世界史の視点でみると分かる、中国・アリババ台頭の「大変革」の意味

世界史の視点でみると分かる、中国・アリババ台頭の「大変革」の意味

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/12/06
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中国最大のeコマース企業アリババの子会社が、フィンテックで世界のトップを独占しつつある。

中国は長い歴史を通じて官僚国家であり、そのため、高度の技術を持ちながら、企業家精神に先導されたヨーロッパに後れをとった。

いま、中国に企業家精神を持つ人々が育ちつつある。これは、中国の歴史の中で注目すべき出来事だ。

「フィンテック100」で中国企業がトップ3を独占

今年の11月15日に発表された「フィンテック100」で、中国最大のeコマース企業である阿里巴巴集団(アリババ・グループ)の関連会社が、トップ3を独占した。

なお、トップ10社のうち、中国企業が5社を占めている。これはアメリカ3社より多い。

「フィンテック100」は、国際会計事務所大手のKPMGとベンチャー・キャピタルのH2 Venturesが作成するフィンテック関連企業のリストだ。これまでの推移を見ると、2014年では、100社に入った中国企業は1社だけだった。

15年には7社となり、インターネット専業の損害保険会社である衆安(ジョンアン)保険が世界のトップになった。

16年には、アメリカが35社、中国が14社となった。世界のトップは、電子マネー、アリペイを提供する螞蟻金融(アント・フィナンシャル)だった。アリペイが東南アジアを席巻しつつあることは、「中国のフィンテックが日本のはるか先を行くのは当然だった」で述べた。

17年版で上位3位に入ったのは、螞蟻金融、衆安保険、そして趣店(クディアン)だ。趣店は、オンラインマイクロクレジットサービス 。

注目すべきは、これら3社のすべてが、アリババ・グループの子会社であることだ。

アリババはこれまで、企業間の電子商取引をサポートするマッチングサイト「阿里巴巴 」(1999年に設立)、個人対個人の電子商取引サイト「淘宝網」 (タオバオ、03年に設立)、「天猫」(Tモールl、08年に設立)などを運営してきた。

それが、フィンテックの分野に進出しつつあるのだ。

アクセンチュアによると、2016年のフィンテック関連投資額は、中国と香港の合計で102億ドルになった(なお、日本のフィンテック投資額は、わずか1億5400万ドルに過ぎない)。この背後には、アント・フィナンシャル が、16年4月に45億ドルの資金調達をしたことがある。

アリババの創始者ジャック・マーとは何者?

アリババは、2015年にニューヨーク証券取引所に上場した。現在の時価総額は、アメリカ株のランキングとして、第4位となっている(2つあるグーグルの株式をまとめると、アリババは第5位になる)。時価総額は454億ドルだ。

日本で時価総額が最大であるトヨタ自動車の時価総額が、第38位で185億ドルであることと比較すると、アリババの時価総額の巨大さが分かる。

アリババを創始したのは、現在のCEOである馬雲(ジャック・マー)だ。

彼は、1964年生まれ。中国本土の起業家として、初めて『フォーブス』の大富豪リストに掲載された。

1990年代以降、中国には、新しい企業経営者がマー以外にも何人も生まれている。ただし、それらの人々は、何らかの意味でエスタブリッシュメントの世界から出てきた人々だ。

例えば、通信機メーカーの華為技術有限公司(ファーウエイ)のCEOである任正非は、中国人民解放軍の元幹部技術者。華為は、今でも軍と強いつながりがあると言われる。

家庭電気器具メーカー海爾集団(ハイアールグループ)のCEOである張瑞敏は、国有企業からの派遣されてきた人だ。

PCメーカーの聯想集団(レノボ)の創業者である柳伝志は、中国科学院計算技術研究所の科学者だった。彼らは、いわば上から降りてきた人々であり、創業するときに、ある程度の事業基盤を持っていた。

しかし、アリババのマーには全くそうしたことがない。

彼は、学生時代には劣等生で、大学受験には2度失敗し、三輪自動車の運転手をやっていた。その後、師範学院の英語科を卒業して、英語の教師となった。

このように、ITの知識などまったくなかったのだが、たまたまアメリカへ行った時にインターネット会社を見て感激し、95年にインターネット会社を設立した。帰国してから仲間と共にアパートの一室でアリババを立ち上げたのだ。

なお、ITの分野には、アリババと似た企業が多数現れている。

すでに巨大化したものとして、百度(バイドゥ)と騰訊(テンセント)がある。

それだけではない。ユニコーン企業でも、中国の躍進ぶりが印象的だ(「ユニコーン企業」とは、未公開で時価総額が10億ドル以上の企業)。

調査会社のSage UKによると、最近時点のユニコーン企業数は、アメリカ144社、中国47社だ。まだアメリカには追い付かないものの、その差が年々縮まっている。

ブロックチェーン関連の新しいプロジェクトでも、中国の躍進が目立つ。

中国の調査会社が作成した中国ブロックチェーン産業発展白書によると、ブロックチェーン関連企業の設立数は、これまでアメリカが世界第1位で、2位の中国との間にはだいぶ差があった。しかし、16年には、中国がアメリカを抜いて世界1となった。

なお、ブロックチェーン技術についての説明や、ブロックチェーン事業の動向については、拙著『入門 ビットコインとブロックチェーン 』(PHPビジネス新書、 2017年12月)を参照されたい。

マーのような人物が登場しているのは、注目すべき事実だ。なぜなら、中国はこれまでの長い歴史を通じて、そうした人物が活躍できる社会的な基盤を持っていなかったからである。

