「香り」で社内の空気をかえたエステー・V字回復の秘訣

「香り」で社内の空気をかえたエステー・V字回復の秘訣

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/10/13
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家庭向け消臭芳香剤「消臭力」、衣料用防虫剤の「ムシューダ」、除湿剤「ドライペット」等の定番商品を持つエステーを取材した。社名は、「SERVICE(奉仕)」のSと、「TRUST(信頼)」のTを合わせた造語。鈴木貴子社長は創業者・鈴木誠一氏の三女で、'13年の社長就任から大胆な経営改革で業績のV字回復を実現した人物だ。

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エステーの鈴木貴子社長

エステー起業秘話

【未知】

森の空気って綺麗ですよね。その理由を当社と外部の研究機関で調べると、木々が出す森の香りの成分が大気汚染物質のNO2(二酸化窒素)と結びつき、地面に落下させ、浄化していることがわかったんです。

当社の「クリアフォレスト」は、このメカニズムを応用した商品です。北海道のトドマツから抽出した森の香り成分により空気を浄化するほか、消臭効果、森林浴効果、抗酸化機能があります。香りの本格的な研究は、始まって数十年しか経っていない未知の分野。今までにない商品に成長すると期待しています。

【斬新】

よい香りは人体にポジティブな効果を与えるため、ヨーロッパでアロマセラピーは代替医療とされています。当社にも「アロマサプリ」という商品があります。朝には朝用、夜には夜用の香りを楽しんでいただけば、「集中力がない気がする」「うっかりが多い」とお感じの方のサポートになるんですよ。

世の中には「いま売れていても、数年さかのぼれば誰も想像できなかった商品」が、たくさんあります。そして私は、そんな商品を諦めず育んだ企業が未来をつくる、とも信じています。

【思い】

父は清貧がモットーで、私もお嬢様育ちをさせてもらったことはありません。起業のきっかけは戦時中のこと。祖母が気に入っていた着物を、父が疎開先に送ったのです。

しかし終戦後、着物を送り返してもらうと、ところどころ虫に食われていて、祖母はとても悲しそうな顔をしたそうです。父は母の姿を見て胸を痛め、防虫剤メーカーを起業しようと思ったのです。

【時間】

私が子どもの頃から、父は「時間に追われるな。時間を追っていけ」と言い続けました。遅刻しそうになるなどあたふたする度に言われるので、時にムッとすることもあったのですが、大人になると意味がわかりました。今で言う「働き方改革」のようなもので、常に、何をやるときも作業効率を追求する必要があるのです。

例えば私は今も、歯磨きをするときは同時にスクワットしています(笑)。この考えは事業でも役立ちます。将来必要となる商品を先に開発し、時間が追いついてくるのを待つのです。

「何もできない」という無力感の中で

【深層心理】

エステーの仕事に初めて関わった'10年当時、消臭芳香剤は価格を極力抑え、無機質な容器で販売していました。しかしそれは本当に消費者のニーズ通りだったでしょうか?

当時はデフレ真っ只中、安売りも必要だったかもしれませんが、'14年頃から消費行動に変化があり、少し贅沢したい方が増えていたのです。そこで女性だけのチームを作り、デザインを変え、香りも上質にした「シャルダン ステキプラス」を出すと、価格は3割ほど高価でも大ヒットしました。

商品は、お客様や世の中の深層心理に結びつき「これがほしかった!」と思っていただけるとヒットします。一方、技術的進化などから生まれた商品は、切り口次第で大きい商品に化けるものの、開発者がターゲットを見失うと絶対に売れません。

【リーダー】

「香りたつ」という言葉が好きです。社長就任を打診された時「私に何ができる?」と考え込み、ふと湧いたイメージがありました。

東日本大震災の時も、私には「何もできない」という無力感があったのですが、その時、がれきの中に花が咲いている映像が頭に残ったんですね。生死がかかる場面で花は役に立たないでしょう。でも、そこに咲いて香りたてば、人を和ませ、人の輪ができます。私はそんな「香りたつ」リーダーであればよいのではないか、と思ったのです。

今もセールスの日報を毎日読み、よい報告があると私の似顔絵のスタンプを押します。「ちゃんと見てるよ!」と伝えたいのです。商談のロールプレーで好成績を収めたり、工場の生産性を上げるアイデアを出したりすると、どんどん社長賞を出します。

笑顔を見せ、高く評価する、そんないい香りをさせることで、社員がより力を出してくれる、いい循環を作りたいのです。

【香り】

香りで人間関係は円滑になります。タクシーに乗った時に微妙な匂いがして寂しい思いをすることってありますよね。これの逆で、素敵な香りがする場所で話せば、少しでもよい結論が導き出せるはず。

企業のコーポレートカラーのように「香り」もアイデンティティになり得ます。また、例えばアウトドア用品販売店さんで森林の香りを流す、といった使い方もできるんです。

このように、香りの新しい使い方がもっと広まるといいですね。香りはまだまだ、未知の分野ですから。

(取材・文/夏目幸明)

『週刊現代』2017年10月14・21日号より

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