現実の猫では考えづらい行動もある... それでも『Stray』が猫好きゲーマーの間で「リアルすぎる...」と話題になる“納得の理由”

現実の猫では考えづらい行動もある... それでも『Stray』が猫好きゲーマーの間で「リアルすぎる...」と話題になる“納得の理由”

  • 文春オンライン
  • 更新日:2022/08/06

「高すぎる。猫への解像度が…」気鋭の“猫研究者”が話題のゲーム『Stray』に感じた“正直な印象”とはから続く

発売されるやいなや、ゲーム内のキャラクターである猫のとる行動が「リアルすぎる」と話題になった新作ゲーム『Stray』。

【写真】この記事の写真を見る(5枚)

本作における猫の描かれ方を専門家は一体どのように捉えているのか。ここでは、京都大学大学院文学研究科行動文化学専攻心理学専修博士課程を修了し、現在、猫についてのさまざまな研究を行う動物心理学者の高木佐保さんの見解を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

◆◆◆

猫が狭い場所を好む理由

――よく見る行動ですが、なぜ猫はこういうことをしてしまうんでしょう。袋に入ったり箱に入ったり。

高木 猫が狭い場所を好む理由はまだわかっていないんですよ。そういう習性を持った生物であることは間違いないですけどね。

No image

狭い場所を好む猫 ©️iStock.com

――まだ解明されていないのですね。非常に馴染み深い光景なので、ちょっと意外です。

高木 心理学の実験では「行動の理由」まで解明するのは難しいんですよ。ただいくつか仮説は立てられます。

たとえば暗い場所や狭い場所は攻撃するときに有利なので好まれるのではないか……と。猫は待ち伏せ型の捕食者なので、視界の悪い場所で獲物が来るのを待つことが多いんです。もちろんそうした場所は敵に攻撃されにくい場所でもあるので、守りの面でも優れています。あくまで一つの仮説ですけれども。

服を着たらこうなる

――ゲームでは猫が腰を低くして歩く場面も描かれていました。

高木 あー、これもやりますよねえ、猫。服を着させたときには大体こう腰を低くして歩き回る。

――これはなぜなのでしょうか。

高木 まず、この子は最初にひっくり返っていますが、これは服を取ろうとしているんだと思います。体に異物がへばり付いている状態なので外したいなと。普通に何かが背中に乗っているだけなら体を振るって落とせるのですが、服は外せないからひっくり返ってみる。

それでも外れないので、猫にとってはどうしたらいいかわからない状態。なので、怯えているというか、警戒していて、腰を落として歩くのはそのためだと考えられます。

「ニャー」は要求の声

――ゲーム内の一連の動作として、ロボットにニャーと言って挨拶もしますが、このようなことはありえるのでしょうか。

高木 なんだか未来だとありえそうな光景ですね。猫がニャーというのはおおむね何かを要求している意味ということがわかっているので、もしロボットたちがエサをくれたりするのであればこのように声をかけるかなという気がします。

――ニャーは要求の意味を含んでいるんですね。ちなみに、街なかで猫を見かけたときにニャーと声をかけたらあっちもニャーと返してくれたりすることがありますよね。

高木 それも、何かを要求されているんだと思います。「なんか食べ物持ってきたのか?」とか、そんなところじゃないでしょうか。

――現金な猫ですね。こっちは「元気?」と気さくに挨拶したつもりだったのに、少し寂しいです。

高木 でも、猫の方からもコミュニケーションを取ろうとしてくれているので、無視されるよりも全然いいじゃないですか(笑)。

未来の猫はコミュニケーション能力が高い

高木 こちらの動画では、仲間とニャーニャー言い合ってるんですね。これは珍しい光景です。というのも、やはりニャーという鳴き声は要求の意味なので、猫がほかの猫に言うことってあまりないんですよね。

何かしてほしいときに、子猫が母猫にニャーニャー言うのはありますけどね。でも大人になった猫は基本無言です。声よりもボディランゲージやニオイでコミュニケーションをとっていく感じ。

――では、この動画のように「あっち行こうぜ」的に連れ立って動きたい場合、猫たちはどういうサインを出すのでしょうか。

高木 んー、なかなか集団で移動をするということがないですからね。「あっち行こうぜ」はないかもしれないです。狩りも単独ですし。どこかでエサをくれている人がいて、ほかの猫たちがそこに行くから「なんかあるのかな?」と思って付いていくみたいな状況なら複数頭が一緒に歩いている雰囲気になりますが、連れ立って動くということはまずないと思われます。

