「日本一バズる公務員」が地元のヒット商品発掘を“よそ者”に任せるワケ

「日本一バズる公務員」が地元のヒット商品発掘を“よそ者”に任せるワケ

  • bizSPA!フレッシュ
  • 更新日:2022/08/06

年間200万円しかなかった高知県須崎市のふるさと納税の寄附額をわずが4年で14億円まで増やした公務員がいる。地域創生請負人とも呼べる男こそ、守時健氏だ。

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守時健氏と、しんじょう君

独自のマーケティング戦略で数々の成功を収め、初書籍『日本一バズる公務員』を上梓した彼が、地方創生と向き合ったとき、まず真っ先に仕かけたのが「ゆるキャラ」だった。そのゆるキャラを使った戦略について、今回語ってもらった。

地元のヒット商品は“よそ者”だから見つけられる

よく「地域おこしはよそ者がやったほうがいい」なんて言われるのですが、まさにその通りだと思います。地域にはたくさんの魅力的な特産品がありますが、地域の目では当たり前すぎてその魅力に気づけないことのほうが多い。それを、今までとは違うアプローチで地域外に広めていくことが、よそ者である私の仕事だと考えています。

出品依頼をした生産品の中に「めちゃくちゃおいしい」みかんがありました。出品依頼しといてなんですが、おいしいと言われても、交渉期間中は旬ではないため試食できませんし、そもそも、みかんについての知識も持ち合わせていません。

「どう紹介したらいいのかわからないし、取柄といったら田舎臭い場所で育ったということくらい」

売れ始めるといきなり敬語になる人も

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地域貢献のために日々活動する、しんじょう君ら

悩んだ結果、生産地の風景写真をメインに、すごい田舎で育てたことをアピールする「のどかで風光明媚な田舎のおいしい空気を吸って育ったおいしいみかん」というストーリーを加えて掲載したところ、どういうわけか、めちゃくちゃ売れて寄附額が2億円を超えました。

実は私、売れた土佐包丁も、実際に使ったことはありません。商品の背景にあるストーリーを売っているだけなのです。あえて距離を置きつつ、商品の生い立ちを調べることで「売れるポイント」が見え、ブランディングできるというのは大いにあると思います。

ふるさと納税の寄附額が発表されて事業者さんの売り上げ増が報じられると、これまで「市役所なんて」と、私たちを冷たくあしらってきた事業者さんをはじめ、多くの関係者の態度がガラッと変わりました。

そもそも自治体職員相手に腰低く接する人は少なく、割と辛辣な態度をとられがちなのに(そうじゃない人もたくさんいますよ!)、売れ始めるといきなり敬語になるし、すごくちやほやされるんですが……違う、そうじゃない。ふるさと納税でそういうことを得るために頑張ってきたわけじゃないんです。

100しかないパイを奪い合っても「不毛な戦争」

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地域創生請負人、守時健氏

さらに「なんであそこだけ儲けてるんだ?」という声が複数の事業者から上がり、「うちのもやってくれ」と、市役所に押し寄せてきました。一度に同じジャンルで複数掲載するとPVが分散し、ランキングから外れてしまいます。実際、事業者が多いみかんの種類を増やしたところ、ランクアウトしてしまいました。

須崎市みたいな田舎で行政や地域のみなさんが100しかないパイを奪い合っていても、ただただ不毛な戦争しか起きません。つまらない町には住みたくないし、そもそも私の目的は須崎市のみなさんの暮らしが1ミリでも良くなることです。100しかないと思われていたパイを101とか200とかに広げていくのが、私の役目なのかなと思っていたのに、それで残るのが死体の山だったら、意味ないですよね。

事業者のみなさんには、ふるさと納税で得られるものの大きさとかWin― Winであることを説明した上で、「みなさん、足の引っ張り合いは儲かってからにしてください!」。そう言ったのが通じて、それから2年くらいは黙っててもらえました。

失敗が何よりも怖いからPDCAを回す

こう見えて私、めちゃくちゃ怖がりです。失敗するのが大嫌い。でも人間って基本的に失敗するんですよね。成功ばかりは続きません。だから、しんじょう君でもふるさと納税でも「Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)」のステップを継続的に回して、失敗しても常に次へ進み続けられる下地作りを継続的に行っています。

