嫁いだ姫の元にいるはずの犬が、必死で持ち帰ってきたものは...

嫁いだ姫の元にいるはずの犬が、必死で持ち帰ってきたものは...

  • 幻冬舎ゴールドライフオンライン
  • 更新日:2022/01/15
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―羅技の歌―

幸姫! そなたの歓びは我の歓び。そなたの哀しみは我の哀しみ。我は誓う! そなたが幾久しく平穏で笑顔を絶やすことがなき様、そなたの名前「幸(さち)」の通りに幸せに日々が過ごせる様に我は全身全霊を込めてそなたを護る。

羅技の心の唄

我が我である為に我の心に在る全てをそなたに託そう! 我は一心にそなたの幸のみを願う! 幸姫! そなたは我の分身であるのだから!

夕餉を終えた羅技は部屋に戻り、日送り帳に本日の所見を書き写していた。ふと、床に目をやると、花入れに活けた花が昨日のままであるのに気付いた。

「ふっ! 紗久弥は来なかったか……」

その時、突然、重使主が部屋へ駈け込んで来た。

「そなたは我の言い付けを忘れたか? 何時も言っていたであろう。日が落ちたら我の部屋に入って来るなと。急用が在れば部屋の外から声を掛けよと。それなのに、履物も脱がず、いきなり部屋へ飛び入るとは」

「ら、羅技様……無礼は重々承知しております。が、しかし……」

重使主は身体を震わせ、外を指差した。

「ん?」

重使主が指差す先を見ると、そこには身体中傷だらけになり、激しく息をきらして今にも倒れそうな風神丸の姿があった。

羅技は部屋から飛び出ると、風神丸の身体を抱きかかえた。

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「風神丸。この姿は如何したというのだ……。そちは幸の傍から離れず居るはずであるのに」

風神丸は弱弱しく首を上げ、首輪に結わえてある布包みを見せた。

羅技は、見覚えのある布で包まれている包みを見て、目を見開いた。恐る恐る開けてみると、中には長い髪の毛の束と文が包まれていた。

羅技は身体を激しく震わせ、髪の毛を包んでいる領巾をぎゅっと握りしめて文を読むと、同時に悲鳴にも似た叫び声を挙げた。

「うお~っ」

そこへ偶然、花を手向けにやって来た紗久弥姫が、叫び狂う羅技にしがみついた。

「兄上様?」

「保繁の奴め、許さぬ。やはり我の思う通りであった。あちらこちらに卑劣な手口で戦を仕掛け、次々とムラや里を襲って己が里を大きくしている阿修の保繁が、我が小さき龍神守の里と友好を結ぶなど、我は疑念を抱いた。友好の親善だと偽りを言って、奴は里の様子を探りに来たのだ。まんまと策略に落ちてしまった。里に入れるべきではなかった。そして何より幸姫の婚姻に異議を唱えて、断固反対するべきであったのだ」

羅技の手に握られている髪の毛の束を見た紗久弥姫の顔は、サッと青ざめた。

「あ、兄上様……。こ、これは? この髪の毛の束は、もしかして幸姉上様の?」

羅技の目から一筋の涙が零れ落ちた。紗久弥姫に髪の束を渡すと、

「幸はすでに命絶えておる……」

と力なく言った。

束ねた髪を切るという行いは、自ら命を絶つという龍神守の里に語り伝えられし理(ことわり)だった。それも、姫達が嫁ぎし先に謀反の企てがあり、逃げ出せない状況に陥った時や、その企てに加担せざるを得なくなったら龍神守の里の血を守る為に決断しなければならなかった。

「我はこのことを急ぎ、父上に知らせに行く。お前は姉上の居る神殿へ行きなさい」

羅技は父親の居る館へ走って行った。

仲根は風神丸を抱きかかえると、羅技の後を追った。

紗久弥姫は領巾に包んだ幸姫の髪の束をぎゅっと抱き締め、大声で泣きながら神殿へ駆けて行った。

玉野のももたろう

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