文系もシニアも宇宙飛行士に? JAXA13年ぶりの新規募集に見る覚悟

文系もシニアも宇宙飛行士に? JAXA13年ぶりの新規募集に見る覚悟

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/02/24
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「日本人宇宙飛行士の活動は地球低軌道以遠から、月、そしてその先へと展開する新しい時代の幕開けに我々はいま立っています。この時代を見据えてJAXAは、新たな宇宙飛行士を募集します」(若田光一)

JAXAは2021年秋から宇宙飛行士候補を募集する。過去には毛利衛や野口聡一などがこの入り口に立ち、宇宙へと足を踏み入れた。13年ぶりとなる今回の新規募集では、応募条件の大幅な緩和が検討されている。つまり、私たちが宇宙に行ける可能性が格段に上がるかもしれないのだ。

新規募集では、文系の大学・大学院、短大、高専、専門学校卒業者も応募を可能にする案も。文系にも門戸が開かれることとなればこれは大きなポイントで、これまでは理系の大卒者が条件であったため、医師や技術者、パイロットといった職種から宇宙飛行士になる人が多かった。

さらに、これまでは宇宙飛行士に選抜された後は10年以上のJAXAへの勤務が条件だったが、見直し案ではその後のキャリアに幅をもたせることが検討されている。それが実現すれば、宇宙産業に留まらず、より広い分野へ宇宙での体験やスキルを共有することができるということだ。

門戸が広がるかもしれない宇宙飛行士への道。これによって宇宙への新たな見方が生まれてくるだろうか。

冒頭の若田の言葉は、新規募集の見直し案の発表に合わせて開かれた、JAXAのオンラインイベントの冒頭で述べられたものだ。JAXA関係者のほか、極地建築家や人事・キャリア研究者、TVクリエイターなど、多様な分野のプロフェッショナルたちが、今後の宇宙飛行士に求められることを幅広く議論した。

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これからの宇宙飛行士には「発信力」が求められる

これからの宇宙飛行士に必要な素質を聞かれると、まず宇宙飛行士でJAXA特別参与の若田光一は「よりフレキシブルさが求められる」と答えた。

今回選抜される宇宙飛行士は、月に行くことが予想される。そのためこれまでよりも輸送距離が長くなり、地球との通信も難しくなるかもしれない。そんななかでも冷静で柔軟な対応を取れるのか。また、技術面のスキルだけでなく、多くの国からの新たな仲間とチームを組むことができるか、柔軟性が求められるという。

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イベントに登壇した若田光一

これまで南極やヒマラヤ遠征隊など、極地の生活を踏査してきた極地建築家の村上祐資はこう話した。

「訓練だけでは対応できない想定外を極力想定内にしておくこと。一瞬起こる有事に、判断の速さや深さが必要です。有事は選択肢が1つだと逆に危険なので、最後まで選択肢を捨てず、平時に必要な選択しておくことです。あと宇宙に行くと仕事も職場も生活も遊びも、閉鎖された空間で同じ人と行うことになる。有事に余計な感情移入があるとみんながパニックになってしまうので、仲良しと仲間は違うと理解することも必要です」

また、2012年度のNASA宇宙飛行士選抜で、全米18300人の中からトップ100に選ばれ、現在はNASAの地球外物質探査科学部門に在籍する中村圭子は「研究者の視点としては、自分の実験を宇宙でやってもらうことになるので、安心して任せられるような信頼の置ける人になってもらいたい」と語った。

ではJAXAが求める理想の宇宙飛行士像とはどのようなものだろうか。

協調性とリーダーシップを発揮できるか、極限環境での活動でも的確な判断と行動ができるか、そして宇宙での経験を人々と共有する発信力があるか、などの項目を挙げ、JAXA有人宇宙技術部門事業推進部長の川崎一義は、特に3つ目の「発信力」を重視していると話した。

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これまでは晴れて宇宙飛行士に選抜されると、合格してから10年以上、JAXAに勤務することが必須条件だった。しかし今秋からは、採用後の職制の多様化が検討されている。実際、他国の宇宙飛行士の引退後のキャリアを見ると、教員になる人もいれば政治家を目指す人など、さまざまだという。

文系にも門戸が開かれた場合に、領域の専門家でない人が応募することへの不安について尋ねると、若田はアメリカでの例を挙げてこう話した。

「多様性はチームの能力を向上するために重要です。アメリカでは小学校の先生を飛行士に採用することで、下降傾向のSTEM教育の水準向上を図るなどもしています。教員の中での宇宙への意識を高めることが、結果的に理科教育の向上に繋がるのです。飛行後のキャリアがより明確になっていれば飛行中にできることも広がる。そういう考え方もあるかなと思います」

理系だけでなく文系にもチャンスが与えられ、さらには引退後のキャリアにも広がりをもたせることが実現すれば、宇宙飛行士は宇宙産業の中だけの存在ではなくなり、社会全体に刺激を与えるような存在となりうるのだ。

日本ラグビーフットボール協会専務理事、男子7人制日本代表ヘッドコーチの岩渕健輔も、これからの社会に求められる宇宙飛行士像について、こう述べた。

「宇宙飛行士というと特別な存在のように思ってしまいますが、社会に出ると職種ではなく、1人の人間としてどう社会を作っていけるかが大切なことです。宇宙にいくのが当たり前になるほど、宇宙での経験や考えを共有できる力が必要になるし、それが社会にとっても大切になっていくのだと思います」

