「フードバンク」は全米で広がる食品ロスの救世主となるか

「フードバンク」は全米で広がる食品ロスの救世主となるか

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/08/03
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5%の富裕層が国の総資産の6割を占めるという現状を指して、「アメリカでは貧富の格差が広がっている」と、多くのジャーナリストが口にする。しかし、富が抜群に飛び抜けている人たちを見ることはあっても、貧困や飢餓がアメリカに重たくのしかかっているという事実は、なかなか伝わってこない。

今日、都市部の人々はホームレスに寛容になり、日本人にはちょっと想像もつかないほど多くの人が、小銭や1ドル札を彼らに差し出す。自らの不遇を訴え物乞いさえすれば、多くの小銭を集めることができ、スマホを所有しているホームレスも多い。この20年、そういう人たちが飢えで死んだという話は、ほぼ聞かない。

一方、ホームレスではないものの、なんとか家賃を払い、医療費を払い、公共料金を払うなかで、家計を切り詰められるだけ切り詰め、食事まで抜いて、不十分な栄養で生きている真面目な人たちも、この国には意外と多いのが現実だ。

かつてこのコラムでも、フードスタンプという食品購入補助制度を紹介し、50万人の青少年が、昼の学校食にのみ栄養価を頼っているというアメリカの実態に触れたことがある。

これだけITが発達し、生産から物流にいたるまで需給が自動的に調整できる仕組みになっているにもかかわらず、しかも食に困っている人がいるなかで皮肉なことに、アメリカは「食品ロス」を抑制することができていない。

いや、むしろ需給管理が発達し過ぎて、必要とされるものの中身が刻々と変わり、卸売り店が昨日必要だったものが明日は不要となり、弱者である生産者は廃棄するしかなくなるという局面が増えてきている。

食品ロスの規模が大きいラスベガス
アイオワ廃材管理センターのディレクターのダン・ニッキー氏によると、アメリカで生産される食材の40%は、食卓に上る前に廃棄され、その額は約17兆円にのぼるという。世界全体の廃棄額が75兆円であることを考えると、世界のたった4%の人口しかないアメリカが、世界の23%の食品ロスを計上していることになり、この過剰に突出した異常事態がわかる。

さらに、外食産業や食品販売の現場では、賞味期限切れの食材を捨てたり、返品処理にコストがかかるためゴミ箱行きにしたりするケースが、後を絶たないという。

こうして、全米の埋め立てゴミ処理の20%は食品で占められる。毎年計上される3500万トンという数字は、エンパイアステートビル100棟分のボリュームになるという(ハーベスト・パブリック・メディア)。

さすがに、近年の異常気象がゴミのリサイクルへの啓蒙活動にもつながって、おしなべて資源リサイクルが一般家庭でも進んできたが、そういった話はもっぱらペットボトルや空き缶や新聞紙などに向けられることが多い。「食品ロス」についてはあまり言及されず、改善はなかなか進まなかった。

特に筆者の居住するラスベガスは、食品ロスがひどい。全米一を誇る15万の客室はコンベンションやスポーツイベントなどで常に埋まり、年間4000万人の観光客がこの街で食事を摂っている。それだけに、食品ロスの規模も大きい。

アメリカの外食産業には、昔から満腹になる以上のボリュームを提供しないと顧客満足につながらないという文化があり、食べきれなかったものを箱に入れて持ち帰って、翌日家庭で消費するのが普通になっている。

しかしホテル泊の場合は、余った分を部屋に持ち帰ることは難しい。ラスベガスでも冷蔵庫があるホテルはあるにはあるが、それらは電子管理されていて、あらかじめセットされているビールを抜いて、持ち帰った食べもののためにスペースをつくったりすると、その場で課金されてしまう。

つまり、ラスベガスの4000万人の観光客の食べ残しは、ほとんどがゴミ埋め立て場に直行することになる。食べ残しの半分を占めるのはフルーツと野菜と酪農製品で、それらはメタンガスを発生させ、二酸化炭素とは比べ物にならないほど地球温暖化現象の悪因となっている。

国連本部での小泉環境相への質問
ラスベガスの食品ロスは規模が大きいだけに、社会問題になり、ホテル側も重い腰を上げ始めている。例えばラスベガスで最もプレゼンスの高いカジノリゾートホテルグループのMGMリゾートやサンズ社は、調理過程での食品ロスや、顧客の食べ物残しを、地元の養豚場に供給する流れをつくった。

畑の肥料にしたり、キッチンで使ったオイルをバイオ燃料にコンバートしたりするなどの取り組みも進んでいる。

あるいは、客が手をつけなかった新鮮なパンも、夜を超えると廃棄対象だったが、それを翌日、牛乳と砂糖と卵を加えてオーブンで焼き、パンプディング(パンプリン)にして社員に無料で供給するなどの工夫も始めている。

たった1つのホテルでも5000室もあったりするので、このスケール感がこういったコンバージョンを意味のあるものにしている。

そんななか、全米ではいま、フードバンクという非営利団体が数多く立ち上がっている。市場で売れ残ったり、あるいは、わずかな「キズモノ」になって見栄えが悪くなったりして買われなかった食品や食材を、即廃棄するのではなく、フードバンクがトラックで引き取り、「飢餓に苦しむけれど、物乞いをすることはよしとしない貧困家庭」に配るプログラムを進めている。

この「フードバンク」にはそれなりの歴史があり、1967年にできたセントメリー・フードバンクが世界最初のフードバンクとされる。これまでは、どちらかと言えば、寄付金を募り、その金でボランティアが材料を買って温かい食事をつくり、飢餓にある人たちに振る舞うというコンセプトが主流だった。

しかし昨今は、需給のギャップや買いすぎ、購入間違いなどから生じる「まったく新鮮な」食材を廃棄から救い、貧困家庭やボランティア組織に配る仕組みが一般的となってきた。ひと口にフードバンクといっても、多様な救済パターンが生まれている。

これはまさに、食材ロスがある程度予測できるものになり、生鮮食料品のように「スピードをもって救済」しないといけないものとして、機動的に対応できるようになったことが大きい。さきほどのラスベガスのリゾートホテル各社もフードバンクのメンバーとなり、使わなかった食材を提供している。

かつて、ニューヨークの国連本部で開かれたサミットに参加した小泉進次郎環境相が、アメリカで何を食べたいかと記者に聞かれて、「毎日でもステーキを食べたい」と言って、バッシングを浴びたことがあった。しかし、その際に記者が質問すべきだったことは、相手が環境相でもあったので、「ちゃんと残さずに食べたのか?」というものが適切だったにちがいない。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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