
食事は管理栄養士がメニューを作成(この日の昼食メニューは「米麦飯、高野豆腐の五目炒め、小松菜の酢の物、タラモポテト」)
多くの人がその実像を知らないのが「刑務所」だ。そのなかでは、どんな生活があるのだろうか。体験取材を得意とする女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんが、新田な更生プログラムが導入された刑務所「喜連川社会復帰促進センター」(栃木県さくら市)へ取材を行った。令和の受刑者たちは、どんな食事をして、どんな作業をし、どんな服を着ているのだろうか──。
【写真】朝食、夕食のおかずもバリエーション豊富。受刑者たちの実際の作業風景や衣服なども
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地元・栃木県産の野菜や乳製品を使った地産地消メニュー
刑務所の食事を「クサい飯」などといったのはいつの時代の話だろうか。ご覧の通り、栄養のバランスを考慮したおいしそうなメニューだ。
成人男性の場合、1日2300~2600kcalで、座っての作業か、立って動き回るかでカロリーを変えるなど、細やかな配慮がなされている。
調理や配膳、片付けまですべて受刑者が行っていて、野菜や乳製品などは、地元産の新鮮で安価なものが提供されている。また喜連川社会復帰促進センターでは、2017年からパン作りを開始して、ここでの朝食のほか、栃木刑務所にも納入している。地元産小麦粉を100%使用していて、「おいしい!」と評判になっているそうだ。「喜連川社会復帰促進センター」の調査官・青柳宏さんは、このように説明する。
「食事は受刑者の最大の楽しみです。昼食は30分ですが、10分ほどで食べ終えて気の合う者同士がおしゃべりをして過ごしています」
12時まであと30分。案内の青柳さんに「ここが受刑者の食事を作っている厨房です」と言われるまでもない。建物の横を通ったときに中華料理のいいにおいが漂ってきて、私のお腹もグーと鳴った。
受刑者だろうが見学者だろうが、昼になればお腹が空く。天気がよければ気持ちがいいし、寒い日には白湯ひとつがありがたいんだろうな。
「同じ人間ですから、人としての基本はみんな同じです」
知り合いの元刑務官の言葉が、初めて実感をもって迫ってきた。
割り当てられた作業を黙々とこなす受刑者たち
民間企業から委託される製品の組み立てや加工が刑務作業のメインだが、民芸品を作ったり、受刑者の食事を作る、衣服を洗濯する、敷地の草取りをするなど、ライフラインを支える作業が密接に絡み合って刑務所は成り立っている。どの作業に就くかは、適性や性格を見て、刑務官が会議で決めているという。
「複数の受刑者を1人か2人の刑務官で管理監督をするのはたやすいことではありません。調理のときの包丁ほか、作業によっては刃物を使わなければならないものもあるし、やろうと思えば凶器になるものもある。そういう作業に適している受刑者を決めることから始まって、どんな指導をするときも、隙をついてなれ合ってこないように常に緊張しています。受刑者の中にはわれわれの何十倍もコミュニケーション能力が高い人間がいくらでもいますから」(青柳さん)
私たちが見学した日は青空の下、数人が農場で土を運んだり、スコップで穴を掘ったり。きびきびした動きを遠くから見ていると、彼らが罪を犯した人だということをつい忘れそうになる。
「受刑中に覚えたスキルを出所後に生かしてくれたら、こんなにいいことはないですけどね」(青柳さん)
刑務作業は昼休みや、途中の水分補給の短い休憩を入れて、1日7時間。土・日・祝日は休業だそう。
下着も支給されたものを着ける
入所したら私服はすべて脱いで、下着まで支給されたものを身に着ける。衣服は洗濯係の受刑者が定期的に洗い、乾燥させ、畳んで返してくるので清潔だが、よく見ると、長年の使用で全体的に毛羽立ち、古びていた。作業で腕などにけがをしないよう、部屋着も作業着も長袖だ。
●喜連川社会復帰促進センター
定員は男性受刑者が1906名、女性受刑者が50名の1956名。刑期8年未満の受刑者を主に収容。施設敷地面積は425.891平米(東京ドーム約9個分)。職員は397名(支所を含む)。2021年末のデータによると、受刑者の罪状は、窃盗約30%、詐欺約21%、薬物事犯約12%、傷害約3%、強盗約3%、その他、交通事犯者や性犯など。
【プロフィール】
オバ記者こと野原広子(65才)/空中ブランコ、富士登山など体験取材を得意とする。
※女性セブン2023年3月23日号
マネーポストWEB