはたまらないと思ったのだろう」と語る。中国はウクライナ侵攻を巡り、「平和的な解決」をロシアとウクライナ双方に求めていた。G7首脳宣言は、ロシアと中国を別々の文脈で批判していたが、ウクライナに侵攻したロシアと同じような扱いに我慢がならなかったのだろう。

中国は過去も、公に「俺は怒っているんだ」という姿をアピールしてきた。2021年3月、米アラスカ州でブリンケン米国務長官や楊潔篪共産党政治局員らが会談した。米側が報道陣もいた会談冒頭、中国の人権問題などを批判すると、中国側は「米国には米国式の民主主義があり、中国には中国式の民主主義がある」と猛烈に反発した。2016年7月、ラオス・ビエンチャンでの中韓外相会談では、当時の王毅外相が韓国の尹炳世外相に対し、米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の韓国配備を巡って「最近の韓国の行為は双方の相互信頼に害を及ぼした」と報道陣の目の前で恫喝した。世界に向けて、「どっちが悪役が白黒つけよう」と主張すると同時に、習近平中国国家主席ら指導部にアピールする意味もあるのだろう。

ただ、中国は今年2月、日韓両国にある提案をしていた。それぞれ、二国間で安保対話をやろうという呼びかけだった。日韓両国の関係者はすぐに、中国側の意図に気がついた。2月4日、米南部サウスカロライナ州の沖合上空で、中国の気球が米軍のF22戦闘機によって撃墜されていた。中国は、日本や韓国に対し、気球がスパイ目的ではないことを釈明する考えだとみられた。

日本と韓国は対照的な動きをみせた。韓国は米国に対し、中国が中韓対話を求めてきたことを通報し、かつ、この提案を拒否する考えを伝えた。韓国はこの時点で、尹錫悦大統領の訪米を目指していた。この時点では、尹氏の訪米が国賓待遇になるかどうか、決まっていなかった。韓国政府にとって、尹氏の訪米の成功は支持率回復のための絶対条件だった。米国から良い反応を得るため、尹氏の訪日と日韓関係の改善も目指していた。尹政権にとって、中国の提案を受け入れる余地はなかった。

一方、日本は沈黙し、中国から日中対話の打診があったことを米側に伝えなかった。中国の提案から間もない2月22日、東京で日中安保対話が開かれた。約4年ぶりの開催だった。協議では、中国気球の話題も出たほか、自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を防ぐため、両国の防衛当局どうしが直接連絡を取り合うホットラインの運用開始に向けて調整していくことで一致した。米政府は、事前通知のなかったことについて日本側に不快感を表明した。
なぜ、日本は韓国と同じ対応を取らなかったのか。それは、日本と米国、韓国が、それぞれ中国に対して異なる国益を持っているからだ。

米軍は今、西太平洋で中国軍を念頭にした各軍種の再編を急いでいる。その一つが、沖縄県に駐留する第12海兵連隊が2025年までに生まれ変わる、第12海兵沿岸連隊(MLR)だ。MLRは、米軍が海空優勢を獲得できない状況を前提に、移動しながら地対艦ミサイルなどで攻撃を行う部隊だ。MLRは緊急事態の際、南西諸島や台湾、フィリピンなどに展開するとみられている。ただ、米軍の文書によれば、MLRは攻撃を加えた後、敵からの報復攻撃を避けるため、48時間以内に別の場所に移動することを想定している。自衛隊関係者は「米軍の目的は中国に勝利することだから、迷わず移動するだろう。しかし、そこに住民がいた場合にどうするか。自衛隊は住民を捨てて、米軍と一緒に移動するわけにはいかない」と語る。

また、日本と米国は現在、日本が保有を決めた反撃能力の詳細について検討を重ねている。具体的には、日本が400発の購入を予定している米巡航ミサイル「トマホーク」について、標的を発見してから攻撃するまでのターゲッティングや、敵に与えた損害評価などを巡る日米協力の詳細を詰めている。中国は当然、緊張するだろう。

日本が、中国による日中安保対話の打診を奇貨として、協議に応じたことには、日中外交の強化を通じて、無用な誤解を避ける努力をするという意味があったとみられる。日中両政府は5月16日、ホットラインの運用を始めたと発表した。

また、日本や韓国が米国に事前通報したからと言って、米国が同じように、日韓両国に自分たちの外交を事前通報してくれるわけではない。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と中国の外交担当トップの王毅共産党政治局員は5月10~11日にウィーンで会談した。米国は事前に、この動きを日韓両国には伝えなかった。

かつて、1949年に中華人民共和国が誕生した後、米国は日中国交正常化を許さなかった。逆に1971年7月、キッシンジャー米大統領補佐官が極秘に訪中した。ニクソン大統領はキッシンジャー氏の帰国後、極秘訪中の事実と大統領自身が近く訪中する考えを発表した。中国大使を務めたことがある谷野作太郎氏によれば、当時の外務省の幹部たちは「これが米国のやり口か」と憤慨し、怒り狂っていたという。

外交筋の一人は「米国には米国なりの対中外交戦略がある。今は、日本が中国より少し前に出て、韓国は日米よりもだいぶ後ろにいる状態だ」と語る。別の外交筋は「米国は自分たちのペースに合わせるのが当然だと思っている。でも、3カ国で国益はそれぞれ違う。団結が一番重要だが、それぞれ異なるアプローチがあっても良いのではないか」と語った。岸田文雄首相は22日、記者団に対し、日中首脳会談について決まったことはないとする一方、「建設的、安定的な関係を双方の努力で築いていかなければならない」とし、首脳会談を模索する考えを示した。

過去記事はこちら>>

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加