中国が宇宙ステーションをもつ日 - 最初のモジュール「天和」打ち上げ成功

中国が宇宙ステーションをもつ日 - 最初のモジュール「天和」打ち上げ成功

  • マイナビニュース
  • 更新日:2021/05/03
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●中国の有人宇宙開発は新時代に、「中国宇宙ステーション」のすべて

中国の探査機「天問一号」が火星に到着 - 5月には着陸、水と生命を探索へ

中国国家航天局は2021年4月29日、大型宇宙ステーションの最初のモジュール「天和」の打ち上げに成功した。

今後、実験室などのモジュールを続々と打ち上げて結合させ、2022年末までの完成を目指す。

さらに、今年5月には補給船の打ち上げ、6月には宇宙飛行士の滞在も予定。中国の有人宇宙活動は新しい段階に入った。

天和を搭載した「長征五号B」ロケットは、日本時間4月29日12時23分(北京時間同日11時23分)、海南島にある文昌航天発射場から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、離昇から約494秒後に天和を分離。所定の軌道に投入しれた。

13時36分には天和の太陽電池パドルの展開に成功している。
中国宇宙ステーション

「中国宇宙ステーション」は、その名のとおり中国が構築を目指している宇宙ステーションで、宇宙飛行士の長期滞在のほか、宇宙医学、科学実験、技術実験に活用することを目的としている。

かつては「天宮」という名前で呼ばれていたが、最近では公式にその名が使われることはなく、単に「中国宇宙ステーション」とのみ呼ばれている。

高度約340kmから450km、軌道傾斜角41.5°の軌道で運用され、滞在できる宇宙飛行士は3~6人とされる。設計寿命は最低10年、また宇宙飛行士による適切なメンテナンスを行えば15年はもつという。

中国宇宙ステーションは、今回打ち上げられたコア・モジュールの「天和」のほか、実験室の「問天」と「夢天」、そして宇宙望遠鏡の「巡天」の、大きく4つのモジュール(部品)から構成される。完成時の質量は約90tで、現在運用中の国際宇宙ステーション(ISS)、かつてソ連・ロシアが運用していた「ミール」に次ぐ規模となる。

天和はステーション全体の根幹となるモジュールで、宇宙飛行士が生活したり、ステーション全体の制御や姿勢を司ったりといった役割をもつ。そのため生命維持システムや推進システム、通信システムなどが装備されている。

全長は16.6m、直径4.2m、質量22.5tで、中国がこれまで打ち上げた宇宙機の中で最大である。また船内は、最新の宇宙ステーションらしく、タッチスクリーンをもったコンソールがあるなど、ISSなどと比べ設備が近代的なものとなっている。

問天と夢天はそれぞれ、宇宙実験室として研究、実験設備をもつほか、宇宙飛行士が船外へ出るためのエアロックや物資の保管庫などの役割ももつ。これらは軌道上で天和と結合され、T字の形となる。

巡天は大型の光学宇宙望遠鏡で、米国の「ハッブル宇宙望遠鏡」に匹敵する性能をもつとされる。ただ、巡天は恒久的な結合はされず、ステーションと編隊飛行しながら宇宙を観測し、ときどき推進剤の補給やメンテナンスのためドッキングする。宇宙望遠鏡にとって振動は大敵であり、人が活動するモジュールと結合するのは得策ではない一方、宇宙飛行士がいれば修理や調整が簡単に行えることから、じつによく考えられたコンセプトといえよう。

現時点で、問天は2022年春ごろ、夢天は2022年の夏ごろに打ち上げが予定されており、夢天の結合をもって、ひとまず「完成」とされている。巡天は2024年ごろに打ち上げられる予定となっている。

なお、ミールやISSのように増築も可能とみられ、巡天の打ち上げ後も、追加のモジュールを打ち上げるという構想も出ている。

6月には早くも宇宙飛行士の滞在がスタート

問天、夢天の打ち上げに向けた準備が進む一方で、天和のみでも宇宙ステーションとしての機能をもつことから、中国では早くも運用を行う計画を立てている。

まず5月20日ごろには、無人補給船「天舟二号」を打ち上げ、天和と自律的にドッキング。食料や実験機器などの物資を送り届ける。

続いて6月10日ごろには、3人の宇宙飛行士を乗せた「神舟十二号」を打ち上げ、天和とドッキング。約3~4か月滞在し、機材の立ち上げや設定をしたり、天舟二号から物資を取り出しと、宇宙生活に向けた準備を整える。その後も天舟は、半年に1回ほどのペースで打ち上げられ、物資を定期的に送り届けるとともに、ステーション内で出たごみの処分も担う。

