高齢化急進展の中国で「日本式」介護ビジネスが大盛況

高齢化急進展の中国で「日本式」介護ビジネスが大盛況

  • JBpress
  • 更新日:2021/04/08
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北京の公園で中国将棋に興じる中高年の人々。中国では日本以上のペースで高齢化が進んでいる。2013年1月資料写真(写真:アフロ)

(譚 璐美:作家)

2021年3月12日、アリババ系列の中国金融サービス企業「アント・グループ(螞蟻集団)」のCEO(最高経営責任者)の胡暁明(サイモン・フー)氏が辞任した。胡氏の希望で、今後はアリババとアントの公共福祉事業を行うという。なにゆえ最先端のフィンテック企業のトップの座を降りて公共福祉事業に取り組むのか。

日本で高齢化が大きな社会問題になっているが、実は中国でも今後の経済成長を阻むほどの規模とスピードで高齢化が進んでいるのだ。

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6年後には「人口減少社会」へ

中国が高齢人口7%を超えて高齢化社会に入ったのは1979年。それ以来、高齢人口は増え続け、中国民政部が2020年10月に発表した統計によれば、「2021~25年までの5年間に60歳以上の高齢者の人口は3億人を超える」とされ、2022年の段階で、総人口に占める65歳以上の割合は、早くも15%以上になると予測されている。

国連統計も、中国の急速な増加スピードを裏付けた。国連予測では、1999年~2020年の世界高齢人口の年平均増加率は2.5%だが、中国の増加率はそれより速い3.3%で、2020年に1億6700万人に達し、世界の高齢人口の24%を占めるに至った。

その一方、中国のシンクタンクである社会科学院は、2019年1月、少子化により「人口減少は早ければ2027年から始まる」と予告した。

高齢化と少子化による人口構成のアンバランスは、毛沢東時代の「一人っ子政策」によってもたらさせた負の遺産だ。それに気がついた中国政府は、2016年から「二人っ子政策」の実施を決定したが、経済成長した中国では物価が高騰し、多くの国民は住宅ローンや医療費、教育費などを抱えて、「産めても養えない」という不安から出生数が増えず、2019年の出生率は、1949年以来の過去最低を記録した。

中国の高齢化の特徴は増加スピードばかりではない。女性が男性よりも多いのだ。特に80歳以上の女性人口の割合は男性より50~70%も多い。そしてなにより深刻なのは、経済成長を上回るスピードで高齢化が進んでいることである。

2035年には年金積立金が底をつくとの報告も

高齢者を支える年金制度も危機的状況にある。2019年4月に社会科学院が公表した報告書によれば、サラリーマンら3億4000万人が加入する全国都市企業従業員基本年金の積立金は、このままだと2035年には底をつくというのだ。

もともと中国では儒教思想が根強く、「家」制度の下で高齢者は家父長として敬われ、同居家族が介護を担うものとされてきた。1996年に「高齢者権益保護法」が制定されたことで、法的にも高齢者を養うことが家族の義務になった。

だが近年、経済発展により晩婚化が進み、都市部では独身生活を謳歌する若年層が消費に走って預貯金などなく、とても親の面倒を見るどころではない。郷里では「空の巣老人」(子供が巣立った後の高齢者)の割合が急増した。2016年の調査では、独居老人と高齢夫婦だけの世帯が高齢者の5割以上を占め、とくに農村部では孤独死や自殺が増えて、深刻な社会問題になっている。

中国政府は日本を真似て国民介護保険制度を取り入れようと、2016年3月、第13次5カ年計画(2016~20年)で「長期介護保険制度の構築を検討する」と明言したが、まだ着手したばかりだ。

こうした背景の下、中国では日本式介護ビジネスや老人ホームの建設が注目されるようになった。日本政府が日本の医療・介護技術を輸出する「アジア健康構想」を立ち上げ、2017年から「介護ビジネスの国際展開」を積極的に推進したことが、後押しした。

とはいえ、日本式介護ビジネスが浸透するための壁は高い。日本企業が中国へ進出しても、言葉の壁や生活習慣の違いから、市場調査が難しく、中国人のニーズに十分応えられないのだ。そんな中、日本在住の中国人起業家たちは、いち早く中国で日本型介護ビジネスや高級老人ホームの経営に乗り出した。

富裕層向けの高級介護サービスが注目

上海市で訪問介護などの在宅サービスを展開する「福寿康(上海)家庭服務有限公司」は、日本で介護サービスを学んだ張軍氏が経営する事業体で、成功例として日中のメディアでも注目されている。現在3000人の介護人材を擁し、上海市内約100カ所で介護事業所を展開しているとされる。

80年代に来日しIT事業で成功を収めた李明氏(仮名)は、さらなるビジネス展開を目指して、現在、深圳市に高級老人ホームを建設中だが、「すでに出遅れた感がある」と話す。

李氏が計画しているのは、ホテルのような贅沢な装飾と専用コックがいるダイニング、広々とした個室を備えた富裕層向けの老人ホームだ。施設には、医師と看護婦が常駐し、24時間の完全介護、リハビリ施設も併設して、鍼灸や按摩など中国の伝統的治療も行う。また、介護者の養成も行い、きめ細やかな日本式介護サービスを全面的に実施するつもりだ。入居資格は学歴や資産などで厳選し、入居料も高額に設定する予定だが、竣工前から入居希望者が殺到しているという。

広東省広州市から深圳市にいたる郊外地区には、国際ビジネスの成功者や、外国籍を持つ中国人が所有する高級別荘が多数ある。所有者は退職後に悠々自適の生活を夢見る一方、近い将来介護が必要になったときのために、高級老人ホームを今から確保しようと躍起になっているのである。

冒頭に触れた胡暁明氏のアント・グループCEO辞任の裏には、この莫大な収益が見込まれる富裕層向け介護ビジネス市場への参入という目論見があると見て間違いないだろう。

譚 璐美

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