バイデンは中国の手先? 日本で「陰謀論」に騙される人が急増した「深刻な実態」

バイデンは中国の手先? 日本で「陰謀論」に騙される人が急増した「深刻な実態」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/11/20
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バイデン前副大統領が勝利をおさめた2020年の米国大統領選挙では、世界中の報道機関やインターネット企業が、1つの敵と戦っていた。それは「陰謀論」だ。

いわゆるフェイクニュースやデマの跋扈は、過去の大統領選や新型コロナウイルスでも問題となったが(参照「新型コロナ、世界中の人々が『悪質デマ』に踊らされる構造」)、今回は単なるフェイク・ニュースというよりも、より大きな物語を背景とするような陰謀論が飛び交う事態となった。

そして驚くべきことに、大統領選に関する陰謀論は日本でも広く聞かれたばかりか、必死にそれらを擁護する人が続出した。一体なぜ、大統領選に関する陰謀論が、遠く離れた日本で広まったのだろうか。そして、それらはどのような問題を抱えているのだろうか。

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〔PHOTO〕gettyimages

世界が驚いた「日本のトランプ支持層」

今回広まった陰謀論は枚挙に暇がなく、世界中の報道機関などが選挙前から様々な対策を講じており、世界中の記者が今でも根気強くファクトチェックをおこなっている。こうした陰謀論の多くは、トランプ陣営から生み出されており、トランプ大統領の敗北を受けて、選挙の不正などを訴えている。

こうした中、トランプ支持の声や大統領選に関する陰謀論が、日本でも広がっていることに国外から注目が集まった。

しかし、日本におけるトランプ支持者の数は、それほど多いわけではない。NHKが2020年におこなった世論調査によれば、「今年の大統領選挙でトランプ大統領が再び当選した場合、日本にとって良い影響と悪い影響のどちらが大きいと思いますか」という質問に対して、「悪い影響が大きい」と答えた人は57.0%にのぼり、「良い影響が大きい」の10.3%を大きく上回った。

ウィリアム・スポサト氏は、日本の「保守的なコメンテーターはバイデン氏を嫌っている」と述べつつも、「彼らは少数派」だと指摘する。

では、この「少数のトランプ支持者たち」は、どのような人々なのだろうか。後述するが、こうしたトランプ支持者や陰謀論者は、いわゆるネトウヨ(ネット右翼)と重なっている可能性が高い。

そのことを端的に表しているのが、バイデン氏が中国寄りの立場、あるいは中国と結託しており、その利益のために動いているという言説だ。これは米国から派生して、日本でも広く拡散した代表的な陰謀論の1つだ。

バイデン氏が中国寄りであるという主張は、トランプ陣営によって大々的に喧伝された。

こうした主張は、日本において「バイデン氏のために中国から偽造免許書が届き、不正な票が集まっている」や「バイデン氏の選挙担当者が」など具体的な陰謀論となり、まとめサイトに繰り返し登場した。

また右派論壇の中にも、まとめサイトに掲載されたデマについて、TV番組やYouTube動画などで紹介する論者が多く見られる。

こうして、バイデン氏と中国に関連する話題は、いわゆるネトウヨ層がよく閲覧すると言われるまとめサイトなどを中心に広く流布する陰謀論になったと見られる。(参照「日本でも大量拡散したバイデン氏の『不正』めぐる情報。まとめサイトや、新興宗教系メディアが影響力か」)

もしネトウヨがその拡散者であるならば、彼らの影響力は無視しても良いのだろうか? いくつかの研究(たとえば樋口直人ら『ネット右翼とは何か』2019年、青弓社)によれば、ネット右翼の割合は、ネット人口のわずか1〜2%だと言われている。わずか数%程度の極端な言説やデマは、現実世界に影響を及ぼさない、取るに足らない現象なのだろうか?

無視できない「陰謀論の影響力」

個人的には、そう思わない。

なぜなら、こうした陰謀論を拡散したり、積極的に主張するほどではなくとも、何らかの陰謀論を耳にしたり、選挙の不正を疑ったり、あるいは中国への疑念や嫌悪感を持ち、報道機関やニュースに不信感を抱く人々は、相当数にのぼる可能性があるからだ。

そもそも、デマや陰謀論、差別的な発言などを堂々と繰り広げるトランプ大統領の支持者は、米国で決してマイノリティではない。今回の選挙でトランプ大統領は、前回よりも800万票も積み増した7100万票台を獲得しており、2008年のオバマ前大統領を上回っている。すなわち、国の半分は未だにトランプ大統領を支持しており、彼の主張は一定程度まで受け入れられている。共和党支持者の52%は、正当な勝利者はトランプ氏だと考えているという調査結果もある。