この神舟十二号には、聶海勝宇宙飛行士、鄧清明宇宙飛行士、叶光富宇宙飛行士の3人が搭乗する予定となっている。聶氏は、2005年に神舟六号で、2013年に神舟十号で宇宙を飛んだ経験のあるベテランで、鄧氏と叶氏は今回が初の宇宙飛行となる。

天舟補給船と同じく、神舟宇宙船も定期的に打ち上げられ、長期滞在する宇宙飛行士をローテーションさせる。

なお、昨年10月には、新しい宇宙飛行士の候補者18人が選抜されており、宇宙ステーションへの長期滞在に向けて訓練が続いている。従来、中国の宇宙飛行士は空軍のパイロットのみから選ばれていたが、この新しい宇宙飛行士候補には民間の技術者、科学者も選ばれており、宇宙ステーションの運用や、研究や実験を行うことを強く意識した人選となっている。

●米国・民間とロシア、中国 - 3基の宇宙ステーションがもたらす未来
中国の有人宇宙飛行の歩みと展望

中国の有人宇宙飛行への取り組みは1992年から始まり、開発の「3段階戦略」を定めた。

このうち第1段階では、有人宇宙船を打ち上げ、その技術を確立すること。第2段階では、船外活動や宇宙でのランデヴー・ドッキングの技術を確立すること、そして宇宙ステーションの試験を行うこと。そして第3段階では、宇宙ステーションを構築し、より大規模な宇宙利用のためのソリューションを長期的に提供することを目的としている。

この戦略に従い、まず神舟宇宙船とそれを打ち上げる「長征二号F」ロケットの開発と、無人での飛行試験を経て、2003年に楊利偉宇宙飛行士が乗った「神舟五号」で初の有人飛行に成功。以来、これまでに6回の有人ミッションを実施し、宇宙飛行や船外活動などの実績を積んできた。

そして2011年には、宇宙ステーション実験機「天宮一号」、2016年には「天宮二号」を打ち上げ、神舟宇宙船で宇宙飛行士が訪れたり、補給船をドッキングさせたりし、宇宙ステーションの構築に向けた経験を積み上げてきた。

そのうえで、宇宙ステーションのモジュールを打ち上げるための超大型ロケット「長征五号」や、宇宙ステーション補給機の天舟、そして天舟を打ち上げる新型ロケット「長征七号」などの開発、打ち上げ試験も行ってきた。

これら第1、2段階ともに、開発や実施に10年以上かけており、中国の慎重さが現れている。

こうした準備を踏まえたうえで、中国はいよいよ第3段階となる宇宙ステーションの構築に乗り出した。これにより、中国の有人宇宙活動は新たな時代に入った。そして、人間の宇宙滞在や、宇宙でのさまざまな実験や研究が、質、量ともに向上するという点で、人類全体にとっても大きな利益がもたらされることになろう。

さらに中国は、神舟の後継機となる新型宇宙船の開発を進めているほか、月面基地の建設構想も明らかにしている。中国宇宙ステーションで培われた技術や実績は、こうした月、火星、さらにその先の宇宙の有人探査に向けた礎にもなるだろう。

軌道上に3基の宇宙ステーションが存在へ

中国宇宙ステーションが打ち上げられたことで、現在軌道上にはISSと並び、2基の宇宙ステーションが存在することになる。また、ロシアは2025年にも独自の宇宙ステーションを打ち上げる計画を発表している

ISSはモジュールの老朽化もあり、2028年~30年ごろまでで運用を終える見通しとなっている。ただ、2020年代の中盤ごろから民間に運用を委託する構想があり、また米国の民間企業アクシアム・スペース(Axiom Space)が、独自の商業用宇宙ステーションを打ち上げるという構想もある。同社ではまずISSに新しいモジュールを結合させて運用し、ISSの廃棄後は自社のモジュールのみ独立して運用するという計画を立てている。米国の民間ではこのほかにも、独自のステーションを打ち上げる構想を打ち出しているところが数社ある。

