
病気を予防するために、欠かせない「健康診断」や「がん検診」。それ以外にも、「人間ドック」に興味をお持ちの方も、多いのではないでしょうか? そこで、意外と知られていない「健康診断」と「人間ドック」の違いについて、山田悠史先生に聞きました。
教えていただいたのは……

山田 悠史
米国内科・老年医学専門医。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。新型コロナ専門病棟等を経て、現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビライブニュースαレギュラーコメンテーター、NewsPicksの公式コメンテーター(プロピッカー)、コロナワクチンの正しい知識の普及を行うコロワくんサポーターズの代表。カンボジアではNPO法人APSARA総合診療医学会の常務理事として活動。著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。
Twitter:@YujiY0402
編集:「健康診断」と「人間ドック」ですが、そもそも違いをきちんと理解しておらず……。まずは「健康診断」について、あらためて教えていただけますか?
山田:はい。まず、毎年受けている方も多い「健康診断」というのは、その実施が法律で義務づけられているものです。「事業者は労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならず、労働者は、事業者が行う健康診断を受けなければいけない」としており、年齢により若干の違いがありますが、11項目が労働安全衛生規則で定められています。
一度でも「健康診断」を受けたことがある方はなんとなくイメージができると思いますが、血液検査や胸部エックス線検査、身長、体重、腹囲、尿検査、心電図検査など、健康に異常がないかをざっくり知るために使われるのが、この健康診断です。
一方で、「人間ドック」に法的義務はありません。「人間ドック」を受ける判断は、個人に委ねられています。
編集:なるほど!
「健康診断」の意義を、あらためておさらい!
山田:そして、「健康診断」というと「健康を診断してくれるもの」と誤解されることも多いかもしれませんが、そうではありません。
「健康診断」はあくまで「健康状態を大雑把に調べる」ためのものであり、このような検査は「スクリーニング検査」と呼ばれています。
「スクリーニング」というのは、症状のない人から病気を拾い上げることを指します。異常を「拾い上げる」だけで「診断」ができるわけではないので、健康診断で異常が出たら、必ず「二次健康診断」を受ける必要があります。
編集:少し、誤解していました。痛みなどがない場合、受診の必要性を感じることが難しいかもしれません。
山田:そうですね。検査で異常が出たからといって、必ずしも病気につながるわけではありませんが、「次のステップに進む」ということが非常に大切です。健康診断で見つかる「異常」は、ほとんどの場合自覚症状を伴わないため、当事者にとっては、病院に行く意義を見い出しにくいものです。けれど、5年後、10年後のあなたを病気から守る、未来への投資になりますので、症状がなくても病院を訪れていただきたいですね。
編集:「健康診断」を受けて、異常が出たら必ず受診する。徹底したいと思います!
山田:また、「健康診断」には含まれていない、地方自治体の事業として行われる「がん検診」も非常に大切です。「がん検診」は、比較的世界で構築されてきたエビデンスに基づいたもので、ほとんどの市町村で公費によりその費用負担がされており、一部の自己負担で受けられるようになっています。国が推奨している「がん検診」は5種類あり、「胃がん検診」、「子宮頸がん検診」、「肺がん検診」、「乳がん検診」、「大腸がん検診」と、それぞれ対象年齢が異なります。「健康診断」とあわせて、該当する「がん検診」を、きちんと受けていただく必要があります。
編集:40歳以上になると、該当となる「がん検診」が急に増える印象です。こちらも、欠かさずに受けたいと思います!
ちなみに、「健康診断」を受け異常を見つけたらきちんと受診し、さらに「がん検診」を受けていれば、「人間ドック」は受けなくてもよいのでしょうか?
「人間ドック」は、日本独特の文化?
山田:そうですね。基本的には、「健康診断」や「がん検診」を受けていれば、さらに「人間ドック」を受ける必要性は、必ずしもない、ということになります。実は、「人間ドック」というのは日本特有の文化で、アメリカ全土で広く推奨されているものではありません。
編集:なるほど。年齢を重ねると「人間ドック」の話題が出てくることも多いのですが、日本特有の文化である、というのは知りませんでした!
山田:「人間ドック」は「健康診断」と「がん検診」を含めて提供しているものも多く、「一度にまとめて受けられる」ということで、利便性が高いと感じられて、好まれているかもしれませんね。
編集:たしかに、便利ですよね! ただ、検査項目は多いなぁ、という印象です。
山田:そうですね。その検査項目の中には、根拠が確立されていないものや、必ずしも必要でないと思われる検査が、過剰に含まれている場合もあります。過剰検査の弊害も知っておいていただければと思います。
編集:たくさん検査項目があったほうが、「なんとなく安心」と思ってしまいますが……。
山田:「エビデンスがなくても、検査をするだけなら害がないのだからいいではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、検査をすることで一定の確率で「異常」と判定される方が生まれますよね。
そのような人は病院に行き、追加検査が行われます。検査は場合によって、体に負担がかかるもの、合併症の可能性もあるかもしれません。その分だけ、検査の合併症で苦しむ人が増えるわけです。また、検査にかかる経済的負担、検査で「異常」と判定されることにより生じる心理的負担もあります。
編集:なるほど……。「人間ドック」は便利ですが、過剰検査が含まれている場合もある、という視点を持つことも大事ですね。今日はあらためて、「健康診断」と「人間ドック」それぞれについて、あらためて詳しく学ぶことができました。「健康診断」で異常が出たらきちんと受診する、「がん検診」は欠かさず受ける、ということを徹底したいです。ありがとうございました!
写真 Shutterstock
構成/新里百合子

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山田 悠史