失敗の中から「こうすれば良かった」という正解につながる鍵を探していくのは、ゲームの中で何度倒されながらも敵の弱点を見つけてクリアを目指すのと似ています。須崎市としては前例のない業務に取り組むため、本当に探り探り、ときには痛い目を見ながらでもやらなければなりません。その中で可能な限り失敗を少なくするため、先進事例の把握は欠かせず、私は次のような形でPDCAサイクルを回しています。

●Plan(計画):企画や案は常にいくつもストックしておき、ひたすら打ち続ける。
※PからDの間にパスを投げられる人を用意するなど、自分ひとりで問題を抱えすぎない。
●Do(実行):なるべく早く実行する。
●Check(評価):反省会を設け、失敗したものは「なぜ失敗したのか」原因を探る。
●Action(改善):反省はするけど落ち込まない。

小さな失敗、予想外の展開は日常茶飯事

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しんじょう君をアテンドするある日の守時健さん

こうした形で人的リソースを割きながら、トライ&エラーを繰り返していきました。「この時期に掲載すれば当たる」、「このストーリーなら人の心を動かせる」と思っていたのに予想より売れない。そんな予想外の展開は日常茶飯事です。小さな失敗は人に言わないだけです。当時、誰にも言わなかった失敗をご紹介しましょう。

失敗①「尾頭付きの鯛2匹セット」
【教訓】……頭付きの魚は売れにくい!
尾頭付きの鯛なんて縁起がいいし、都会のスーパーには並ばない代物だから「いけるでしょ!」と思っていました。しかし、都会の人は鯛を捌いて食べないですよね。マンションの狭い台所で鱗取りをするなんて嫌ですし、私はやり方すらわかりません。

失敗をもとに基準点に戻ることが大切

失敗②「鍋焼きラーメンのセット」
【教訓】……B級グルメは地元に行って食べる!
須崎市名物のB級グルメとして推している『鍋焼きラーメン』。これも「いける!」と思いましたが、都会のキッチンで自作したいメニューではなかったようです。そもそも、都会にはラーメン屋の選択肢が圧倒的に多いので、わざわざ自宅でB級グルメをつくて食べたいというニーズがないのでした。

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頑張ってもダメだったときは、その理由を分析して反省点を次に生かすよう努力しています。とくに食品に関して売れない理由を分析する際に「私みたいな下の下くらいの料理しかできない人間ならどうする?」という基準点に戻ることが大切だと学びました。

学生時代に中華料理店の厨房でバイトしていて、ひとり暮らしも長いので、キッチンにある道具くらいはなんとなく理解できます。でも、自炊は日常じゃない。このレベルの目線を基準にして返礼品を評価するのは間違いじゃないと思っています。

しんじょう君の底力で、寄附額が急成長

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しんじょう君

先述したように、『ふるさとチョイス』に商品掲載→「しんじょう君がSNSで援護射撃の投稿→PVアップ」という作戦をとっていました。通常、ふるさと納税界隈ではお金を使ってメディアに露出するなどしてアクセス数を増やすのが一般的です。しかし、しんじょう君は当時すでにツイッターだけで3万人のフォロワーがいて、ブログは年間100万PV。毎週末イベントにも出演していて、割と手間をかけずにアクセス数が稼げます。

また、アルゴリズムの解析によると、しんじょう君が発信する情報で数千~数万のPVが稼げ、一時的でもランキング上位に立てることがわかりました。

さらに、須崎市主催のイベント『ご当地キャラまつりIN須崎』のステージ上でも有志のキャラクターさんが「このイベントはふるさと納税の寄附金で運営されてるんだって! 応援よろしくね~」などと、声かけにご協力くださいました。こうしたゆるキャラの求心力に頼ったおかげでPVが圧倒的に伸び、常に『ふるさとチョイス』のランキング上位につけられる状態に成長することができました。

初年度の年末、実際にしんじょう君がどんなツイートをしたのか、紹介しましょう。「みんなー☆ ふるさと納税まだのひとは、今月中にすればことしの寄附になるよー☆ お魚とかいろいろあるから、みていってね☆ね☆(原文ママ)」。決して「寄附してください!」とは頼み込みませんが、寄附額は前年度の35件約200万円から、4万2000件超・約6億円へと急成長する結果となりました。

