名古屋で導入予定ナシの連節バスが走ったワケ もっとスゴイ車両を走らせる「SRT構想」とは?

名古屋で導入予定ナシの連節バスが走ったワケ もっとスゴイ車両を走らせる「SRT構想」とは?

  • 乗りものニュース
  • 更新日:2020/10/16

LRTのような連節バス? まったく新しい乗りもの「SRT」とは?

バスの車体が2台つながった、全長18mにも及ぶ連節バスが、2020年10月11日(日)に名古屋の市街地を初めて走りました。

この運行は、名古屋市が2027年に予定されているリニア中央新幹線(品川~名古屋)開業に合わせて運行を検討している交通機関の社会実験です。岐阜バスで運行されている「清流ライナー」のメルセデス・ベンツ製連節バス「シターロG」を借りて試験走行しました。車長が長いバスをメインストリートで走らせる際の問題点を抽出するのが狙いだったようです。

ただ名古屋市は、新しい交通機関として連節バスを走らせるつもりではありません。

名古屋市が2019年に発表した「新たな路面公共交通システムの実現をめざして」によると、「SRT」(スマート・ロードウェイ・トランジット)という交通機関の導入が検討されています。

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名鉄百貨店前を走る連節バス。岐阜バスの車両を借りて名古屋市が走らせた(2020年10月、宮武和多哉撮影)。

このSRTは、連節車両などを用いて大量かつ安定したバス輸送を可能にする「BRT」(バス・ラピッド・トランジット)や、路面電車を近代化する「LRT」(ライト・レール・トランジット)とも一線を画した、新しい交通機関とされています。名古屋市の資料に描かれているのは「LRTのような仕様を持ち、タイヤで道路を走る連節バス」と言えるものです。

資料では、車内から街並みを見渡せる大きな窓を持ち、フランス・ストラスブール市を走るLRTのような車内がイメージされています。タイヤで走るバスの場合、どうしても大半のスペースを座席が占めがちですが、名古屋のSRTは一部座席を跳ね上げ可能にして、座席を車内中央に集中的に配置させるなど、ゆったりしたスペースが保たれるようです。

またタイヤの足回りに「加減速制御」を搭載することで、従来のバスにはない乗り心地を実現し、将来的には自動運転に対応できる、とのこと。まさに鉄道と連節バスの「いいとこどり」するような仕様とされています。

ただし2020年現在では「名古屋市と自動車メーカーが協議して開発」ということ以外、詳細は決まっていません。

そもそも市はなぜ、このような新しい乗りものを想定しているのでしょうか。秘密はそのルートに隠されています。

「SRT」が走るコースは観光の「まる」とビジネスの「直線」?

SRTが走るルートは「名古屋駅」と「栄」を基点に、ふたつの街をまっすぐ結ぶ「直線コース」と、名古屋駅から名古屋城・栄・大須を回る「環状線」が想定されています。名古屋市はこのふたつの路線が「ビジネス」と「観光」に結びつくことに期待を寄せているようです。

名古屋駅と「直線ルート」で結ばれる栄地区は、その名の通り名古屋の中心部として昔から栄えてきました。栄交差点に立つ複合ビル「オアシス21」では、地下鉄や名鉄瀬戸線のほか、高速バスに乗り換えることができます。また、栄交差点を南北に貫く久屋大通の中央分離帯部分は公園になっており、北側の久屋大通駅とつながっています。

この栄地区と「めいえき」こと名古屋駅の間には地下鉄東山線(栄駅)、桜通線(久屋大通駅)が運行されていますが、途中駅が少ないこともあり、駅間の問屋街などではシャッターを下ろした店舗も目立ちます。SRTはおおよそ500m間隔で停車するため、景色を楽しみつつ、駅間にある商業の街としての歴史的景観などにも目を向けさせる狙いがあるようです。またSRTはラッシュ時に2分おきの運行が想定されており、輸送量がひっ迫する地下鉄東山線を補完する役割も果たせるでしょう。

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栄を走る観光巡回バス「メーグル」(2020年10月、宮武和多哉撮影)。

一方の「環状ルート」は、名古屋城、大須といった「直線ルート」の外周に点在している観光地を結ぶ役割が期待されています。すでに運行されている観光巡回バス「メーグル」を参考に、そのルートを南の大須まで広げるようなコースが想定されています。

ちなみに、鮮やかな金色にラッピングされた「メーグル」は、ほとんど観光目的の利用を想定したものですが、名古屋城近辺には官庁街や総合病院もあります。このルートにSRTが運行されれば、通勤ラッシュの軽減にも一役買うことでしょう。

まだ決めることは山積み、SRTのこれからの課題

名古屋市としては「乗りやすい」「分かりやすい」交通機関を目指していますが、「SRT」の実現に向け、解決すべき課題もあります。

まず名古屋駅および栄の乗り場をどうするかが挙げられます。現在「メーグル」や市営バスの発着場は、JR名古屋駅の自由通路や名鉄・近鉄の駅が集中したエリアから北東に外れています。また名古屋駅の南東には1967(昭和42)年に開設した「名鉄バスセンター」がありますが、こちらは取り壊し・改築が予定されており2022年にも工事に入る予定です。

リニア開業に向けた名駅周辺の再開発が進むなか、名古屋市は「名古屋駅ターミナル近辺での検討調査」で「東側駅前広場にバス乗降場を整備しない」としています。もしSRTを「分かりやすい交通機関」にするのであれば、ひと目で分かる乗り場の検討が必要となるでしょう。

またSRTの運行にあたっては、道路左端の車線を専用・優先レーンに設定して走行路面に区分のためのペイントなどを施す予定ですが、環状ルートは複数の箇所で右折を必要とします。道路が広く車の流れが速い名古屋で、車長約20m近い車両が車線を変更し、安全・迅速に右折することは他の都市より若干ハードルが高いかもしれません。

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名古屋市内を走る「基幹バス」。専用レーンが道路の中央部に設けられており、停留所では反対車線側に回り込む(2020年10月、宮武和多哉撮影)。

名古屋では現時点でも、専用レーンを走る「基幹バス」(通常のバス車両)があります。この方式をSRTに使うことも考えられますが、専用レーンが道路中央に設けられており、なおかつ停留所付近では車体左側から乗降する関係上、いったん対向車線側に出るなど、コース全体が蛇行しているため連節バス向きではありません。名古屋市では「PTPS」(信号制御による公共交通優先システム)のほか、「最新の技術開発の動向を踏まえた検討」を行なうとしているので、1980年代にできた基幹バスのシステムよりもシンプルにできる可能性もあります。

ちなみに、もともと市ではLRTも含めて導入を検討していましたが、「新しい軌道の建設は埋設物の移設なども含めた投資がかかる」として、今回のSRT構想に舵を切りました。こうした名古屋市の動きは、1957(昭和32)年に開通した地下鉄東山線のトンネルなどをひと周り小さく建設するなど、経費を抑える伝統の姿勢とも言えるかもしれません。

宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)

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