法整備されぬ卵子提供 「出自を知る権利」は当事者に委ねられることも

法整備されぬ卵子提供 「出自を知る権利」は当事者に委ねられることも

  • マネーポストWEB
  • 更新日:2021/11/25
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子供の「出自を知る権利」はまだ議論中(提供/共同通信社)

不妊、晩婚、LGBTQ──。「子供を持ちたくても難しい」という人たちへの救いの手となっているのが、卵子や精子の提供だ。そして、卵子・精子提供に関わる「生殖ビジネス」は国内でひそかに乱立。“自分の卵子を売る”というビジネスは、何年も前から存在しており、なかには、多額の報酬をもらえてタダで“卵子提供旅行”に行けることを売りにしている営利目的の業者も見られるという。

そうした中で日本で唯一、無償での卵子提供仲介を行っているのが「OD-NET」だ。OD-NETでは、無償で卵子の提供者となる人を募り、国内の不妊専門クリニックで提供卵子による体外受精の実施を支援している。

日本生殖補助医療標準化機関のガイドラインに沿って、年齢のほか、血液検査によって健康状態や感染症の有無などを充分に調べたうえで、適性のある人のみ登録できる。

最も徹底しているのは、卵子提供者、つまり、ドナー登録者へのカウンセリングで、これは生殖心理専門の臨床心理士が行う。「OD-NET」理事長の岸本佐智子さんが言う。

「私たちは、生まれてきた子の『出自を知る権利』が最も大切だと考えています。自分が卵子提供で生まれた子供だということはもちろん、将来その子が望めば、ドナーがどんな人かも知ることができるよう、ドナー登録をする前に、将来的に名前や住所などの情報を開示する可能性があることを丁寧に伝えています。現在、392人からドナー登録の問い合わせがありますが、出自を知る権利について同意いただけない場合は、お断りしています。

もちろん、子供が望まなければ情報は伝えませんし、出自を知る権利があるからといって、子供が突然ドナーのもとを訪ねるようなことはありません。卵子提供者の権利も守られるべきだからです」

台湾やベルギーなどでは、こうした方法で生まれた子の出自を知る権利は認められていない。つまり、もし、あっせん業者を介して台湾で卵子を採取した場合、生まれた子が自分の出自を知りたいと思ってもドナーの情報の登録自体がなく、知る手立てがない。日本国内では、非配偶者間人工授精(以下、AID)によって生まれた当事者が国会に提言するなど、出自を知る権利を守る方向へと、少しずつ世論は動いている。

だが、いまだ法的な整備はされていない。ドナーと仲介者、そして親の判断にゆだねられている部分が大きい。産婦人科医で岡山大学大学院保健学研究科教授の中塚幹也さんが言う。

「出自を知らされたことで、子供が悩む可能性があることも事実です。かつては日本でも、第三者から精子の提供を受けて産むなら、子供の出自を一生知らせないことが親の責務だと考えられており、医師から親へ“子供の出自は秘密にしなさい”と告げるのがふつうでした。しかし、どんな秘密も一生隠し通すことは難しい」

顔つきや血液型、遺伝子など、子供が大きくなってから気づく機会はいくらでもある。

「後から偶然自分の出自を知ってしまって、アイデンティティークライシス(自分の価値や存在意義を見失うこと)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こす方が問題です。子供にとっては、親と血がつながっていなかったことよりも、大切なことを隠されてうそをつかれてきたことの方が悲しい。“どうして教えてくれなかったの”と、親子関係に亀裂が入り、信頼関係を失う」(岸本さん)

卵子提供によって2人の子供をもうけた芸人のなかさとみさんは、まだ幼い息子たちの出自について、すでに明かす準備をしているという。

「1人目の子には、2才になったときから、絵本などを通じて、彼らが卵子提供で生まれたことを伝えています。“ママには赤ちゃんの卵がなかったから、あなたたち2人は、プレゼントしてもらった卵から生まれたんだよ”と話していますが、本人はまだあまり興味がないようです(笑い)」

一方で、今年の12月に「生殖医療民法特例法」が施行されることにより、母親の権利は守られることになった。自分以外の卵子で出産した場合、卵子の提供者ではなく、出産した女性を法的な母とすることが確定したのだ。

では、父親の方はどうか。

「2012年、精子バンクを利用して生まれた子の父親だと認められなかったトランス男性が裁判を起こした例があります。性別適合手術を受けて戸籍上の性別を男性に変更し、子を産んだ女性と法的な夫婦だったにもかかわらず、遺伝的なつながりがないことを理由に、父だと認められませんでした」(中塚さん・以下同)

この裁判について、中塚さんはある調査を行った。1000人以上の対象者は「結婚したトランス男性がAIDで子供を持つこと」について、76%が肯定し、さらに80%もの人が「生まれた子供を嫡出子とすべき」と回答した。

この結果を弁護団が資料として用いたこともあり、2013年末、最高裁判所は一審、二審の判決を覆し、父子関係を認めた。

「翌年には、法務省の通達によって、トランス男性も出生届だけで法的な父親だと認められるようになりました。さらに今回の特例法により、“AIDに同意した夫は、生まれた子の父であることを否認できない”ということが決まりました。

ですが、非常に長い間、性的マイノリティーの当事者がAIDで子供を持ちたいと思っても、医療機関で門前払いされることが多かった。そのため、いまでも状況はあまり変わっていません」

その結果、SNS上には、「#精子提供」「#精子ドナー」などのハッシュタグがついたアカウントが並び、医療機関を介さない一般人同士の取引が増えている。

匿名で相手の素性もわからないことも多く、HIVやB型肝炎、梅毒などの感染の恐れもある。悪質になると「タイミング法」などと称し、レズビアンのカップルに執拗に性交を迫るなどのケースもあるという。

なかには、仕事に人生をささげていたり、恋愛対象が男性だったり、さまざまな事情で“女性と結婚はできないが、自分の生きた証を残したい”と考えてボランティアとして行う誠実な男性もいるが、見分けるのは困難だ。

※女性セブン2021年12月2日号

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