Apple、米国製造後押し 背景に米中「半導体戦争」

Apple、米国製造後押し 背景に米中「半導体戦争」

  • JBpress
  • 更新日:2023/05/26
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(写真:ロイター/アフロ)

米アップルは5月23日、米ブロードコムと数年にわたる数十億ドル(数千億円)規模の契約を結んだと発表した。この契約によりブロードコムは、高速通信規格「5G」関連の部品や最先端の無線通信部品を開発し、アップルに供給する。

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アップル、米国への投資拡大をアピール

アップルは2021年に、5年間で米国に4300億ドル(約60兆円)を投資する計画を明らかにしており、今回の契約はその一環となる。同社は今回、「目標を達成できそうだ」と述べ、米国への投資実績をアピールした。米国のサプライヤー企業への直接支出、データセンターへの投資、米国での設備投資などが計画通り順調に進んでいるという。

ブロードコムは西部コロラド州フォートコリンズなどの複数の米国拠点で、5Gの無線周波数関連部品を製造する。「ブロードコムのフォートコリンズ工場ではアップルが1100人以上の雇用を支えている」(アップル)という。「今回の提携によって、ブロードコムはエンジニアのスキルアップや自動化プロジェクトへの投資を続けることができる」(アップル)

米CNBC米ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、アップルとブロードコムは20年にも3年半の契約を結んで いた。その時点でブロードコムは150億ドル(約2兆800億円)の収益がもたらされると説明していた。現在ブロードコムの収益の20%はアップルとの取引によるものだと報じている。

アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は声明で、「アップルのすべての製品は米国で製造された部品に依存している。米国の未来に揺るぎない信念を持っており、今後も米経済への投資を深めていく」と述べた。

アップル設計の半導体、台湾TSMCが製造

アップルは長年にわたり他社製半導体を自社設計半導体に置き換える取り組みを進めてきた。同社は06年、パソコン「Mac」に米インテル製の半導体を採用した。しかし、Macの性能向上がインテルの技術開発ペースに制約されるといった課題があった。そこで20年に自社設計半導体に切り替え始めた。

これらの半導体はアップルが設計し、台湾積体電路製造(TSMC)が製造している。TSMCは半導体受託生産の世界最大手で、アップルや米クアルコム、ソフトバンクグループ(SBG)傘下の英半導体設計大手アームなど、さまざまな企業向け半導体を製造している。

一方、TSMCを巡っては、半導体を巡る米中の技術戦争に巻き込まれている、と指摘されている。 米国は、国内半導体生産の復活を目指し、先端半導体や半導体製造装置などの対中輸出規制を強化している。

TSMCは先ごろ、米アリゾナ州で建設中の工場近くで、2つ目の工場の建設を始めていると明らかにした。総投資額は400億ドル(約5兆5400億円)で、従来計画の3倍強になる。22年12月6日に開催された式典に出席したバイデン米大統領は、TSMCが米国の半導体製造で果たす重要な役割を強調した。アップルのクックCEOも式典に出席し、「アップルはこの工場の最大の顧客になる」と表明した。

米国中心のサプライチェーンは構築困難

アップルはサプライチェーン(供給網)の中国依存を減らしたいと考えている。アップルの最大サプライヤーの1社であり、電子機器受託製造サービス(EMS)世界最大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業は、中国・鄭州に「iPhoneシティー」として知られる大規模組み立て工場を持つ。

鴻海も、生産拠点の分散化を目指しており、最近はインドに注力している。ブルームバーグなどによると、鴻海は現在、インド南部タミルナドゥ州のチェンナイ近郊にある工場で、iPhoneを年間600万台組み立てているが、24年までに生産台数を2000万台に引き上げ、従業員数を3倍の10万人に増やすことを目指している。

米中関係が悪化する中、アップルは中国生産を減らすよう政治的な圧力をかけられているとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。しかし、米国で生産される半導体は世界生産量の約12%にすぎず、アップルは米国を中心としたサプライチェーンの構築に苦慮しているという。

(参考・関連記事)「TSMCアリゾナ工場の投資額3倍強に、Appleが最大顧客

小久保 重信

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