したがって、2020年代の後半から30年代にかけて、3基の宇宙ステーションが地球のまわりに存在することになる。

これにより、まず中国とロシアにとっては、ISSと並ぶ地球低軌道における実験場所を提供できるようになることで、国際プレゼンスを発揮することができる。事実、すでに中国は、国連宇宙部を通じ、世界各国を対象に、宇宙ステーションにおける実験テーマを募集している。

また、ISSしかない現状に比べ、宇宙での実験機会が約3倍となることで、新たな科学的知見の発見、イノベーションや産業への発展といった成果をもたらすことになるかもしれない。

ISS建造当時、その意義として、宇宙環境や微小重力環境を利用することで、高品質、高性能な半導体やがんの特効薬などが開発できると謳われてきた。現時点でそれほど目立った成果は出ていないが、その原因として実験機会の少なさやコストの高さなどが挙げられている。

しかし、宇宙ステーションの数が3倍に増え、また民間の参入などによって価格競争が進めば、そうした障壁がいくらかは取り除かれ、これまで以上にさまざまな実験が行えるようになるかもしれない。そして、実験機会の増加は、イノベーションや実用化の可能性を引き上げることにもなろう。

こうした地球低軌道の情勢の変化は、当然他国にも影響がある。米国や日本、欧州などは現在、月の軌道に宇宙ステーション「ゲートウェイ」を建造する計画を進めているが、ISSの代わりになるものではない。ただ、アクシアムのような米国発の民間企業が存在感を発揮し続けることで、米国としてのプレゼンスが失われることはないだろう。

欧州宇宙機関(ESA)は中国の有人宇宙活動への参加に関心を示しており、ESAの宇宙飛行士が中国語の勉強を始めているほか、無人で打ち上げられた「神舟八号」にドイツの実験装置が搭載されたこともある。さらに、鄧宇宙飛行士がESAを訪れ、共同訓練に参加するなど、交流も盛んだ。いずれESAの宇宙飛行士が中国宇宙ステーションを訪れることもあるかもしれない。

一方日本は現在、ゲートウェイに参画する一方、低軌道での有人活動については、ISSの運用終了後もなんらかの形で続けることが検討されている。

もっとも、日本は独自の有人宇宙船をもっておらず、自律性のなさが足かせとなる可能性もある。基本的には米国などの民間宇宙船のシートを購入して利用することになろうが、必要な時期に確保できるかはわからない。独自の宇宙船をもつ米国やロシア、中国はもちろん、中国と共同する欧州と比べても、活動の量や質でやや劣ることは否めない。日本も独自の有人宇宙船を持つべきか否か、あらためて議論を行うべきであろう。

その一方で、日本は現在、新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」を技術実証のためのプラットフォームとして活用し、小型衛星の放出や、ISSから離れた環境での与圧実験など、先進的技術の実証実験を行うことを計画している。有人の宇宙ステーションと比べると、搭載できる機器は小さく、また宇宙飛行士がいないことで不便なところもあるものの、逆に無人であることを活かした尖ったミッションの実施などで、唯一無二の成果を上げることができるかもしれない。

人が宇宙に行くことがお祭り騒ぎだった時代は終わり、ISSにはつねに複数人の宇宙飛行士が滞在し、そして世界各国と民間は、それぞれ独自の動きを見せ始め、まもなく宇宙ステーションの数も、そして宇宙に滞在する宇宙飛行士の数も、かつてないほど増えることになる。この新たな時代を前に、なにが日本にとって、そして人類全体にとって最適なのか、いま一度考える必要があるのではないだろうか。

○参考文献

・http://www.cnsa.gov.cn/n6759533/c6811969/content.html
・http://www.cmse.gov.cn/fxrw/kjzthhxcrw/zhxw/202104/t20210429_47774.html
・China launches space station core module Tianhe - CASC
・China Space Station and its Resources for International Cooperation
・地球低軌道における2025年以降の有人宇宙活動に関するこれまでの議論の整理 令和2年2月18日 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

鳥嶋真也

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