手術成功率99.7%の外科医が『ブラックペアン』監修で知ったこと

手術成功率99.7%の外科医が『ブラックペアン』監修で知ったこと

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  • 更新日:2018/07/12
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2018春ドラマの視聴率1位

日本人は医療ドラマが大好きだ。毎クール2~3作品は医療系ドラマがラインナップされている。2018年春の民放ドラマ視聴率ランキング1位(最終回18.6% 平均14.3%)は、TBSドラマの『ブラックペアン』だった。

そしてこの7月からも自閉症でサヴァン症候群の小児科医の成長を描く『グッド・ドクター』(フジテレビ)、アルバイト看護師から産婦人科の現状を描く『透明なゆりかご』(NHK)などが注目されている。

ドラマでは欠かせないジャンルではあるが、実際と異なる描かれ方に、医療現場から抗議を受けることも多い。『ブラックペアン』も、2話放映後に、日本臨床薬理学会から加藤綾子演じる“治験コーディネーターに問題がある“とTBSに抗議表明が提出された。

内容は、手術担当教授と高級レストランで密会、治験のお礼としての高額な金品の提供など、実際の治験コーディネーターの仕事とはあまりに違いすぎる職務や仕事姿勢に、抗議をした学会以外からも批判が多く集まったのだ。当然ながら、会食も金品の提供など実際の治験コーディネーターはしない。

さらに、一般財団法人 日本医療機器産業連合会からも「医療機器治験の実際について」という抗議文がホームページに掲載された。治験コーディネーターは上記の問題以外に、患者にきちんと説明なく治験を開始するシーンも。実際には、治験コーディネイターなどから十分な説明があり、患者の自由意思で決めるもので、理解と同意がない限りは行われないことを抗議文では説明していた。

毎シーズン人気の医療ドラマ、「ドラマはフィクション」で許されるのか? リアルはどう描くべきなのだろか?

医学界からの抗議の歴史

実は、医療ドラマの歴史を紐解いてみると、『ブラックペアン』以外にも、医学界から抗議を受けた作品はいくつかある。

有名どころから行くと、橋田壽賀子のオリジナル脚本で、女医を通して戦後日本を描いたNHK大河ドラマの『いのち』(1986年)。「眼科の描き方に問題がある」として、眼科医会からNHKに送られた抗議文が読売新聞に掲載されている(1986年8月31日付)。

心療内科を舞台に心の病を持つ患者の症例を中心に描いた『心療内科医・ 涼子』(1997年 日本テレビ)では、メンタル疾患の描き方、心療内科医の診察の仕方などに問題が多く、実際の患者が心療内科への受診をしなくなることを危惧し、日本心療内科学会が日本テレビに抗議文を出している(読売新聞1997年12月9日付)。

このドラマはかなり大きな論争を呼び、サンデー毎日(1997年12月7日号)で、『「心療内科医・涼子」に現場医師が大ブーイング?』という記事が組まれ、医療指導をした東邦大学大森病院心療内科が心療内科の範疇を逸脱していると抗議をしている。

死亡率が実際の3倍以上

抗議に対して「ドラマはフィクションなんだからエンターテインメントとして観ればいいではないか」という意見もある。しかし、医療ドラマの影響が、医療への認識や不信感に影響を及ぼすと指摘する専門家もいる。

ベルギーのルーベン・カトリック大学のジャン・ヴァンデン・ブルク博士は、2002年に救急医療の専門誌『European Journal of Emergency Medicine』で、医療ドラマの影響研究調査を発表している*1)。

大学生820名を無作為に選び、医療ドラマを観る習慣、心肺蘇生の知識についてなどのアンケートを行った。その結果、医療ドラマを観る習慣が高い人は、緊急時に心肺蘇生をすればその後助かる、と予測値が高いことがわかった。ブルク博士は、医療ドラマが、心肺蘇生の過大評価につながっている可能性がある、と指摘する。

また、米国外傷外科学会が発行の専門誌『Trauma Surgery & Acute Care Open』では、アメリカのセント ジョセフズホスピタル アンド メディカルセンターのローズマリー.O.シェローネ氏らが、人気医療ドラマ『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』の問題点を指摘。シーズン1~122に登場する患者290例と、実際に米国立外傷データバンクで2012年に登録された患者4812例を比較して、現実とドラマの治療の違いをレポートしている(2018年2月)*2)。

