地銀再編のカギは「合併」ではなく「機能統合」 累計30万部「捨てられる銀行シリーズ」の橋本卓典氏に聞く

地銀再編のカギは「合併」ではなく「機能統合」 累計30万部「捨てられる銀行シリーズ」の橋本卓典氏に聞く

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  • 更新日:2020/10/16
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累計30万部を突破した「捨てられる銀行シリーズ」の第4弾となる『消えた銀行員 地域金融変革運動体』(講談社現代新書)をこのほど上梓した、共同通信編集委員の橋本卓典さん。銀行はどう変わらなければならないのか? そして「数が多すぎる」という菅義偉首相のコメントからも注目が集まる地銀再編問題などについて聞いた。

『消えた銀行員 地域金融変革運動体』(講談社現代新書)

みずほFG「週休3・4日制」の本当の意味

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橋本 卓典(はしもと たくのり)共同通信編集委員。1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。09年から2年間、広島支局に勤務。金融を軸足に幅広い経済ニュースを追う。15年から2度目の金融庁担当。16年から資産運用業界も担当し、金融を中心に取材。『捨てられる銀行』シリーズ(講談社現代新書)は累計30万部を突破。本作はその第4弾となる。

本書では冒頭から、銀行員だけではなく、銀行組織全体として〝異質〟な人との交流を行うことで〝知性〟を広げていく方向にシフトしなければ、生き残れないことが強調されている。では、なぜ銀行は知性を広げていく必要があるのか? それは、融資、送金、決済など銀行の既存業務が、銀行ではなくても行うことができるようになりつつあるからだ。

それをある意味で証明しているのが、みずほフィナンシャルグループが発表した「週休3・4日制」、基本給が週休3日で8割、4日で6割に減額になるという新制度だ。

「どうしても必要な人材であれば、基本給はそのままにして週休3日でも良いから会社に残ってほしいとお願いするはずです」(橋本さん、以下同)

みずほの発表は、付加価値の高い人材を集めたり、つなぎとめることに効果があるのかは疑問だ。給与の最大4割カットには、人件費削減が真の狙いだと透けて見える。銀行員も「肩書」ではなく付加価値を磨かなければ生き残れない。

「銀行もフィンテックに目を奪われていますが、大事なのはこの現象の本質を理解することです。フィンテックとは、銀行のファンクション(機能)をアンバンドリング(引きはがす)することです」

つまり「送金だけ」「決済だけ」と、テクノロジーを使って機能別に銀行に取って代わるのがフィンテックの本質だ。

「新しい動きのように見えますが、セブン銀行が誕生したのも同じ文脈でとらえることができます。預金の預け入れ機能だけを、アンバドリングしたのです」

こうしたなかで銀行がすべきこと、付加価値を高められることは何か?

「企業支援しかありません」

橋本さんはこう断言する。担保や保証に依存しきってしか、融資の可否を判断できないような〝リスクから「逃げた銀行員」〟ではなく〝「逃げない銀行員」〟を本書では紹介していく。旧来の銀行員という枠組みだけで動いていてはクライアント企業のニーズに応えることはできないことに苦悩し、それでも何とか応えたいという逃げることを止めた銀行員たちが、自ら〝越境〟して、そこから得られた新しい「知性」「人的ネットワーク」などを活用して、クライアント企業を支援していく姿をとらえている。

「コロナウィルスの感染が急速に国境を越えて広がったのは、世界がネットワーク化してつながったからです。逆に銀行は〝知性の感染〟を防いでしまいます。というのも、外と交わらないように、接触しないように『心のマスク』をすることが銀行の文化だからです」

地銀は数が多いことが問題なのか?

