12球団のキーマンに迫るインタビューの最終回は、楽天・松井裕樹投手(25)。今季先発から抑えに再転向する左腕は、防御率1点台とシーズン自己最多の38セーブ超えを目指すことを表明。現役時代に同じ左投手だった石井一久監督兼任ゼネラルマネジャー(GM、47)からもらったアドバイスや、自身の考える抑えの醍醐味(だいごみ)も明かした。 (取材構成・広岡浩二)
--ここまでを振り返って
「ロッテとの練習試合(18日)では上半身が前に突っ込み、リリースのタイミングが合わなかった。試合で相手打者に向かうときとブルペンでの投球は全く異なります。実戦を経験することで課題は出てくるので、次に生かしたいです」
--抑えに再転向する
「現時点でベストなフォームを探しています。今年は2、3イニングを投げるかもしれない。試合(オープン戦)でも複数イニングを投げたいと思っているので、そういった調整ができたらいいですね」
--どんな工夫を
「動作が途中で止まると、動きがずれてしまうので、始動でグラブを上げたところからリリース時までをよりスムーズな動作になるようにしたい。構えたときに右肩が上がってしまうので、力が入りすぎないようにベストな位置に修正したいです」
--抑えの醍醐味は
「勝利の瞬間は素晴らしい空間。仲間がマウンドに集まり、ボールを渡す一連の流れがすごく好きですね。今季は防御率1点台を目指し、キャリアハイ(2019年の38セーブ)を超えたいです」
--その先に優勝がある
「もちろん、個人の成績よりもチームの勝利が最優先。首脳陣から『(セーブがつかない)4点リードの場面で60試合投げろ』と言われたら、しっかり投げます。セーブ機会での失敗をゼロに近づけるように、なるべく多く勝利の瞬間にマウンドに立っていたいです」
--同じ左腕の辛島投手がキャッチボールの相手
「去年の12月から継続させてもらっています。リリースの位置や右肩の開きの速さ、良いときと悪いときのフォームを比べて違いを的確に教えてもらえます。ずっと続けているので、お互い分かり合えていると思う。辛島さんは、僕よりも長い野球生活を送っているし、先発投手だから僕よりも修正の引き出しを多く持っている。プラスになっています」
--同じく左投手として活躍した石井監督とはどのような話を
「投球動作に入る際に、(グラブをはめた)右腕が横に動いていくときの高さについて(の助言)です。右腕が高すぎるとマウンドの傾斜に合わなくなる。『なるべく肩のラインを変えないようにできたらいいよね』と。もう一つは、二塁走者を背負った状況で二塁を見てから投球動作に入る際に『体が反らないように』というアドバイスももらいました」
--田中将大投手が復帰した
「空気が締まるような雰囲気を持っている方。その場にいるだけでも、チームにとってプラスになります」
--影響を受けている
「田中さんが足袋型のソックスを履いていたので、ミズノ社にお願いしてつくっていただきました。一体型や5本指に分かれたタイプと比べて、一番力を出せる親指の位置を意識しやすいので」
--コロナ禍が続く
「やはりお客さんがいた方が張り合いも出るし、見られることで成長につながると思うので、無観客は寂しい。改めてファンの大切さを痛感しています」
★子煩悩で愛妻家
キャンプ期間中のホテルでの楽しみは、2018年に結婚した女優、石橋杏奈さん(28)と、昨年誕生した長女とのテレビ電話。子供が起きているタイミングに合わないと“対面”できないが「本当に可愛いくてやばいです。毎日、妻が写真を撮って送ってくれるんです」と目じりを下げる。「まだ自分のことをプロ野球選手だと分からないので、理解してくれるまで(現役を)続けたい」と新たな目標も掲げ、子供の就寝後は「毎日、妻と30分から1時間くらい話す感じ」と愛妻家ぶりも明かした。
★今キャンプの松井
昨季、本格的には新人だった2014年以来となる先発に挑戦したが、先発では10試合に登板し3勝にとどまった。抑えに再転向する今季は沖縄・金武町でのキャンプ初日からブルペン入りし、計9度で556球を投げるなど精力的な調整を続けている。18日にはロッテとの練習試合で初実戦に臨み、1回1安打無失点。最速146キロを計測したが「まだまだです」と、さらなる状態アップを見据える。
★取材後記
松井投手は、礼儀正しく、丁寧に、的確に話してくれた。コロナ禍でオンラインでのインタビューとなったが、技術的な話題になると、分かりやすいよう画面越しに実演までしてくれた。
抑えに再転向する。昨季のこの時期は先発への調整をしていたが、今季はその逆。かつての本職に戻るとはいえ、2年連続で調整法が変わることへの違和感、負担を抱えていると思っていた。しかし、どこ吹く風。多くの頼もしい言葉が聞けた。
心身ともに充実している。長女はすくすくと育ち、家庭は円満。父親としてまな娘の話をするときは、これまで見たことがないような表情になる。
村上修二広報マネジャーにも感謝したい。取材殺到中の石井新監督の担当でもあり大忙し。加えてコロナ禍。例年以上に個別取材の日程調整は分刻みとなっている。メディア側の事情をくみ、神経をすり減らしながら激務をこなす姿を見て、こちらも刺激を受けた。 (楽天担当・広岡浩二)
松井 裕樹(まつい・ゆうき)
1995(平成7)年10月30日生まれ、25歳。神奈川県出身。桐光学園高で2年夏に甲子園に出場し、8強入り。2014年ドラフト1位で楽天入団。15年から抑えに転向。18年に史上最年少で通算100セーブを達成。19年にはセーブ王を獲得(38S)。昨季は先発に転向し開幕ローテ入りしたが、10月以降はリリーフ陣の一角を担った。174センチ、74キロ。左投げ左打ち。既婚。年俸2億5000万円。背番号1。

田中将(右)と汗を流す松井。「その場にいるだけでもプラス」と加入を喜ぶ