ドラマでは、死亡率が実際の3倍以上も高く、重傷者は、実際よりも早い期間で退院していた。ドラマチックさが求められることで、ありがちな症例でないものがクローズアップされ、それが現実の医療と思われてしまう危険性があり、医療の満足感低下にもつながる可能性があることを指摘している。

確かに、「ドラマはフィクション」とはいえ、無意識のうちにそこに描かれていることが「医療情報」として刷り込まれている可能性は否定はできない。観る側にもそんな危険があることは、作り手側が認識しておくべきなのかもしれない。

医療監修で伝えたかった最新医療

医療ドラマには、「医療監修」というクレジットが入っている。医療機器の扱いや治療や手術シーンで違和感がないかを指導するのが主な役割だ。しかし、医療監修に厳密な決まりはなく、仕事内容もドラマによってさまざまだという。

『ブラックペアン』で手術支援ロボットの医療監修を担当した『ニューハート・ワタナベ国際病院』の渡邊剛医師。渡邊医師は、日本で初めて“完全内視鏡下での“オフポンプ手術”を成功させ、ロボット手術のパイオニア的存在。手術成功率は99.7%という世界一の記録を持つ心臓外科の名医だ。今回、実際に医療現場で使われている手術支援ロボットの「ダビンチ(ドラマ内では、ダーウィン)」が日本で初めてドラマで使用されるということで、渡邊医師に医療監修のオファーがかかったという。

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世界で賞賛される心臓外科医の渡邊剛医師撮影/DAA(アンチエイジング医師団)

「私は5話の手術支援ロボットが登場するところから医療監修を行いました。ロボット手術というとボタンひとつでオートマティックにやってくれる機械と思われがちですが、実際にはかなりトレーニングが必要です。それをスムーズに動かすシーンを撮影するために、アドバイスやサポートを行いました」(渡邊医師)

手術依頼も多く、多忙な渡邊医師が、医療監修の依頼を受けたのには、ある理由があったという。

「私が初めて『ダビンチ』で手術を行ったのは2005年。冠動脈バイパス手術を日本で初めて導入し成功させました。そこから経験を重ね、今では年間約40件、過去の手術数を合わせると460件を越えるロボット手術を行っています。

ですが、心臓外科のロボット手術はまだまだ一般には知られていません。実際には、日本はアメリカに次いで、2位のダビンチ導入率も誇っています。さらに、今年の4月1日から、心臓弁膜症に対してのロボット手術が保険適用になりました。保険適用になれば、手術費も高額ではなくなり、多くの人が受けられる形になります。

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ドラマでも使用された手術支援ロボットの『ダビンチ』撮影/DAAアンチエイジング医師団)

ドラマで初めて本物のロボットが使用されるならば、身近になったロボット医療をドラマを通して、正しく知ってほしいという思いもありました。」(渡邊医師)

“人間かロボットか”の対立抗争は古い

ただ、実際にドラマとして映像化されたものを観ると、ロボット手術が正しく伝わるか不安になる面も多かったという。

「私の監修は5話目からでしたが、治験コーディネーターの問題が2話で発生しました。正直、こちらが監修したこともきちんと描かれているか、と心配になりました。

特に、気になったのは、“人間か、ロボットか”といった医師の手による手術とロボット手術が対立構造です。実際の現場では、こういった対立構図はありません。フィクションとしては、演出の材料になるのかもしれませんが、こういう描かれ方をするとロボット手術は人よりも危ないと思われる危険がありますからね。

実際には、我々は“人間か、ロボットか”という考え方はしません。心臓外科のロボット手術は、傷が小さく済むという最大のメリットがあります。昔ながらの大きく胸を縦に開く正中切開の場合は、胸骨を切って行います。そのため、出血も多く、胸骨感染のリスクも高まります。そういったリスクを減らすために、切開部が小さい小切開手術なども出てきましたが、ロボット手術はそれよりも傷口が小さい。4つ小さな傷口を開けるだけなので、痛みも少なく、リハビリも早期に始められます。