寄附額が10億円を突破できた原動力

初年度の寄附額が約6億円になったとはいえ、翌年も、やることは同じです。情報収集とマーケティング、トレンド分析みたいなことを繰り返し続けました。講演会に登壇する機会があると「なぜそんなに頑張れるの?」と聞かれることがあります。恐縮ながら「勤勉だ」と言っていただけることも。

しかし、自分自身ではそんなに大それたことをしているつもりはありません。強いて言うなら、はじめての挑戦でも目標に向かって進める力は、完全な自学自習で大学受験合格した経験で養われました。どんなに不可能そうに見える壮大な目標でも、計画を立てて遂行できれば目標に到達できる。その成功体験が非常に大きいです。

実はふるさと納税でも、寄附額が1000万円に到達した時点で「今年、5億いきます」と宣言していました。当然、課のみんなは信じてくれません。「何言ってんの!」、「絶対いくわけないでしょ」と笑っています。
「いや、絶対いくんで、スタッフをもっと雇ってください」

注文が増えれば、発送をはじめ事務作業がパンクするのは時間の問題です。上司に訴えましたが、それでも「何言ってんの!(笑)」とまともにとりあってくれません。「じゃあ、このまま5億円いったらどうしてくれるんですか?」

上司につめ寄ると「係長代わったるわ!(笑)」。結果、私の予想通りの目標に到達しました。寄附額は2年目に10億円、3年目に11億円と成長しましたが、係長の座を譲ってはくれませんでした。「いや~、代わってあげたかったんやけどな~! 残念やな~」。

何億円も売り上げると生産者も優しくなる

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守時健『日本一バズる公務員』(扶桑社)

先ほど、ふるさと納税は地方自治体にとって凄まじい魅力があると書きました。担当者にとっても同様に魅力ある存在です。地方自治体のふるさと納税担当者って、結果が出ないと生産者さんや事業者さんから冷たくあしらわれますが、結果が出るとチヤホヤしてもらえます。何億円も売り上げると事業者さんが笑顔で話しかけてくれ、厳しかった生産者さんも優しくなります。

小さな田舎町なら「億の男」なんて呼ばれてとんでもなく目立ちますし、私は全然モテなくて逆に離婚してしまいましたが、中にはモテる人もいるでしょう。聞いた話だと、高級外車を乗り回す人もいるのだとか。

基本的に嫌われていて外に出ることのない地方公務員が、いろんな人に優遇されて大都会への出張が続くようになると、自分の力を過信して天狗になりがちです。その結果、大失敗してしまうケースってよくあります。

基本的にビビリなので調子に乗らなかった

控え室すらないイベントに参加し、お客さんのいない舞台に立つ日々からスポットライトを浴びるという経験を私は幸運にも一度しているので、変わらず黙々と働くことができました。むしろ、しんじょう君の仕事と同時進行しているため、休みがないです。基本的にビビリなので調子に乗って、おかしなことをするなんてできません。

というわけで、世の中が「行政改革だ!」と人員を減らす中、私たちはスタッフを1人から8人に増やして人材に集中投資していきました。結果、初年度は走りながらやっていたことも、次年度以降は余裕をもって取り組めるようになりました。

おかげさまで、ふるさと納税はベースで11億円をキープするまでに成長しました。ふるさと納税によって税収が億単位に増えたのはいいですが、「何に使うかが大切」と書いてきたので、何に使われたのかって気になりますよね。それについてはまた追って紹介したいと思います。

<TEXT/地域創生請負人 守時 健>

【守時 健】

地域創生請負人。高知県須崎市の市役所職員として新入職員ながら、ゆるキャラ「しんじょう君」を誕生させ、'16年にゆるキャラグランプリ王者に輝く。その後、須崎市のふるさと納税をSNS&ゆるキャラ戦略で1000倍に増やし、地域活性に貢献。現在は市役所を独立し、SNSマーケティングを使った特産品の情報発信を仕掛ける地域商社「パンクチュアル」代表を務める。著書『日本一バズる公務員』

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