海外の長時間通勤者に学ぶ「痛勤」との賢いつき合い方

海外の長時間通勤者に学ぶ「痛勤」との賢いつき合い方

  • @DIME
  • 更新日:2018/01/12

総務省統計局が近年実施した社会生活基本調査によると、日本人の1日当たりの通勤時間は平均して74分(往復)となっている。都道府県別に見ると、通勤時間が長いのは、神奈川県が100分、埼玉・千葉県が94分、東京都が90分、奈良県が88分、兵庫県が80分…と、東京と大阪のベッドタウンが全国平均を大きく引っ張っているのがわかる。

われわれ日本人の多くは、「長時間通勤は、世界でも日本の大都市圏くらいの特殊なもの」と、なんとなく思っているかもしれない。しかし、これは先進国の大都市に共通するグローバルなトレンドである。今回は、長時間の通勤が社会問題となっている英米の事例を引きあいにして、とりわけ長時間の「痛勤」をしている人は、これとどう折り合いをつけているかを紹介したい。

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米国全体でみた平均の通勤時間は往復で約50分だが、ニューヨークシティやワシントンD.C.といった大都市になると、60分を超える。イギリスも同程度だが、最も多忙な40代のビジネスマンに絞ると70分に及んで、日本の全体平均に並ぶ。さらにロンドンへの通勤者に限ると80分になって、東京・大阪通勤者といい勝負になる。そしていずれの都市でも、年々少しずつ通勤時間は増している。もちろんこれは平均時間なので、皆がそれだけの時間をつり革につかまって過ごしているわけではない。調査対象者には自宅勤務で通勤0分の人もいれば、逆に郊外から都心部に往復2時間かける人もいる。ならすと50分とか70分になるわけだ。

イギリスでは9%、米国では4%のワーカーは、往復3時間以上もの時間を通勤に割いている。彼らは「エクストリーム通勤者」と呼ばれている。そして、その上をゆく「超エクストリーム通勤者」ともいうべき人々もいる。彼らは毎日5~6時間を通勤時間に捧げている。

「超エクストリーム通勤者」の例として、2人を挙げよう。

ワシントン州のポートハドロックという小さな町に住んでいるクリストファー・グラントさんは、間に海を挟んで毎日80キロ離れたシアトルの職場に通っている。まず自宅をマイカーで出発し、フェリー港を目指す。港につくのは1時間後。車を降りてフェリーに乗り換え、1時間ほどフェリーに揺られて過ごす。シアトル沿岸に上陸したら、そこから徒歩で30分ほどかけてオフィスに向かう。しめて片道2時間半の通勤時間。しかも、家族とともに夕食をとることを奥さんと約束したため、勤務先のシフトを6時~15時の時間帯に変えたという。皆が寝静まっている時間に起床し、朝日も出ないうちに出発するのは楽ではなく、ガソリン代やフェリー運賃が、1か月あたり550ドルかかるのも悩みの種だという。

フランス生まれのガイレーヌ・オールドロイドさんは、結婚を機に夫の住むロンドンへ移住したが、その後離婚してしまった。離婚を機に2人の子供とともに、故郷のブーローニュ=シュル=メールに帰ったが、イギリスでの教師としての仕事に未練が大きく、フランス=イギリス間のエクストリーム通勤を決断した。彼女は毎朝6時に起床し、身支度を整えるやマイカーを駆ってコケルという町に向かう。コケルで自分の車から降り、知人で同じくイギリスに通勤する女性の車に同乗して、10キロ離れたユーロトンネルへ。出国審査を済ませてユーロトンネルをおよそ30分で通り抜け、イギリスの入国審査をパスしたら、アシュフォードという町を目指す。アシュフォードで同乗の女性と別れ、停めてあった別のマイカーに乗り換えて、勤務地のメイドストーンの町を目指す。最終目的地に到着するのは現地時間の午前8時だという。フランスとイギリスの時差があるので、乗り物に乗っている実際の時間は2時間を超える。往復すると1日の通勤時間は6時間近くになる。

これらはやや極端な例かもしれないが、様々な事情があって長時間の「痛勤」を強いられている人たちは、日本だけでなく、たいていの国の大都市で普通にみられるようになっている。長時間通勤は限度を超えると、ストレスが増し、間食が多くなり、睡眠時間や家族と過ごす時間が減るなど、健康や生活の問題に直結し、病気や離婚を招くことすらある。もちろん、フレックス通勤によって満員電車を避けたり、週に何回かテレワーク(在宅勤務)をすることでリスクを緩和できる。しかし、住んでいる場所か職場を変えるかしない限り、抜本的な解決は難しいし、そもそも簡単に引っ越しや転職ができるなら、最初から苦労はない。なので、大半の人はいろいろと折り合いをつけて日々の通勤をやり過ごしている。最近は、寝るとかスマホとにらめっこして過ごすといった消極的な方法でなく、以下のようにもっとアクティブに通勤時間を活用する人が増えている。

