名波監督が実践する「兄貴分的マネジメント」――ジュビロ磐田・名波浩インタビュー #1

名波監督が実践する「兄貴分的マネジメント」――ジュビロ磐田・名波浩インタビュー #1

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/09/16

名選手は必ずしも名監督にあらず。

スポーツファンなら一度ぐらい耳にしたことがあるだろう。

だが「名選手ゆえの名監督」が、サッカー界には多い。世界に目を移せば欧州チャンピオンズリーグ2連覇を達成したレアル・マドリーを率いるジネディーヌ・ジダン、バルセロナの黄金期を築き上げたジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ)、アトレティコ・マドリーを欧州トップクラスの強豪に仕立て上げた闘将ディエゴ・シメオネ……。現役時代、彼らはレアルの、バルサの、アトレティコの中心であり、代表でもそうだった。そして40代半ばにある今、指導者として確固たる地位を築いている。

日本にも、同じ香りを漂わせる男がいる。

名波浩、44歳。

ジュビロ磐田でいくつものタイトルを獲得し、日本代表では「10番」を背負って98年フランスワールドカップに出場。セリエAのベネチアでもプレーした彼は、低迷期にあった古巣ジュビロの監督に就任してJ1に引き上げ、昇格2年目の今季は上位に食らいつく健闘ぶりを見せている。チームを一つにまとめ上げる、その抜群の求心力はどこから生まれているのか――。

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©文藝春秋

なぜ選手たちは名波監督に抱きつくのか

――昇格1年目の昨季は残留争いに巻き込まれましたが、今季はACL(3位以内)も狙える位置につけています。6月4日のガンバ大阪戦からは6連勝を飾りました。

「正直、想定外ですね。普通、ここまで連勝するとは思わないでしょ(笑)。サッカーは何が起こるか分からないから面白い」

――それも昨年の上位チーム、ガンバ大阪に3-0、浦和レッズに4-2、そして川崎フロンターレに5-2と、快勝しています。監督として、どうやってチームを勢いづかせたのでしょうか?

「いつも言っているチームとしてやるべきことを選手たち自身が肌で感じてくれて、プラス個々のストロングポイントを肉付けしてやってくれているのが、チームの力になっていると感じています。勝ち出してそれが自信になって、ゴールを多く取れてきている。前への推進力が全体的に生まれ出しているなって思いますね」

――今季、加入した中村俊輔選手の活躍もさることながら、浦和戦はその大黒柱が不在の中で勝ち切りました。後半途中から出場した松浦拓弥選手が2ゴールの活躍。チャンスを与えられた選手が結果を出しているのも、今年のジュビロの特徴です。

「松浦の場合、昨年までは練習での遅刻グセがあってそれでベンチ外にしたことがあったけど、今年はなくて。ただスタメンで7試合使ってみて、パフォーマンスが良くないから一度ベンチ外にしました。(活躍できたのは)松浦の気の持ちようと、パフォーマンス向上への志。それがあったから使ったときにポンと結果が出たように感じます」

――松浦選手を含め、ゴールを決めるとベンチに走っていって名波監督に抱きつくシーンが目立ちます。あの俊輔選手ですら、抱きつきにいったほど。その求心力はどう生み出しているのでしょう?

「どうなんですかね、それはちょっと分からない(笑)」

選手の“ちょっとした変化”を見逃さない

――言い方を変えると、どうやって選手たちをヤル気にさせているのか。選手たちと非常に良くコミュニケーションを取っている印象を受けるのですが。

「その答えになるかどうかは分からないけど、何気ないところまでしっかり見ておくことは大事かなって思います。たとえば練習で走行距離を測るためGPSの腕時計をつけさせていて、いつも右手にしているヤツが左手にしていると“どうしてきょうは左なんだ”とか声を掛けます。“スパイクの色を変えたな”でも何でもいい。ちょっとした変化に対して見逃さないようにしている。アイツ、ウォーミングアップから気持ちが入ってないなって気づくと、秀人(鈴木ヘッドコーチ)たちにも言って共有する。選手の(気持ちの)温度には相当敏感にやっているつもりです」

――見ることが大切だ、と。

「知る、情報を集めるということも大切。自分にはいろいろなツテがありますから、選手のプライベート情報などもいろいろと入ってくる。そういうのをちょっと選手に伝えると、“えっ、どうして知っているんですか”となる。そこからのQ&Aだったり、見る、知ることでコミュニケーションする。“見てんな、知ってんな、このオッサン”と思ってくれればいい。話すことで選手の温度を分かっておくことが大事なんです。その温度が分かっていないと、温度の違いに気づけなくなる。温度を分かったうえで、もちろん厳しいこと、きついことも言いますよ」

――たとえば全体練習の後も居残りで川又堅碁選手のシュート練習を指導したり、個別でもトコトン付き合うのが名波流かな、と。

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「まあ自分が一番シュートうまいから仕方ないですね(笑)。ストライカーは難しいバウンドをワンタッチで打たなきゃならない、そういうシチュエーションが多い。(想定した)シュート練習が今、活きているとは思います。継続してきたことが結果につながると、それが自信や財産になってくれる」

――4年ぶりに2ケタ得点をマークした川又選手は「俺が決めんでも、チームで点が取れれば何でもいい」と言ってます。

「そう考えるようになってから、点をたくさん取り始めた。ゴールはみずもの。そういうポジションだからこそ余計にチームのことを考えておかないと、自分のところにボールが来なくなる。自分のことしか考えないヤツなら周りも“なんだアイツは”ってなりますから」

選手とも普通にメシを食いにいきますから

――「規律」や「平等」も重視していると感じます。

「平等と言っても、固執しているところはありますよ。キーパーのカミンスキー、センターバックでキャプテンの大井健太郎、そして中村俊輔。これは選手たちにも言ってますから。11個のポジション全部が競争じゃない、絶対なヤツもいる、と。

ただ選手の出し入れで言ったら、調子のいいヤツが出るべきだとは思う。人間には必ずバイオリズムがあるから、そのてっぺんじゃなくて、てっぺんに向かって上昇しているときにチャンスを与えることを意識しています。公式戦の先発、サブ、または紅白戦のレギュラー組に入れてみる。松浦がベンチから外れたときはチームとしても苦しい時期だったけど、“俺にもチャンスがあるんじゃないか”と思って頑張るヤツがボコボコでてきた」

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――見る、知る、寄り添う。そしてみんな一緒になってチームをつくっていく。言葉にすれば「兄貴分的マネジメント」とでも言えるでしょうか。

「人からどう見えるかは別として、危機管理とちょっとぬるい感じ、その両方をさじ加減しているつもりです。監督のタイプとしてはコミュニケーションをあまり取らない人がいるかもしれないけど、俺はトコトン取りますね。選手とも普通にメシを食いにいきますから。(選手は)感じるところがあったら、心に火もつくじゃないですか。直に接するところは、これからも大切にしていきたいですね。

監督、コーチ、選手、スタッフみんなで一緒にチームをつくっていこうぜっていう雰囲気じゃないと、サッカーは面白くない。自分だけやればいいなんて思ってサッカーをやってきたこと、自分は一度もないですから。やっぱりみんなで一緒にやっていくからサッカーというスポーツは面白いんだと思います」

(#2に続く)

(二宮 寿朗)

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