「東芝は経産省と結託して“物言う株主”に圧力をかけていた」衝撃的な報告書の内容とは

「東芝は経産省と結託して“物言う株主”に圧力をかけていた」衝撃的な報告書の内容とは

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/06/11

やはりこの会社に株式上場の資格はない。さらに言えば、我々が暮らしているこの国は、そもそも資本主義国家と呼べるのか。そんな感想すら覚える衝撃的な報告書である。

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東芝は6月10日、第三者委員会による報告書を公表した。この第三者委員会は、去年7月に開催された定時株主総会が「公正に運営されなかった」と主張する株主が選任した弁護士によって構成されていた。

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委員会は「株主総会は公正に運営されなかった」と結論づけた

問題の株主総会では東芝が経産省と結託し、東芝株を保有する複数の外資系投資ファンドに対して、東芝の経営陣にとって都合の悪い株主提案を見送ったり、こうした株主提案に賛成しないよう圧力をかけたりした疑いが持たれていた。

第三者委員会が東芝に提出した報告書は120ページに及ぶ。冒頭で触れたようにその中身は衝撃的だが、まずは報告書の「結論」をご覧いただきたい。

〈以上のとおり、東芝は、本定時株主総会について、経産省といわば一体となり、エフィッシモ(筆者注:シンガポールの投資ファンド)の株主提案権の行使を妨げようと画策し、3D(:同)の議決権行使の内容に不当な影響を与えようと画策し、さらにHMC(:ハーバード大学の基金)についてはその議決権全てを行使しないことを選択肢に含める形で投票行動を変更させる交渉を行うようM氏に対して事実上依頼した。よって、本定時株主総会が公正に運営されたものとはいえないと思料する〉

第三者委員会は、4月に辞任した車谷暢昭前社長ら9人の東芝幹部に延べ30時間ヒアリングし、彼らがやりとりした社内メールのフォレンジック(消去されたデータの復元)や携帯電話に残されたメールなどを調査した。その結果、委員会は「株主総会は公正に運営されなかった」と結論づけたのだ。前代未聞と言っていい。

ちなみにM氏とは、当時経産省参与だったGPIFの元最高投資責任者、水野弘道氏である。水野氏には、東芝の株主であるハーバード大学の基金に対し「議決権を行使すると改正外為法の調査対象になる」と圧力をかけ、議決権行使を見送らせた疑惑が持たれている。

経営に口出ししてくるアクティビストは「招かれざる客」だった

東芝のガバナンスをめぐって何が起きているのか。ここまでの流れをおさらいしておこう。

海外原発事業の失敗などで巨額赤字を計上した東芝は、自動的に上場廃止となる2年連続の債務超過を回避するため、2017年に6000億円の第三者割当増資を実施した。このとき出資して東芝の大株主になったのが、アクティビスト(物言う株主)と呼ばれるエフィッシモや3Dである。

彼らアクティビストは、短期で企業価値が上がる事業売却などを会社に要求し、株価が跳ね上がったところで株を売却して利益を得るのが常套手段だ。経営に口出ししてくるアクティビストは事業売却などを嫌う日本企業にとって「招かれざる客」だが、このときの東芝は背に腹は替えられない状況だった。

案の定、エフィッシモや3Dは去年の株主総会に向け「自分たちが推薦する取締役を選任しろ」「経営計画を策定し直せ」と口出しを始めた。すると東芝は経産省と結託して、アクティビスト対策を打ち始めたのだ。困ったときに「出資してください」とお願いしておいて、喉元を過ぎたら「余計な口出しはするな」だから、グローバルにはまったく通用しない理屈である。

菅官房長官から「強引にやれば外為で捕まえられるんだろ?」

株主の利益を守るのは上場企業の経営者の責務であり、日本の政府が定めた「コーポレートガバナンス・コード」にもそう記されている。しかし今回の報告書は、去年の株主総会を控えた東芝が、株主の権利である株主提案権の行使を妨げるべく暗躍したことを暴露した。報告書はその企みに車谷前社長が加担しており、当時官房長官だった菅義偉首相がその後ろ盾になっていたと示唆している。

報告書でもっとも衝撃的なのは61ページにある注釈だ。

〈(2020年)7月27日朝に車谷氏の部下である加茂(筆者注:正治・戦略委員会室バイスプレジデント)氏が、菅官房長官との朝食会に出席し、持参した資料に基づき菅官房長官に説明し、菅官房長官から「強引にやれば(:エフィッシモなどのアクティビストを)外為(:改正外国為替法)で捕まえられるんだろ?」などとコメントされていた〉

6月10日、この件について質問された菅首相は「まったく承知していない」と否定した。

しかし、報告書をまとめた弁護士の一人は、「(フォレンジックした社内メールの中には)首相官邸を意味すると思われる『丘の上』などの言葉が頻繁に登場し、東芝が経産省だけでなく官邸とも緊密に連携していたと推認される」と指摘した。

「国家公務員の守秘義務違反に当たる恐れがある」

アクティビストを黙らせるため、東芝と経産省は一線を超える行為にも及んでいる。情報の横流しだ。

東芝経営陣と結託していたのは、東芝を監督する立場にある情報産業課(情報課)。一方、改正外為法の審査を担当するのは安全保障貿易審査課(審査課)である。東芝と経産省がアクティビスト対策を始めた2020年5月から7月にかけて、情報課の課長は東芝に「いま、審査課がこんな検討をしている」「審査課がエフィッシモの調査を始めるのは何日」といった情報を流していた。この情報をもとに、東芝は審査課に働きかけるタイミングをはかっていたというのだ。調査を担当した弁護士は「国家公務員の守秘義務違反に当たる恐れがある」とまで踏み込んだ。

120ページに及ぶ調査報告書から見えてくるのは、アクティビストを「ならず者」としか見ていない東芝経営陣と経産省、官邸の時代遅れな価値観である。世界中から資金を集め、世界中でビジネスをするグローバル企業は、アクティビストを含めすべての投資家に対する説明責任を果たさなければ経営が成り立たない。資本主義国家において「金を出しても口は出すな」は通用しない。こんなことを続けていたら、日本は世界中の投資家から見放されてしまうだろう。

報告書からは経産省や官邸の本音が垣間見える

報告書の調査対象は2020年7月の株主総会に限られるが、車谷氏と経産省はその後、車谷氏がかつて在籍していた英投資ファンド、CVCキャピタルパートナーズに東芝を買収させ、東芝を非上場化してアクティビストを追い出す、という暴挙を企てるに至る。

アクティビストによって首を切られそうになった車谷氏による狂言に近かったが、経産省と官邸はこの暴挙すら後押ししようとしていた痕跡がある。

「原発と防衛産業(ミサイルシステム)を持つ東芝を、ならず者の外資の言いなりにさせてなるものか」

報告書が赤裸々に綴る文章の中からは、経産省や官邸の本音が垣間見える。それならば、原発と防衛産業をさっさと国有化してしまえば良いのだが、今の政府と東芝の経営陣にそんな大胆な決断を求めるのは無理だろう。一つだけわかっているのは、上場企業と国策企業のダブルスタンダードはもはや通用しない、という厳然たる事実である。

(大西 康之)

大西 康之

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