
「正社員だけ賃上げ」に納得がいかない非正規社員も(イメージ)
正社員と非正規社員との不合理な待遇差をなくすため、2021年から「同一労働同一賃金」のガイドラインが策定された。昨今は、物価高の影響で賃金を引き上げる企業もあるが、正社員だけを賃上げして、非正規社員は賃上げしないというのは、問題ないのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
非正規社員です。ご時世なのか、働いている会社が賃上げを決行。しかし、給料が上がったのは正規社員だけ。仕事量も責任も社員と変わらないのに、この待遇には腹が立ちます。改正された『労働法』では、社員と非正規社員を差別しないと決められていたはず。賃上げの差別は、どこに訴えればよいですか。
【回答】
短時間・有期などの非正規労働者と、正規労働者(正社員)との不合理な待遇格差を禁じる『パートタイム・有期雇用労働法』第8条では、非正規社員の基本給、賞与、諸手当など、その他の待遇について、それぞれの「待遇」ごとに、正社員の待遇と比較して非正規社員と、正社員の業務内容や責任の程度、これらの点や配置が変更される範囲、また、職務成果や能力や経験等のその他の事情のうち、その待遇を行なう目的に照らし、考慮することが適切なものを勘案して不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。
そして、同法に基づき、厚労大臣が定めた同一労働同一賃金ガイドラインでは、不合理と認められる差別の例を示していますが、昇給については勤続による能力向上により昇給する場合には、非正規労働者も同様に、能力向上に応じた昇給をしなくてはならないとされているだけです。
ご質問の昇給が、昨今の物価高騰を理由とするものであれば、同様の悪影響は非正規社員も受けているはずで、非正規社員が昇給しないのは不合理な差別のようにも思えます。ただし、問題はそれが考慮すべきとされる「その他の事情」に該当するかということ。
正社員のみ昇給するのは、その生活の維持に資することで、勤務の継続の確保にあるといえます。そうすると、非正規社員との差別は会社における役割の重要性や期待度の違いの反映です。いま、同じ仕事をしていても、今後は転勤や昇格を経て、会社の中核になっていくのを期待する正社員を厚遇するのは合理的といえる側面もあり、にわかに判断できません。
不満がある場合、改正『労働法』では都道府県の労働局長の助言などの援助を受けたり、調停を申し立てられます。労働基準監督署に相談するのがよいでしょう。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2023年6月2日号
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