外食文化が発達している台湾では、「早餐店(ザオツァンディエン=朝食専門店)」があちこちにあり、住民の定番スポットとなっている。そんな早餐店を体験できる本格的な店が、ここ最近都内で地道に増えている。2022年8月の恵比寿の「グエィニン」 、2023年2月には池袋の「豆乳専科」、そして4月に開店した飯田橋の「ワナマナ」である。

Photo: Kisa Toyoshima
ワナマナの1号店は大阪で2021年にオープン。台湾スイーツカフェ・チェーン「台湾甜商店」を営む台湾人オーナーの経営で、店造りのセンスはそつがなく、味は限りなく本格志向だ。台湾人の間でも好評で、大阪店は行列の絶えない店となっている。

Photo: Kisa Toyoshima
飯田橋店の場所は、雑踏から一歩距離を置いた「飯田橋サクラテラス」の奥にある。台湾を思わせるのんびりした気配が漂う場所を選んだとか。ロケーションの演出からして心憎い。

Photo: Kisa Toyoshima
ビルの中庭に面し、爽やかなグリーンを基調とするカフェ風の店内は、ガラス張りの壁越しに日射しが差し込み、明るく心地よい。これからの暑い季節は木の下のテラス席も良さそうだ。

Photo: Kisa Toyoshima
店内に入ると、内装に合わせたグリーンのTシャツで揃えたスタッフが、客に向かって「早安(ザオアン=おはよう)」と現地語で明るく声をかける。現地の早餐店は魅力的な反面、紛れ込むのにちょっと勇気がいるが、ここは一人でも入りやすい。旅行前の練習にもいいだろう。営業時間は8時から19時まで。午後早めには店じまいする現地の早餐店と違って、軽い夕飯やランチにも使えるのがうれしい。

Photo: Kisa Toyoshima
肝心のメニューは、搾りたての自家製豆乳各種に、現地よりも日本で大人気の「鹹豆漿(シェントウジャン=塩っぱい豆乳スープ)」、「燒餅(シャオビン=台湾風焼きパン)」、あっさりもっちりの「蛋餅(ダンビン=台湾式クレープ)」、台湾マヨネーズが決め手の「現烤吐司(シェンカオトゥスー=焼きたてトースト)」「饅頭(マントウ=まんじゅう)」など台湾朝食の定番がずらり並ぶ。いずれも気取らぬ、素直なおいしさである。

Photo: Kisa Toyoshima「鹹豆漿」

Photo: Kisa Toyoshima「燒餅」
おすすめは台湾式おにぎり
看板商品は「飯糰(ファントゥアン=台湾式おにぎり)」。「肉鬆(ロウソン=台湾風でんぶ)」にザーサイなど、さまざまな現地式具材を餅米で包み込んだもので、日本の太巻きの具で作ったおにぎりといった感じ。見た目は「映えない」が、ひと味もふた味も違うおいしさだ。

Photo: Kisa Toyoshima「招牌飯糰」
まず試してみるなら「綜合飯糰(ゾンフーファントゥアン)」がおすすめだ。具にざっくり刻んだ「油條(ヨウティァオ=台湾式揚げパン)」が入っているのが特徴で、さくっとした口当たりと塩味が餅米と意外なほどマッチ。燒餅の油條入りも、生地と揚げパンのサクパリ感が合わさってえもいわれぬ食感が楽しめる。

Photo: Kisa Toyoshima炸饅頭
スイーツ系も用意されている。飯田橋店で人気なのは「炸饅頭(ジャーマントウ=揚げ揚げまんじゅう)」。文字通り、まんじゅうを揚げて練乳やピーナツの粉をまぶしたもの。見た目ほどくどくはない素朴な甘みを味わおう。ほのかに甘い「タロ芋まんじゅう」も捨てがたい。秋口ごろにはネギや肉鬆を乗せたドメスティックな「麵包(メンパオ=台湾ベーカリー)」各種も加わり、さらに充実する予定だ。

Photo: Kisa Toyoshima
「ガチ台湾料理」は朝食が新トレンドに
半世紀を超す都心在住者としての筆者の私見ではあるが、東京における「ガチ台湾料理」は、戦後、「熱炒(ルーチャオ)」と呼ばれる夕食向けの居酒屋スタイルの店が、新宿や渋谷などの繁華街に進出。その後、「珍珠奶茶(ヂェンヂュネイチャ=タピオカミルクティー)」や「芒果冰(マングォビン=マンゴーかき氷)」などのスイーツが注目され昼向けの店が増加、さらに今回、早餐店と呼ばれる朝食を専門とする店が人気の兆しを見せつつあるように思われる。台湾ブームの追い風に乗って、台湾の食文化が、夜から昼へ、昼から朝へとより日常的なシーンへ幅広く浸透しているようで興味深い。
Genya Aoki / Michikusa Okutani
Genya Aoki / Michikusa Okutani