そして、日本は先進国のなかで最もトランプ大統領を信頼しているというデータもある。米ピュー・リサーチ・センターによれば、日本人の25%がトランプ大統領を信頼しており、調査された13ヵ国の中で最も多い。

トランプ大統領を信頼する人々が、すべて陰謀論やデマを信じているとは限らないが、その素地は十分にあると言える。

こうした点を念頭に置いた上で、日本におけるバイデン氏と中国に関連した陰謀論は決して無視できる状況ではない。

まずバイデン氏と中国を関連づけた言及は、選挙日の前後で急増している。

例えば、Yahoo!リアルタイム検索で過去30日間の「バイデン 中国」というキーワードを見ると、選挙が行われた11月3日前後から増加しており、バイデン氏が勝利演説を行った日本時間8日には急増していることがわかる。

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またGoogle Trendsにおいても、過去30日間で見ると選挙日にかけて「バイデン 中国」の検索が増加している。

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また、Googleのサジェスト機能(検索ボックスで、ある単語と一緒に検索されている単語が自動でオススメされる機能)や共起語(ある単語が言及される際に、一緒に言及される単語)を調査するツールを使って調べると、「バイデン」と「中国」が同時に調べられていることがわかる。

選挙日前後に、バイデン氏と中国を結びつけるキーワードが増加していることは興味深いが、絶対数としてはどうだろうか。

SNSなどでシェアされたコンテンツの広がりを確認できるツールのBuzzSumoによれば、日米両国における「バイデン 中国」と「Biden China」というキーワードの検索動向は、以下の通りだ。

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ポイントは大きく2つある。

まず、両者ともに検索回数のピークが今年8月となっている。そして驚くべきは、日本で月間約6600回検索されている「バイデン 中国」の検索回数が、米国で月間約3600回検索されている「Biden China」を上回っていることだ。

今年8月といえば、バイデン氏の息子であるハンター・バイデン氏と中国の関係を批判するトランプ陣営の政治広告が開始された時期だ(参照「Trump campaign to target Hunter Biden in digital ad blitz」)。

また国家防諜安全保障センターのウィリアム・エヴァニナ氏によって、「中国がトランプ再選を望んでいない」という分析結果が公表された時期でもある(参照「Statement by NCSC Director William Evanina: Election Threat Update for the American Public」)。

こうしたトランプ陣営の広告出稿や批判の増加などに合わせて、人々がこの話題に関心を持っている事実は驚くことではない。しかし問題は、こうした話題が日本で関心を持たれ、米国に匹敵する検索行動へと繋がっている点だ。

BuzzSumoの分析結果は、十分なデータが揃っていないことや、リアルタイムで事象が進行していることなどを考えると、多少なりとも正確性に欠けるかもしれないが、少なくとも「バイデン 中国」が「Biden China」と同程度まで検索されている可能性は高い。

加えて注目すべきは、「バイデン 政策」や「バイデン トランプ」、「アメリカ大統領選挙 予想」などのキーワードに比べて、「バイデン 中国」の検索回数が圧倒的に多いことだ。

こうした事実から考えると、バイデン氏の政策や大統領選挙それ自体ではなく、バイデン氏と中国の関係のみに関心を抱いている人々が、少なからず存在することがわかる。

「バイデン 政策」の検索回数よりも、「バイデン 中国」の検索が格段に多いことを考えても、バイデン氏の外交政策や東アジア政策などにもとづいて、中国との関係に目を向けているのではなく、陰謀論が念頭にあることは想像に難くない。

より大きな問題は、「バイデン 中国」と検索したり、SNSでコンテンツに触れたりしたとき、それらのほとんどが陰謀論の類であるということだ。

今年1月から選挙前までのSNSで高いエンゲージメントを誇った「バイデン 中国」関連の記事を見ると、上位記事の多くがいわゆる「まとめサイト」やYouTubeの真偽不確かな情報源だ。関心がピークを迎えた8月からは、この上位に産経新聞の記事が加わる。

すなわち選挙前から「まとめサイト」によって拡散されていた「バイデン 中国」関連のトピックは、米国での関心の高まりと合わせて日本でも検索回数が増え、その背景には大手報道機関による記事の拡散もあったことが予想される。

「バイデン 中国」の陰謀論をまとめサイトで知って、大手報道機関で似たようなトピックが取り上げられていた場合、その陰謀論自体が事実だと誤認する人もいたかもしれない。