心臓手術は、心理的にも体力的にも患者への負担が大きかったのですが、ロボット手術の登場で、その認識は変わりつつあります。

さらに、ロボット手術といっても、AIが自動で作業するわけではありません。コックピットのようなブースに入り、細かく動かすのは心臓外科医の仕事。簡単にいうと高度なF1マシンのようなものです。普通車よりもF1マシンは、高速でパワーも出るけれど、それを乗りこなすには、特別な訓練と技術が必要です。ロボット手術もそれと同じ。緻密な作業ができるロボットならではの技術と人間の医師の経験と技術が協力し合って、最先端の医療として確立しているのです。

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渡邊医師のクリニックで行われたロケの模様。撮影/DAA(アンチエイジング医師団)

ですから、ロボット手術に向く症例であれば、積極的に導入するのが今の流れになってきています。ドラマ中で描かれていた人間対機械という対立の概念は、かなり前の古臭い概念だな、と正直思いました。脚本に指摘を入れましたが、医療監修がストーリーを作るわけでないので、指摘だけに終わったのが残念でしたね。

でも、最終的に、機械を信じていなかった主人公が、ロボット手術を成功させる場面があり、少し報われた気持ちがしましたね(笑)」(渡邊医師)

医療ドラマの過渡期!? リアルこそおもしろい?

医療ドラマの問題点ばかり上げてきたが、医療業界からもストーリーの質の高さ、精度が高いリアルなテーマがきちんと織り込まれているということで評価されている作品もある。

産科医療の現場を丁寧に描いている『コウノドリ』(TBS 2015年、2017年)は、出生前検査や子宮頸がんワクチンなど、医療現場の課題をきちんと盛り込んでいる点に評価が高い。原作の段階から鈴ノ木ユウ氏が医師の荻田和秀氏に綿密な取材をしているし、荻田医師をはじめとした何人かの産科医がドラマで細かく監修したという。

また、今夏映画にもなる『コールドブルー ヘリ緊急救命』(フジテレビ 2008年、2009年、2010年、2017年)も、ドラマチック感はありながらも、救命の姿勢や治療へは医師からも評価されている。

少しタイプが違うが、不自然死を扱う法医解剖医を描いた『アンナチュラル』(TBS 2018年)も、日本が抱える司法解剖の問題点を加えながら、推理ドラマとしてのエンターテイメント性の高さに人気が集まり、第二弾を望むファンの声も多い。

上記のドラマの共通点は、脚本を作る際、かなり時間をかけて、医療機関に綿密な取材を重ねているという点だ。フィクションであるが、医療現場への丁寧な取材が、フィクションとリアルのいいバランスを作っている。

渡邊医師も心臓外科医として見て、秀逸だと思う作品があるという。少し前の作品だが、韓国ドラマの『ニューハート』(韓国MBC 2007~2008年)だ。大学病院の心臓外科を舞台に、権力争いやレジデントの成長などを描いている。

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渡邊医師一押しの『ニューハート』。韓国の人気俳優チソンの兵役後の復帰作としても注目された

「こう説明するとありがちに思うかもしれませんが、内容は実にリアル。テクニカルな部分だけでなく、医療現場をよく把握し、医師の心理もよく取材できています。

日本のドラマだと、心臓外科医は神業な手術をするスーパードクターとして派手に描かれがちですが、実際の心臓外科医の世界は、苦労も多く地味です。心臓外科医として開業できることは難しく、手術で亡くなれば訴訟が起こる。大学病院では休暇すら取れません。ハードな仕事を避け、多くのレジデントは、将来美容医療で開業できる形成外科を選択します。心臓外科の担い手は減少傾向にあるのです。

『ニューハート』は、そんな地味な心臓外科の現実ともに、個々がそれぞれ恐怖や孤独と向き合いながら医師として成長していく姿を描いています。私も過去に経験したようなシーンばかりで身につまされましたが、医師として見ても考えさせられる作品でした。視聴率は35%を越えだったそうですよ。心臓外科医のドラマならそういう骨のある作品をそろそろ日本でも観てみたいですね」(渡邊先生)

また、今月から新しいクールの医療ドラマが始まる。また抗議を呼ぶのか、新たなる名作が生まれるのか? フィクションのドラマだからこそ、リアルをどう扱うのかを真摯に考える作品と出会えることを期待したい。

*1)The impact of television fiction on public expectations of survival following in hospital cardiopulmonary resuscitation by medical professionals.

*2)Grey’s Anatomy effect: television portrayal of patients with trauma may cultivate unrealistic patient and family expectations after injury.

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