盛り上がれ、日本の宇宙熱

しかし現状、日本では宇宙飛行士選抜への応募が他国と比べてかなり少ないという。

各国の前回募集時のデータでは、アメリカは約12000人の応募が、欧州やカナダでも1500倍以上の倍率なのに対し、日本では1000人ほどの応募数となっている。

見直し案が検討されるタイミングで、日本の宇宙産業を盛り上げていきたいところだ。そのためにはどのような試みが必要か。

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TVクリエイターとして「世界の果てまでイッテQ!」などを立ち上げた日テレ アックスオン代表取締役社長の加藤幸二郎はこう語った。

「この募集はとてもワクワクすること。このワクワクをどれだけ広げられるかです。例えば昨年社会現象となったNizi Projectでは、応募条件を極限までなくしたことで、1万人以上の応募者が集まりました。また、番組を超えて芸能界からも明確な応援者を名乗る人がいたことで彼女たちがすごくよく見えた。さらには選ぶ側にもスター性があり、落ちたことに納得できるような番組の作り方でした。

宇宙飛行士を目指すような人たちが俺もやれるんじゃないかと思える枠組みを用意し、さらにそのなかで選ばれるということはどれだけ夢があることかを、見せられるか。宇宙開発は可能性にかけることです。だから最初から受かるかどうか計算するのでなく、可能性にかけるような気持ちが宇宙開発とリンクしていくのだと思います」

また、漫画「宇宙兄弟」を大ヒットに導き、現在はコルク代表取締役の佐渡島庸平は「JAXAがやる選抜って全て本物で本質的で、真剣にワクワクする思いの結晶です。なのでバズらせようと思わなくても、みんなが話題にできるようにオープンにすることで自然とその中からストーリーを見つけて語り出す人が出てくると思います。今回選抜される人はリアル日々人(「宇宙兄弟」の主人公)だと、大盛り上げさせてもらおうと思っています」と話した。

また、選抜挑戦後のキャリアを思い描ける環境を整えることも求められる。例えば受験者が所属する団体と連携することで、受験者の能力を活用し、団体として新たな展望が描けるようになるかもしれない。

前回の宇宙飛行士選抜ファイナリストの内山崇は、自身の経験からこう語った。

「前回のファイナリストたちと、せっかくファイナルまで残ったのにその後なにもないのはもったいないよね。選抜を経るなかで培ったスキルやマインドをなにか有用に使えないのだろうかという話がでました。受験者もJAXAも、受験者が所属する所もウィンウィンになるようなキャリアシステムがあったらいいなと思います」

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それに対して佐渡島は、「副業や兼業ができるいまの時代はオンラインなどでゆるく繋がることができます。宇宙兄弟でも選抜に落ちた人が民間のロケット企業に行って、六太(「宇宙兄弟」の主人公)たちを助けるシーンが感動的に描かれていて、そういうことが起こればいいな」と語った。

さらに、リクルートワークス研究所主任研究員の中村天江は、近年企業で行われている学習システムを、宇宙飛行士選抜の過程にも応用することができるのではないかと話す。

「ここ数年普段の職場や人間関係の外にも学びがあるとして、企業が越境学習を推進する動きが見られます。宇宙に関わる職につきたい人はたくさんいると思いますが、そういう人たちにとっては選抜を受ける期間そのものが最高の越境学習になると思うので、そういうシステムがあることを企業に伝えられたらいいと思います」

漠然とした夢が目標に。何度でも諦めない人を待っている

今回の見直しでは、今後5年に1度宇宙飛行士選抜を行うことも検討されるという。いまから私たちが準備できることはあるだろうか。

NASAの地球外物質探査科学部門に在籍する中村圭子はこう語った。

「NASAでは希望者は誰でも、なぜ落ちたのかのフィードバックをもらえます。さらにNASAは繰り返し応募している人を把握していて、諦めない人、積極的にトライする人を選んでいると聞いています。JAXAも5年に1度選考をするようになった場合、諦めずに5年ごとに帰ってくる人をトラックできるようになればいいなと思います」

また、若田は特に子どもたちに向けてこう話した。

「多様性こそがイノベーションを生みます。自分が心地良いところに留まっているのではなく、自分の殻を破って外に出て、知らない領域の人と話してみることを常に心がけてもらいたいです。それが技術革新にもチームの向上にも繋がります。

宇宙飛行士の素質の根幹になるのは、チームプレイや冷静な判断、苦境を乗り越えるためにユーモアを忘れずに考えること。でもこれは宇宙飛行士だけじゃなくて普段の生活やどんな仕事でも必要なことですよね。宇宙飛行士はそれを常に行うことを訓練されていますが、それを共有できる能力もこれからは必要です」

前回選抜を受けた立場から、内山は今回の見直しへの熱い思いを語った。

「次の宇宙飛行士選抜は、いろいろことが大きく変わろうとしています。5年間隔で継続的に選抜することは受験者の立場からすると夢のようなことで、これまでいつやるかわからない漠然とした夢だったものが、人生設計上に計画して目指せる、目標に変わったと思うんです。みなさまからも選抜プロセスや育成プログラムについて広くご意見を頂けたらと思っています」

JAXAではこの新たな取り組みについて、検討案や選抜、基礎訓練に関する意見を3月19日まで募集している。

また、宇宙飛行士の募集・選抜、基礎訓練に活用できる民間事業者のノウハウやアイデアも情報提供を呼びかけている。

より柔軟に、より多様に。新しい宇宙時代の幕開けが近い。チャンスは広く開かれている。宇宙への一歩を踏み出すかは、あなた次第だ。

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