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副大統領時代のバイデン氏〔PHOTO〕gettyimages

このように、「バイデン 中国」に関連するコンテンツの拡散動向を見てみると、2つの仮説が見えてくる。

まず、こうしたコンテンツを拡散する人々は、バイデン氏の政策などに関心を持っているわけではなく、中国に関連するトピックに関心がある可能性が高い。その上で彼らは、まとめサイトや産経新聞の読者と重なっている可能性がある。

言い換えれば、大統領選挙に関心を持つ人々が、たまたま目についた陰謀論に反応したというより、もともと中国などの動向に関心を持つネトウヨや右派論壇のオーディエンスが、大統領選に合わせて生まれてきたコンテンツに反応していると考えることができる。

これは前述の「ネトウヨがトランプ支持にもとづき陰謀論を拡散」している仮説と整合的ではあるが、選挙日前後により多くの関心を集めていることを考えれば、それ以外の人々にまでコンテンツが拡散している可能性も高い。

実際、「バイデン」という単語が見出しに含まれる過去1年間にアップされたネット上の日本語記事のうち、トップ100記事のうち、35個はまとめサイトの記事だったという調査結果もある(参照「日本でも大量拡散したバイデン氏の『不正』めぐる情報。まとめサイトや、新興宗教系メディアが影響力か」)。

コンテンツに触れた人々が、極端な排外主義や陰謀論を主張する1〜2%にはならずとも、トランプ大統領を信頼する25%として、選挙結果やバイデン氏に何かしらの疑念を抱く可能性は十分にある。

深刻な「メディア不信」問題

加えて、ニュースや報道機関への不信感も問題だ。世界的に、報道機関は信頼されていない。

日本において、ニュースを信頼している人は37%にとどまり、過去5年間で約10ポイント低下している。米国の29%よりは高いものの、世界平均の38%とほとんど変わらない位置にある(参照「Executive Summary and Key Findings of the 2020 Report」)。

オンラインには陰謀論が溢れており、ニュースの見出しに「トランプ大統領が選挙の不正を訴えた」と記されている状況を考えれば、その不信感がますます加速することは明白だ。見出しのみを閲覧した人々は、選挙そのものに何かしらの問題があるという印象を受けるかもしれない。

こうして1〜2%よりも多くの人々が、バイデン氏に何かしら疑念があり、中国と後ろめたい関係がある可能性を考えても、決して責められる話ではない。

バイデン氏と中国との関係については、虚実ないまぜな陰謀論が問題をより難しくしている。

例えば、バイデン氏の息子が中国企業に投資していたことは事実だが、「尖閣諸島での中国の軍事的圧力強化を黙認する見返りに、息子が10億ドルを中国から受け取った」ことや「中国から米国大量の偽造運転免許証が出荷、バイデン氏が不正選挙に利用」などは全てデマだ。

一般的な陰謀論の特徴でもあるが、一部の事実を改変したり、事実と関連する嘘が混ぜ込まれることで、人々が信じやすい構造ができあがる。

念の為付け加えておくと、専門家や当の中国ですらも、バイデン氏が大統領に就任することで米中関係が改善するとも、友好的な政策が取られるとも思っていない(参照「Would Biden get 'tough' on China?」)。

バイデンが専門家に頼った外交を展開するため、「緩衝期」を迎えるという見方もあるが、米中関係の大きな方向性は変わらないと言われている。

掘り崩される民主主義

以上のように、陰謀論が日本でも広がり、それが一部のネトウヨ以外の人々にも拡大していく危険性がある中で、それらを「限られた人が吹聴する荒唐無稽なデマ」として片付けるわけにはいかない。

たしかに極端な言説や排外主義などを吹聴する人々は、全体の1〜2%に過ぎないかもしれないが、彼らが拡散するデマは、そう遠くないうちに強大な影響力を持つだろう。

TwitterやGoogleをほんの少し検索してみるとわかるが、いまや陰謀論やデマの数は信じられないほど増大している。我々は忙しい毎日を送っており、1つひとつの情報を精査して、熟考する余裕などない。そこに繰り返し陰謀論が登場すれば、それを頭から信じることはなかったとしても、何が事実か判断できない状況が生まれるのは当然だ。

陰謀論は、報道期間や政府への不信感を増幅させる力強いツールとなっており、「不正のない選挙」や「正しい情報に基づく候補者選び」などを前提とする民主主義を掘り崩しつつある。

「賢い人々」からすれば唖然とするような陰謀論は、近い将来の日本に間違いなく暗い影を落とすことになるだろう。

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