菅首相の発言によっても注目される地方銀行の再編。今年5月に合併特例法が施行されたことで、「地域独占」へのハードルは下がった。しかし、法律ができたことによって「合併推進運動」のような形で、合併自体が目的化している。これに対して橋本さんは「合併は解決策ではない」と、警鐘を鳴らしている。

記者もその意見を聞いて納得するところがある。例えば、「平成の大合併」で多くの自治体が合併をして合理化が図られたが、小さいながらも主体的に町づくりを行っている、合併に参画しなかった自治体のほうが、今となっては活気があるという印象を持つ。逆に、名前をなくし、広域化した自治体のほうが「自分たちの町を自分たちで守り、作り上げていく」という意識が失われてしまったのではないかと感じられることがある。これも、合併することが目的となってしまった結果なのではないだろうか。

本書でも「銀行店舗はコストセンターだとして、合理化のため閉鎖してもよいのか?」と疑問を投げかける。「企業支援」を付加価値とするのであれば、地域の店舗は企業との重要な接点になる。さらに、「地元銀行が合併される側となった場合、県外に母体がある銀行はどこまで面倒ををみてくれるのか?」という不安も残る。

銀行の業務を引きはがすフィンテックが台頭しているなか、必要なことは銀行自体の合併ではなく、「機能の統合」だと橋本さんは指摘する。

「現金輸送、ATM、システム、究極的には預金さえも、銀行機能で統合できるものは、どんどん統合するべきです。そのうえで、企業支援という付加価値を生む業務で、各銀行は競争するべきです」

当たり前と思っていることは、当たり前ではない

「100年前、人々は自動車のことを『馬なしの馬車』だととらえていました。そして、故障が少なくないことから馬車のほうが便利だとさえ思っていました。目の前で起きているにもかかわらず、社会経済構造さえ変えてしまっていることに、人々は思いいたらなかったのです。

それは今でも同じことです。例えば、私の息子がYoutubeを2倍速で見ていました。なぜ? と尋ねると、『時間がもったいないから』という答えが返ってきました。情報が多すぎて、時間のほうが足りなくなっているのです。時間がより貴重になっている。私たちにとって馬車よりも自動車のほうが便利なことは常識になっているように、時間のとらえ方、使い方についても、将来は違う常識が生まれているかもしれません」

目の前で起きていることなのに、その重要性に気づけない。記者もiPhoneが登場したときに、大手携帯キャリアの社員が「文字盤がないとメールが打ちずらい。これは流行りませんよ」と言っていたことを思い出した。今、気が付けないことが少ないからこそ、様々な知性との交流をすることによって、モノの見方を変えなければならない。

「セブン銀行がそうだったように、フィンテックの原型はもっと前からあり、グラデーションのように変化していたのです。これまでと違う目線や思考でとらえれば、ものの見え方も変わります。ヤフーが副業を解禁しましたが、面白いのは、自社を副業先にして良いとしていることです。より優秀で多様な人材が集まってくることを期待しているからです。目的は、知性を集めて新しい付加価値を生み出すことです。副業はその手段なのです」

必要なのは銀行員が個性を発揮できる〝場づくり〟

銀行員と言えば、いい意味、悪い意味で「常識人(まじめな人)」というイメージで、前例を打破するような個性的な人がいるの? と思ってしまう。

「銀行の中にも個性を持った人はいます。問題はそれを発揮できる場がないことです。人の目が気になったり、余計ないことをして刺されるのではないかと心配したり。組織を大きく変えていくときには有効なのは、変化しやすい「危険な場」を作ることです。物理の実験で、砂山が壊れるかを調べたものがあります。崩れやすい危険な斜面を数多く用意すると、一気に大崩落が起きます。グーグルなどが20%ルールを設けて、本業とは違うことをさせているのも同じことだと思います。個性を求めることではなく、あちこちで個性を出す場を作ることが大事なのです。よそ者、バカ者、若者を集めても、場がないと機能しません」

橋本さんは、本書を通じて伝えたいのは銀行業界のことだけではないと話す。「なんでうまくいかないのか? その集積地が銀行」であって、問題の本質は、日本の企業社会全体と共通しているのだ。

記者も、特に今回の『消えた銀行員』は、金融業界のビジネスパーソン以外にも読むべき内容が詰まっていると感じた。詳しくは本書に譲るが「エモーショナル・インテリジェンス」など、世界のビジネスの潮流がどこに進もうとしているのかなど、鋭い洞察に溢れている。

友森敏雄

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