急に安否判明の中国テニス選手、消えた性的関係強要の前副首相

急に安否判明の中国テニス選手、消えた性的関係強要の前副首相

  • JBpress
  • 更新日:2021/11/26
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前副首相に性的関係を強要されていたと告発して以降、その安否が心配されていた彭帥選手(写真:AP/アフロ)

11月2日深夜、中国を代表する女子テニス界のスター、彭帥(ほう・すい、35歳)選手が、張高麗(ちょう・こうれい、75歳)前副首相に性的関係を強要されたと告発した問題は、3週間を過ぎた現在でも、火種が消えない。張氏は、2017年10月まで中国共産党の中央委常務委員(トップ7)を務め、2018年3月まで副首相を務めていた。

当初、外交部報道官は「これは外交問題ではない」と逃げていたが、中国に対する世界的な非難は高まる一方だった。すると18日、CGTN(中国環球電視網英語チャンネル)が、彭選手がWTA(世界女子テニス協会)のスティーブ・サイモンCEOらに送ったものだとするメールの文面を、ツイッターに投稿した。

続いて、20日には中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』傘下の『環球時報』の胡錫進(こ・しゃくしん)編集長がツイッターに「間もなく公の場に姿を現し、活動に参加する」と書き込み、さらに同日、中国国営メディア(CGTN)の国際ニュースエディターでコラムニストの沈詩偉氏がツイッターで彭帥選手が自宅でぬいぐるみに囲まれて寛ぐ写真を公開した。また翌21日には、彭帥選手が北京のジュニアのテニス大会の開会式に出席した映像や、テニス関係者たちとレストランで夕食を楽しむ動画が胡編集長や沈氏によってツイッターにアップされている。

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中国国営メディア(CGTN)の沈詩偉氏のツイッターで公開された彭帥選手の近影(提供:Shen Shiwei/Twitter/ロイター/アフロ)

さらに21日には、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長が、彭帥選手とオンラインで約30分、面談したと発表。来年1月に北京で会食する約束をしたとも述べ、面談の写真を公開した。今後もまだ何か出てくるのかもしれないが、この原稿を書いている24日時点では、ここまでだ。

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北京五輪パラリンピック閉幕までは問題ない彭帥選手の安否

中国ウオッチャーである私からすれば、いま最も注視しているのは、彭帥選手の安否ではない。ここまで国際社会が「外圧」をかけ、中国側も来年2月につつがなく北京冬季オリンピックを開催したいと切望している現在、彼女を拷問したり刑務所に叩き込んだりという選択肢はないのだ。

おそらく来年1月には、本当にバッハIOC会長と会食し、その際の「スマイルシーン」を世界のメディアに公開するだろう。そして「あら、彼女本当に無事だったのね」ということになるに違いない。

重ねて言うが、「彭帥選手の安否」という点においては、少なくとも来年3月13日に北京冬季パラリンピックが終了するまでは、問題ないのである。「問題がある」のは、むしろ張高麗前副首相の方なのだ。もともと中国では、引退した幹部の消息が伝えられることは稀だが、それにしても一切の動向が伝えられていないではないか。

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彭帥選手に対して性的関係を強要していたことを暴露された張高麗前副首相。騒動以降、その消息は一切伝わってきていない(写真:AP/アフロ)

引退した党最高幹部が住まう党中央監視下の高級住宅地

3週間前に、私はこのコラムで「彭帥選手の告発」を全訳して公開した*1。その中で、下記のようなくだりがあった。

<終始一貫して、あなたは私に、二人の関係を一切秘匿するよう命じてきた。あなたと男女の関係になっていることを、私の母親にも告げてはならないと言った。いつも母が車で私を、西什庫教会のところまで送ってくれて、そこであなたの家の車に乗り換えて、初めてあなたの家に入れる。だから母はずっと、私があなたの家に、麻雀をしに行っていると思っていた>

ここに、「西什庫教会」(西什庫教堂)という場所が出てくる。清朝の康熙42年(西暦1703年)に建てられた、北京でほぼ最古にして最大の教会だ。英語名は「The North Church」。住所で言えば、北京市西城区西什庫大街33号である。

ここで待ち合わせをするということは、張高麗前副首相の自宅が、ここからほど近いことが推察できる。現役の最高幹部の職住地である「中南海」から、西安門大街を隔てた北西に位置する地域だ。清朝時代には皇族や貴族の「四合院」が連なっていた場所で、いまそれら四合院を買えば、邦貨で数十億円はくだらないはずだ。10年ほど前、北京に住んでいた際に、同地域に住んでいた中国人の知人がいて、何度か遊びに行ったが、まだ物価がずいぶんと安かった当時でさえ、邦貨にして5億円で買ったと言っていた。

*1 〈全訳掲載〉中国有名テニス選手が暴露、前副首相との不倫の来歴
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67597

中国共産党中央委員会の慣例として、「トップ7」を引退すると、北京西郊の西第五環状道路の外側にある西山という風光明媚な地域に、一軒家を与えられる。そこでは万全の警備を敷き、老後のケアも行き届いていて、ほとんどの元常務委員たちとその家族が、そこで静かに余生を送っている。

例外は、習近平総書記と一線を引きたい元幹部である。西山で老後を過ごすと、警備が万全な代わりに、監視もまた万全だからだ。いつ誰が尋ねて来たか、どこへ外出したか、果ては自分の健康状態まで、すべて「党中央」(習近平総書記)に把握されてしまうのだ。

そのため、例えば「習近平総書記の最大の政敵」と言われた江沢民(こう・たくみん)元総書記は、上海で余生を送っている。そして今回、「江沢民の忠犬」として、2012年に「トップ7」入りした張高麗前副首相も、西山には住んでいないことが判明したのだ。やはり習近平総書記に対して、警戒心を抱いていると見るべきだろう。

張高麗氏にとって「天津大爆発事故」に次ぐ二度目の危機

実は張高麗氏は、習近平体制1期目の「トップ7」時代に、「失脚」が噂されたことがあった。2015年8月12日深夜、天津の浜海新区で、大爆発事故が発生した時である。あの6年前の爆発事故は、日本でもセンセーショナルに報じられたので、ご記憶の方も多いだろう。

あの爆発があった地域は、2007年から2012年まで天津市党委書記(市トップ)を務めていた張高麗氏が利権を握っていた。張氏が彭帥氏に惚れて、愛人にしたのも、天津時代だ。

あの爆発事故の夜、天津の警備当局幹部たちは北京に出張していて、警備が手薄になっていた。9月3日に習近平主席が主催する「中国人民抗日戦争勝利70周年軍事パレード」の予行練習を、8月13日に北京で行う予定だったからだ。

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『台湾vs中国 謀略の100年史』(近藤大介著、ビジネス社)

そのため爆発事故は、「習近平失脚」を図るため、江沢民一派の張高麗常務委員が企図したのではないかという噂が流れたのだ。実際、中国のネット上では、「張高利」(高利貸しの張)という新語が、頻出するようになった。「高麗」と「高利」の発音が同じ「ガオリー」なのだ。本来なら、「トップ7」のこのような悪口が、ネット上に上がるはずもないのだが、削除されるどころか拡散されたのだ。

だが、この時失脚したのは、「張高麗の最側近」楊棟梁(よう・とうりょう)国家安全生産監督管理総局長(元天津市副市長)だった。天津では、「張高麗の『替罪羊』(いけにえ)になった」と噂されたが、張氏は生き残った。

それから6年余りを経て、今回再び「張高麗スキャンダル」が巻き起こったというわけだ。習近平総書記がこれをどう収拾するのか、要注目である。

近藤 大介

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