それを見るには、15世紀の大航海の時代にまでさかのぼる必要がある。

ヨーロッパの大航海に先立つ15世紀初頭に、明の鄭和が率いる船団が大航海を行なった。

鄭和の船団は、コロンブスやマゼランなどのヨーロッパの艦隊とは比較にならぬほど大規模で立派なものだった。

コロンブスの第1回航海は、3隻の帆船と約90人(120人との説も)の乗組員で行なわれた。最大船であるサンタ・マリア号の全長は 24 mだった。

それに対して、鄭和の航海は、400隻近い大船団と3万~4万人の人員によって行なわれた。最大の船である取宝船は、9本のマストをもち、全長が約130m、全幅が約50mもあった。

1405年に、永楽帝の命により第1次航海が行われ、セイロンやカリカットに至った。

その後、数次の航海が行われ、到達地は、ペルシャ湾口のホルムズからモルディブ諸島、さらには紅海の入り口のアデンへと延びた。そして、第6次と第7次遠征では、アフリカ東海岸のモガディシオやザンジバルにまで達した。

こうした航海ができたのは、羅針盤や天体観測による遠洋航海技術、そして火薬などが、中国で発明されたものだったからだ。当時の中国は、世界最先端の技術国だったのである。

しかし、永楽帝が1424年に亡くなり、息子の洪煕帝や孫の宣徳帝の時代になると、内政重視の政策がとられるようになり、大航海は、1431-33年の第7次が最後になった。

その後の明は、造船や海上貿易に消極的になり、1525年には、外洋船を取り壊す命令が出された。

こうして、永楽帝と鄭和が行った大航海は継続せず、一時的な事業に終わってしまったのだ。

冊封文化 vs 香辛料貿易文化

なぜ中国は大航海を継続できなかったのか?

それは、社会を構成する基本原理の必然的な結果だった。

中国は大帝国であり、官僚機構によって運営されていた。

中国の歴代王朝の君主は、周辺国の首長に国王の称号を授与していた。周辺国は使節を派遣して貢物を献上し(朝貢)、返礼の品を受け取っていた。これは、「冊封」と呼ばれるものだ。

大航海も、明帝国の威光を世界に知らしめるための使節団であり、進貢国を増やすことが目的だった。

それに対して、ヨーロッパの大航海は、香辛料貿易の新ルートを開発するという、商業的利益に導かれたものだった。

その試みをポルトガルやスペインの王室が援助したのは事実だが、多分に名目的なものであり、実際の資金は商人たちが提供した。航海に乗り出したコロンブスやマゼランは、現代でいえば、ベンチャーキャピタルから資金を調達したスタートアップ企業のようなものだった。

ヨーロッパでは、こうした動きが、その後のイングランドやオランダの東インド会社につながり、そして産業革命につながっていったのだ。

鄭和は、帝国の官僚として、皇帝に命ぜられた職務を実行しただけであり、利益を求めて冒険を行なったわけではない。航海のための資金集めなどもしなかった。

その点で、コロンブスやマゼランなどの冒険家とは全く違う人種だ。

中国には、コロンブスやマゼランのような人物が現れる社会的な基盤がなかった。

中国という国家には、新しいフロンティアを求めるインセンティブが存在しなかったのだ。大航海もリスクへの挑戦ではなかった。

中国は、こうして、高い技術水準を持ちながら、歴史の動きから大きく立ち遅れることになった。

もし、太平洋の彼方に何があるかを探るインセンティブを当時の中国人が持てるような経済体制であったら、中国がアメリカ大陸を発見していただろう。そして、世界の歴史は大きく変わったに違いない。

ところが、これまで述べたように、いまの中国は、マーのような人物が輩出する社会になっている。これは、非常に大きな変化だ。

彼らは、商人的才覚をもつ起業家である。経済的利益に導かれて、フロンティアを拡大していこうとする。彼らは、コロンブスやマゼランに繋がる系統の人々だ。

そうした人々は、これまでも中国にいたはずだ。しかし、彼らは、中国の本土では成長することができず、華僑として国外で活躍の場を見出すしかなかった。

それが、いま中国本土で活躍できるようになったのだ。

先に述べた興安保険は、ブロックチェーンを活用しようとしている。

ブロックチェーン技術は、情報の分散処理という点で、官僚制度とは相性が悪い。むしろ華僑的な文化に親和性がある。このような技術が中国で発展しつつあるのは、たいへん興味深い。

ただし、いうまでもないことだが、中国の全体が起業家重視社会に変わったわけではない。

中国の国家体制の基礎である共産党による一党独占政権は、基本的には、これまでの大帝国の後継者だ。

したがって、冊封的文化はいまでも残っている

対外政策として一帯一路やAIIB(アジアインフラ投資銀行)を進めようとしていることが、それに当たる。

こうして、国家レベルでは伝統的な中国が残っており、他方で起業家が成長している。したがって、両者の間で衝突が起こっても不思議はない。

それは、仮想通貨を巡る対立に、実際に現れている。中国政府は、銀行がビットコインに関与することを禁止したり、 ICO(仮想通貨による資金調達)を禁止したりした 。しかし他方で、中央銀行である人民銀行は、仮想通貨の開発を進めているのだ。

なぜ中央銀行がブロックチェーンを使おうとしているのか、理解しにくいかもしれない。これは、中央銀行が用いようとするブロックチェーンは、ビットコインが用いているブロックチェーンとは性質が違うからだ。これについての説明は、拙書『入門 ビットコインとブロックチェーン 』を参照されたい。

中国は、矛盾を抱えつつ、未来に向けて成長を続けている。

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