リンジー・ファークワーさんは、ある日乗ろうとした列車を逃してしまい、次の電車を待っている間に「そうだ編み物をやろう」と閃いたという。彼女は、編み物の雑誌と道具を一式買い揃え、通勤時には編み物に熱中するようになった。この趣味が高じて、宝飾品を作ったり、絵を描いたりしはじめ、彼女にとって通勤列車はアトリエのようになった。電車の乗務員がファンになるなど、彼女はちょっとしたご当地有名人になっている。

エイミー・ディケッツさんは、ロンドンの地下鉄を使って片道45分の通勤している。彼女は、通勤時間をもっと有意義に過ごそうと思い立ち、「COMMUTE BLOG」(通勤ブログ)という名の個人ブログを立ち上げた。このブログには、地下鉄の乗客が写った写真が多数掲載されているが、みな見知らぬ人である。彼女は、通勤時にカメラ片手に乗客に話しかけ、「何か自分がびっくりするようなことを話してほしい」と頼むのだという。唐突に話しかけられた人の大半はうろたえるが、お互い退屈な通勤時間を持て余している身ということで、気さくにレスポンスを返す人もいる。彼女のブログに載っているのは、ブログの趣旨を理解し、面白い話を提供してくれた人たちである。こうして彼女は、本来は愉快でない通勤時間を楽しく過ごしている。

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(「COMMUTE BLOG」より)

裁判所に勤務するベン・ヤロップさんは、「通勤時間はまさに時間の浪費だ」と実感した日を境に、小説の構想から執筆までを全て通勤電車内で行うことを決心。これまでに2冊のファンタジー小説を刊行しているが、すべて電車にノートパソコンを持ち込んで、少しずつ書き進めてきた成果である。

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ベン・ヤロップさんの著書

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ヤロップさんは、以前は嫌で仕方なかった通勤を今では意義あるものと考えており、通勤とは、仕事と家族のための時間とは別の貴重な時間だとコメントする。

米国のウェブメディアの編集者ジャクリーン・スミスさんは、郊外の一軒家へ移り住んだことで、マンハッタンの職場への通勤時間が3倍になってしまった。しかし、彼女はこの事実をいたって前向きにとらえている。例えば、早起きが習慣化し、読書をするようになり、一人で考えに没頭する時間を確保するなど、長時間通勤にもそれなりのメリットはあるとする。また、あまり乗り気でない社交行事の誘いにも「通勤が大変なので」というもっともな理由をつけて断れるのも、良い点だとしている。

上記に挙げた、通勤時間を大活用している人の例は、ややエッジが効きすぎているかもしれない。通勤時間が長くて退屈だからといって、誰もが絵を描いたり、小説を書けるわけでもないだろう。そこでもう少し現実味のある「痛勤」ハックを、海外の様々なサイトで推薦されているものから精選して、いくつか列記したい。

●「To Doリスト」を作成する
今日やるべきことをリスト化する。単に仕事のことだけでなく、帰宅前の買い物など私用も含めて。優先順位を再考し、各タスクに要する時間も見直す。「To Doリスト」の中身を精緻化するだけで、通勤時間は超えないまでも公私の時間浪費がかなり減らせる。

●雑誌・書籍を読む
「たいていの情報はスマホで無料で読める」から、紙に書かれた情報は要らないって?一理あるかもしれないが、紙媒体は今でも、ネット上に存在しない知識や情報の宝庫である。スマホ老眼を予防するためにも、通勤時こそ本を読もう。

●瞑想をする
「瞑想」という言葉が抹香臭く感じるなら、「マインドフルネス」といった今はやりの言葉に置き換えてもよい。目をつぶり、深く呼吸して、車窓の外でなく自分の内側に注意を向ける。マインドフルネスには、ストレス軽減や創造性の強化などの効果があるとされており、単にぼーっとして車内を過ごすよりは、ずっと建設的である。

●新たなことを学習する
これはやや曖昧だが、サイトによって「新たなこと」とは「外国語」だったり、「著名大学教授の授業動画」だったりする。日本人ならさしずめ「英語」が最初に思い浮かぶかもしれないが、これにとらわれず料理でもスポーツのルールでも、自宅で学習すると億劫に感じるものこそ、通勤時に取り組むとよい。

主要参考資料:
FORTUNE: These U.S. Cities Have the Worst Commute Times
BBC NEWS Magazine: Readers' tales of extreme commuting
BBC NEWS Magazine: The commuters who enjoy being creative with their time
Business Insider: My commute time to work recently tripled — here's why I'm excited about it

文/鈴木拓也

老舗翻訳会社の役員をスピンオフして、フリーライター兼ボードゲーム制作者に。英語圏のトレンドやプロダクトを紹介するのが得意。

※記事内のデータ等については取材時のものです。

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