――そうですか。ゲームのこの場面では自分(猫)の行く方向にみんなが付いてきてくれたり、他の猫が次のルートをこっちだよと示してくれてそっちに行ったり、一体感のある猫行動ができて楽しかったのですが、現実の猫では考えづらい行動ということですね。

高木 100年後にはこういう猫たちがいたりするかもしれないですけどね。

集団生活をする猫ほど生き残りやすく、集団から外された猫は子孫を残せないような環境であれば結果的に社会性の高い個体が増え、インタラクション(交流)の形式も豊かになっていくはずです。集団で狩りをする方が有利な環境になれば、集団での狩りも増えてくるでしょう。実際、最近の傾向として「猫がどんどん社会的になっている」「猫が犬化している」などとも言われていますし(*1)、今後あっても全然おかしくはない変化かなという気はします。

*1 保護猫などで飼い主から離れたときに問題行動を起こす「分離不安」の報告が多くなっている。ただし、猫の社会性が高まっているという正式な論文はまだないので、あくまで「ウワサ話程度」とのこと。

お腹の上で寝る

――私は猫を飼った経験がないのですが、こうやってお腹の上で寝るというのはよくあるのですか?

高木 ありますよ、かわいいですよね……。

――かわいいです。

高木 お腹の上で寝るのは、信頼している人に対しての行動なので、やられるとかなり嬉しいものですよ。明らかに冬の方が頻度が増えるので、湯たんぽ代わりに使われている感も否めませんが……。でも、誰にでもするわけではないのでやはり嬉しいものです。猫の代表的な親和行動(飼い主や仲間に対して親愛の情を示す行動)ですね。

猫がたてる“ゴロゴロ音”の本当の意味

――ゲームのプレイヤーからは「猫が寝たときにコントローラから寝息とゴロゴロ音とわずかな振動が伝わってくる」リアルさがすごいといった反応もありました。

高木 面白いですね! リラックスしているときなどに喉をゴロゴロいわせる行動がゲームに反映されているということですね。

――いい演出ですよね。ゴロゴロと音を立てるのは、リラックスすると出ちゃうものなんでしょうか? それとも飼い主に対して自分の満足を示すために出しているものですか?

高木 その判別もめちゃくちゃ難しいです。

――「行動の理由」の解明は難しいのでしたね。

高木 そうなんです。だから、その問いの答えはわかっていないです。ただ、リラックスしている時だけでなく、エサを催促する時、めちゃくちゃお腹が空いている時などもゴロゴロいうんですよ。あと獣医さんにいく時とか、猫にとってすごく怖い状況でも実はゴロゴロいってます。

――それは意外でした。そのゴロゴロは全部同じゴロゴロなのでしょうか?

高木 それぞれの状況で音響が違うという研究結果はありますけど、私からするとあまり違いは分かりません。なのでどう捉えたらいいのかは非常に悩ましいところ。仮説として、純粋にリラックスしている音というより「リラックスしようとしている時に出す音」と捉えられるのではないかと私は思っています。

――自分に言い聞かせようとしているという解釈ですか。そうだとすると、私たちは猫がゴロゴロいっているからといって満足してるなと安心はできないわけですね。まだ猫が本当の満足には至っていない可能性を考慮してあげないといけない。

高木 そうですね。猫の心理について考えるきっかけにしてみていただけるといいかもしれません。動物心理学の分野では犬などに比べて猫の研究はまだまだ進んでいないので、研究の余地が大いにありますよ。

――今回は『Stray』の猫をご覧いただきましたが、こういったCGが動物心理学の研究に役立つ可能性などはあるのでしょうか。

高木 今後もっとリアルなCGができれば、研究で使える可能性は十分あると思います。特に2個体以上の猫の関係性を調べる実験は個体同士の関係性を考慮した上で実施するんですけど、それだと普遍的なデータではなくあくまで個別事例というか、その2個体の間だけの特殊な例ではないかとの疑念がどうしても残ってしまうんですね。

もしも、よりリアルなCGができれば、1個体の特性はCGで固定し、もう1個体の生身の猫がどう行動をするかがより客観的に観察できるようになるわけです。それは研究者として非常にありがたいことですし、期待したいところですね。

(いいだ,高木 佐保)

いいだ,高木 佐保

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加